第7話:友達の距離感
陰キャというものは、9割の確率で迷惑をかけたのは自分のせいだと思い込む。
科学で証明されているとかそういうのではないけれど、相手のせいにして自分が嫌われるよりは、自分が悪かったと素直に謝った方が楽だからだ。少なくともわたしはそう。
だから2人が来た時も申し訳なさすぎて、顔を伏せてしまった。
「どうしたの? どこか怪我した?!」
「…………」
こういうとき、どういう顔をすればいいか分からない。
だってお友だちになろうって言われて、勝手に気絶したのはわたしだ。
迷惑をかけた人に合わせる顔がない。いつも通り、わたしは謝ることにした。
「……ごめんなさい。わたし…………」
「美鈴さん、ごめん!」
「……へ?」
大きな声がしたので不意に顔を上げると、ふわりとライトブラウンの髪の毛が夕日に浮かぶ。
それはまゆさんが頭を思いっきり下げて謝っているところだった。
「まゆさん、美鈴さんのこと何も分からなかったから。迷惑だったんだよね? 急に友だちって、距離詰めすぎだったよね?」
「え。えっ?!」
どうしてそうなるの? 待って待って。距離感ならわたしの方がおかしいはず。
だって。だって……。
『お前とは友だちぐらいの距離感がいいや』
フラッシュバックするのは過去の、前世の出来事。
いつまでもその言葉が反芻して離れようとしない。急に息苦しくなって、心臓が酸素を多く求めている。肩で息を呼吸して、必死に誤解だと言葉を音に出そうとしても不安がそれを妨げる。
「わ、わた。しは……」
口にしたくて堪らないのに。相手がちゃんと求めてくれているって、分かっているのに。
ちゃんと嬉しいはずなんだ。なのにわたしは人との関係が分からない。まゆさんは、いったいわたしに何を求めているんだろう。
もし、それにそぐわない人だって思われたら、わたし、は……。
「美鈴さん、怒ってる?」
違う。嬉しい。友だちになりたいって言ってくれて!
だけど。……だけど。
言葉にできない恐怖と不安は胸の奥底で嬉しいという感情に蓋をする。
やっぱり、このままひとりになっちゃうのかな……。
顔を伏せたとき、それが目に入った。
力いっぱい掛け布団を握っていた拳に、そっと寄り添うよう優しいぬくもりが重なる。
優しさの先にいたのは、尊花さん。焦らないで。落ち着いて。そう言ってくれているみたいな。
何も言わなくても分かる。尊花さんはわたしのことを安心させてくれようとしている。
どうしてわたしの考えていることが分かるのかは分からないけど、優しさだけは。この手のぬくもりだけは本物なんだと思う。
いつしか恐怖と不安が薄れていき、嬉しいが口から出せるようになっていた。
「……そ、そんなことない。わ、たし、まゆさんに友だちになりたいって、言われたの嬉しかったっ!」
「ホント?」
彼女は不安げな顔だった。もっと安心させなきゃ。
「うん。わたしも……」
すぅーと勢いよく息を吸って。
「まゆさんと友だちになりたい!」
突風を吹かした。まゆさんの顔も、尊花さんの感情も全部ぜんぶ吹き飛んでいった。
あっけらかんとした表情から、やがて意識が戻ってきた2人。その顔は、とてつもなくニヤついていた。
「嬉しいなー! うんうん、まゆさんと美鈴さんはお友だちー!」
「やっぱり美鈴ちゃんは笑顔が一番かわいいよ!」
「やっ、そんなことないですし。おふたりの方がかわいいし……」
照れ隠しに褒めてみたけど、効果はないみたいだ。
片手は尊花さんに。もう片方はまゆさんに掴まれると、上下に激しく握手させられてしまった。
あぁ、なんか……。エネルギーを使い果たしすぎて、視界がぼやけて……。
「じゃあ、美鈴さんと尊花さんも友だち同士だね!」
「い、いや! 友だちって言うのは順序が必要で……。だからわたしと尊花さんが友だちになるなんて恐れ多いと言いますか…。ふごぉ……」
「……美鈴ちゃん、また気絶してる」
「あらま」
拝啓、前世のお母さんへ。
先立つ不孝をお許しください。
わたしは異世界に転生してお友だちができました。
ゆるふわ美少女のかわかわの女神です。
ですが、わたしには美少女耐性がないみたいなので、ちゃんと筋トレをしようと思います。
目指せアイドル、とはいきませんが、せめてふたりの天使と女神についていけるぐらいの体力が欲しいな、と思った次第です。
お母さんの人生が素敵なもので彩られますように。
あなたの娘より。
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