第8話:実は知ってたこと
翌日。
すごい、昨日まで重たかった足取りがものすごく軽い!!!!
背中に羽根でもついてるのか?! 瞬足を足に履いているのかもしれない。ローファー型の瞬足がだ!!
それもこれも全部ぜーんぶ、わたしに初めてのお友だちが、しかもふたりも出来たこと!
ちゃんと前世には友だちいたけど、今生では初めてのお友だち! 最高! 神様愛してる!!
もうハピエンでよくない? 実際わたしハッピーですし?!
さぁ選択の機会をくれ! なんの選択の機会なのかはさておきとして。
「お、美鈴さんおはよー!」
「ま、まゆさん?!」
浮かれていると背中から声がかかる。この女神のキスのように甘くあまーい砂糖のような声色は、この女ーーーーーーー!!!!
ゆるふわ女神、弥生まゆさんだー! ふー! かわいいぜわたしの友だち。
「まゆさんもびっくりだよー。通学路同じだったんだねー。バス通?」
「ば?」
「バス通学って意味だよ」
「わたしは歩き通ですよ」
だって家に近い高校の方が楽だし。電車とかバスとか。人目に付くのムリムリカタツムリです。
本当に乗ったら、今頃わたしの死体がバスの排気口から出てくることだろうね。はっはっは!
「家近いの?」
「それなりに」
「いいなー。今度遊びに行ってもいい?」
「……あそびにっ?!!!」
思わず飛び上がってしまった。
そりゃ自分の家に行くって言われたら、飛び上がっちゃうよ。部屋ものすごく汚いんだけど。あとアイドル時代のDVDとかCDとか残ってるし。
「ごめんね、迷惑だった?」
だが、この目の前にいるふわふわ女子の上目遣い!
身長自体はわたしの方が低いはずなのに、どうしてこんな芸当ができるんだ?!
この女、手慣れてやがる!
きっと『美鈴さん? あー、ちょろい女だよねー。最後にはお金を搾取してー』とかいうはず。
言うわけないでしょうがぁああああああああ!!!!!
まゆさんがそんな男慣れした最低の悪女だなんて、神や仏が許しても、わたしは許さんからな! 許さんからな!!
と、さんざん心の中で暴れていたので、そろそろまゆさんへの返事をしたいと思う。
とはいってもイエスかノーかと言われたら……。
「ちょ、ちょっと心の準備を……」
前世からも人を家に呼ぶことに抵抗があったのだ。
だからもっと、こう……。バリアの内側に入ってきてくれた時に来てほしい。1000%の力で歓迎するので。
「じゃあ整ったら教えて! いいもの持って遊びに行くから!」
い、いいもの……? それって、その。あれですか。
一度口にしたらやめられなくなって、まゆさんに会うたびに『あ、あれを……』って言いたくなるようなお菓子のこと……?
どうしよう。それは、まずいぞ。最終的にまゆさんに依存してしまい、貯金も何もかもまゆさんに渡して『えへへ、ごちそうさま!』って言うんだ! その時わたしは精魂尽き果てた見た目をしていて、体中びくびくさせながら『あへー』とか言っちゃうんだろうな。
何の妄想だよ。流石にまゆさんに失礼だわ。
「その時は尊花さんも一緒だね!」
「そ、そうだね!」
尊花さん、まるでわたしの介護役として生まれたような素敵女性。
でもちゃんとゲーム通りに過ごすのなら、これからクラスの委員長に立候補して忙しくなるはずだ。
そうでなくても、彼女はクラスのみんなと仲良くなる。わたしなんかに割くリソースはなくなっちゃうわけで。最推し、忙しくて会えないの辛すぎるー!
「何の話してるの?」
「おー、噂をすればなんとやらだ!」
「お、おはようございます、尊花さん!」
「おはよう! で、私をハブいて何をしてたの?」
ハ、ハブいてない! ハブかれるのならわたしがぴったりだ!
先ほどまでのあらましを説明すると、尊花さんは、ものすごいきらきらと目を輝かせた。
「美鈴ちゃんの家ってここから近いの?!! これはびっくりだ……。ふむふむ……」
ともすればいつの間にか取り出したペンとメモ帳で何かを書き始めた。メモ帳のタイトルは……うーん、字が汚くて分からない。
「何書いてるのー?」
「待って! 美鈴ちゃんはもちろん、まゆちゃんにも見せられない特級呪物だから、見ないで!」
「むむー、気になるけど尊花さんがそういうなら仕方ないねー」
気になる。特級呪物って、それ黒歴史ノートってことじゃないの?
自分のはいざ知らず、身内の黒歴史ノートは気になるが……。相手は天使。天使に牙をむくということは地獄に落とされてもいい覚悟を持つことだ。
それは嫌だ。わたしだって死後はいいところで過ごしたい。具体的には天国でまったり生活。そのためには、好奇心を殺せ。わたしは何も考えなかった。いいね?
「で、ですね! そういえば、今日はクラスの役員決めでしたっけ?」
「うむ! よくぞ言ってくれた美鈴ちゃん!」
ふんと、意外と大きな胸を張り上げて声高らかに宣言した。
「私は、クラスの委員長になります!」
……うん。実は知ってました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます