第5話:事故紹介RTA
入学式。尊花さんが隣にいるやったーーーーー!!!!!
流石五十音順といったところだ。褒めてつかわそう! えらい!
友だち、とは言いづらい。だって推しなんだもん。
推しは友だちとは言えない。そのはずと心の中で何度も唱えながら、早速ほかの人とも仲良くなっている彼女の後ろ姿を見て、ため息をついた。
時系列的にはわたしが一番最初に知り合ったのになー、と。
まぁ、わたしが今気にするべきところはそこじゃない。
入学式が終わり、自分のクラスへと行けばワイワイがやがやと騒ぐ高校生なりたてキッズども。
完全に委縮してしまったわたしは、とりあえず五十音順最初の席、廊下側の一番前の席に座って、顔を伏せた。
やっばぁーーーーーー!!! 自己紹介何も考えてないんですけど!!!!!!
担任が来たら、さぁ皆さん自己紹介。まずはあいうえお順の一番最初。相沢さんから! って言われるに決まってる! わたしの全財産賭けてもいいね。5倍ぐらいになって帰ってくる自信ある!
「ゲームだったら、最初の自己紹介で美鈴ちゃんが最初にびしっと決めてクラスの人気者になったんだっけ」
原作『ライクオアラブ』の一番最初の相沢美鈴のイベント。
それがこの自己紹介である。持ち前のアイドルとしてのかわいらしさを遺憾なく発揮し、ほどなくして拍手と大歓声。主人公の『櫻井万葉』は感銘を受ける。というシーンだ。
つまり、この自己紹介で世界のカーストトップである『櫻井万葉』の印象が変わると言っても差し支えない。
クラスでの居場所の命運はここで決まるのだ!
――が、この女は陰キャのひきこもりである。
以上のことを踏まえた上で出た結論というのは、これだ。
「わ、わた……! わたしは、あいじゃわみしゅずでしゅ!!」
見事なまでの沈黙。
かつては世間に名を売っていたジュニアアイドル、相沢美鈴の今が、まさかこんなにも情けない自己紹介をするなんて。
一番最初。元アイドルのプレッシャー。未来への不安。
しっかりやらねば。ちゃんとしなければ。そう思っていた時期が、わたしにもありました!
結果から言おう。惨敗!!
沈黙のまま椅子に座って、身体を机に突っ伏した。死んだ。わたしは死体です。
ほかの子たちの自己紹介は耳から聞こえていたものの、右から来たものを左に受け流すように、一方通行の耳の穴はすべての事柄を聞き流していた。
あー、外が綺麗だなぁ。晴れてたもんなぁ。わたしの気持ちも、あれぐらい晴れてくれればいいのにぃ……。のに……。のに…………。
鐘が鳴った。ガヤガヤと始まったグループ作りの場に、わたしはいない。
死人に口なし。死体は喋れないから、机の上で倒れているのだ!
「ははっ。死のう……」
もうお涙ボロボロぼろ雑巾。あとは捨てられるが定めよ。うぅ……。
「美鈴ちゃん、大丈夫?」
顔を持ち上げるだけの力はある死体なので、首を上げる。
すると、そこには黒髪艶やかなショートボブの女の子。まぶしいまぶしい天使。もとい尊花さんと、もう一人。
「美鈴さんだよね。よしよーし」
天使に頭をなでられた。尊花さんとは別の天使だ。
ふわふわなライトブラウンの髪。それ、実は羊の毛でできてたりします? ってぐらいには後ろから抱きしめたらいい匂いがしそう。
纏ってるオーラがもう優しさとかわいさでできているような、神が作った女神なのかもしれない。いや、この人ホントかわいいな。なんでそんな人がわたしの頭なでてるの?
疑問がそのまま顔に出ていたのか、「あっ」と声を出してから手を引っ込めてしまった。
疑問を出さなきゃよかった。
「ごめんね、突然知らない人に頭をなでられたら、いや、だよもんね?」
「い、いえいえいえいえいえいえいえ!!!! 全然そんなことないです! かわいい人だなーって思ってたので!」
「か、かわいい? えへへ、ありがとー」
わたしはこの人を知っている。
原作『ライクオアラブ』のメインヒロインの一人である女の子。
その名も『弥生まゆ』さんだ。こんな可愛いの塊がヒロインじゃないわけないじゃん!
原作でも美鈴さんとまゆさんが交流するイベントは多々ある。
クラスの人気者と学園のアイドルだ。そりゃあ絡みも多くなるよ。こんな序盤から交流するとは思ってなかったけど。
「でも、なんでまゆさんがわたしのところに……?」
「私が紹介したのです! えっへん!」
隣の尊花さんが胸を張って、自分の胸を叩いた。は? かわいい。
「……なぜ?」
「まゆさんが、美鈴さんのことが気になってたの! なんかかわいい子だなーって思ってね。でね? ちらちら美鈴さんのことを見てたら尊花さんが、気になるのー? って声かけてくれたんだ! それで、今ここ!」
て、天使の行動力は無限大か!?
目と目があったらいざバトルどころか、そこから交流を作ろうとするなんて……。我が推し強し。コミュ力が化け物レベルすぎる。
尊花さんへの推しレベルがさらに上がっていくのを感じる。イエローゾーンだから、ブレーキかけないと。
「え、えっと……。気になるって、その。いじめに来た、的な?」
「そんなことしないよー! まゆさんはきみとお友だちになりたいの!」
「と、友?!」
それ、強敵と書くタイプじゃなく?!
いや、わたしは雑魚も雑魚なんですけど。で、でも。まゆさんとお友だち……。
「い、いいんですか?!」
「うん! かわいいからね」
「……ほ、ほげっ」
女神力×天使の行動力×推しの尊さ×友達宣言×プレッシャー×不安=死
思考処理の限界を超えたとき、PCはどうなると思う。知らんのか? その場合はブルースクリーンになるんだ。
つまり、わたしの頭は臨界を超えて、額を机に叩きつけて……。
「あれ、美鈴ちゃん?」
「美鈴さーん?」
肩を揺らしても無駄です。だって、気絶したんだもの。
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