第6話:神託の乙女(陰キャ)
「ん……っ。うぅ…………」
薄ぼんやりと、オレンジ色の光で目を覚ます。
目に入るのは白い天井と、カーテン。
回らない頭がゆっくりと再起動を始める。あぁそっか。
「わたし気絶しちゃってたんだっけ」
ってことは、ここは保健室かな。ベッドに寝かされていて、夕方になったころ目が覚めたのだろう。
状況を把握して次第に冷静になってきた。
だから思い出す。気絶する前のことの出来事も。
掛け布団から両手を取り出して、思わず顔面を覆った。
「……死にたい」
自己紹介ならぬ、事故紹介の後の真っ向からのお友達になりたい宣言。
天使と女神が織りなす昇華のハーモニーは人ひとり程度を殺すのは容易。むしろ肉体が生き残っただけ幸せとも言えよう。
まさに奇跡! 神様なんていないと思っていたけど、実はいたのかもしれない!!
ちなみに、あの自称神様については触れないものとする。
『ひどいなー。カミサマのことをそんな呼び方するだなんてさっ!』
「うぎゃーでたー!」
お化け。もとい諸悪の根源こと、神様である。
というか、ここ1年出てこなかったのに、どうして今さらになって出てきてるの。おちょくりに来たのか。帰れ帰れ。
『ちなみに、カミサマはちゃーんとキミが考えていることが分かっちゃうんだよ?』
「いや、真実ですし」
『そうだよねー。いきなりアイドル転生からの1年引きこもり。いざ勇気を出した高校デビューもすぐさまピットイン。筋金入りの陰キャってマジオモシロー!』
「ホント、性格悪いよね」
『そりゃ、人間で遊んでるわけですしぃ?』
わざとらしく両手の指を振りながらかわいくちろっと舌を出す。
アイドルがよくやっているようなあざとい表情で、かなりうざかった。
『まぁそれはさておき。今日はキミに神託を送りに来たのだよ』
「うさんくさ」
神託ってあれだよね? さぁ! イギリスを率いてフランスをぶっ潰せー、みたいな。
あれ、ジャンヌダルクの話ってどんな感じだったっけ? なに一つ分からないミリしらフランス革命になっちゃった。結局、イギリスとフランスのどっちなんだろう。
『なんでそんなに乗り気じゃないのさー。もっとキャッキャしてよー』
「さっき人間で遊んでるって言ってましたけど?」
一瞬だけ真顔になったかと思いきや、懐から黒いペンを持ち出して、ペンの先を指さす。
『ここを見てくれないかなー?』
「それ、見たら光って記憶消すやつじゃん」
『行けると思ったのになー』
ゴミのように記憶操作ペンを空中に放り投げて、ペンの存在を消滅させる。
神様だから何でもできるんだろうけど、本当に何でもできてしまいそうだから、あまり敵に回したくないというのを感じる。
その内にベッドの端に座ったカミサマは指先で空中に何かを書いていく。
空間に浮かび上がるのは光の文字列。スイスイーっと流れるように文字を書いていくと、出来上がったものをわたしの方に見せてきた。
『汝、ハッピーエンドを目指せ。さすれば選択の機会を与えよう』
「……どういうこと?」
『神託の意味を解釈するのはカミサマじゃなくて、キミ自身さー』
神託の文字列を指先でかき混ぜて一つの光の玉に変えたカミサマは、次の瞬間わたしの頭を指さす。
神託の玉はピュンという音を鳴らしながら、わたしの頭の中に入っていった。
……入っていった?!
「え?! なにしたのこれ?!」
『忘れないように文字通り脳に刻んであげたんだよ。いつでも思い出せるね!』
「……あなた、邪神じゃないの?」
『いやいや、カミサマは神様ですゆえー』
一陣の風がカーテンを揺らす。勢いのいい風に思わず目をつぶってしまった。
次の瞬きには、彼女の姿はいなくなっていた。
まるで夢のよう。そこに人が本当にいたのだろうか、という疑惑すら抱いてしまうほどの幻だった。
「……本当に、なんだったんだろう」
唖然としている間に、保健室の扉がガラガラと開け放たれる。
少々の足跡がこちらに近づいてきたので、思わず布団で顔を隠してしまった。
誰だろう。先生だったらいいけど、尊花さんやまゆさんだったら……うぅ。気まずい。
「美鈴ちゃん、大丈夫?」
カーテンを開く音。こっそり布の隙間からふたつの影が見えた。
あーあ。案の定尊花さんとまゆさんだ……。
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