第4話:市川尊花って誰ですか?
市川尊花。この名前に聞き覚えはあるだろうか?
え? ないの? うーわー、人生5000割損してるわー。
そんなあなたたちのために、このわたしが市川尊花について語ってあげるとしよう!
市川尊花とは、美少女ゲーム『ライクオアラブ』の登場人物である。
艶やかな黒髪のショートボブにふわりとカールした毛先がこれまたかわいいのよ!
目元は少したれ目気味で、人に愛されるために生まれてきたのかってぐらいの可愛さ。たれ目ってあれだよ? キリっと強めのつり目に反して、かわいらしさ全アピの爆発的かわいさトップ10に入るぐらいには重要な部位だよ。
そのくせ瞳の色は海のように透き通ったマリンブルー。
なんて清廉潔白な美少女にお似合いの素敵ブルーアイズなんでしょう。これで美白なんだからこれはもう青眼〇白龍といっても過言ではない。アニメ内のキャラクターでなくても、限界を通り越して「ふつくしい」って言いたくなる気持ちを分かっていただきたい。
総じて分かる通り、ベレー帽がよく似合う女の子なのだ。私服時のベレー帽をかぶったゆるふわファッションは他の追随を許さぬほどのキュート!
数字にすると、おそらく5000億光年である。距離の単位であることを除いても、彼女はそれだけの激かわキュートなのである(二重表現)。
それだけではない。運動神経がよくないのか、非常にゆっくり動く。動くときは風の方が先に動くぐらいだ。そりゃもう。かわいいよ。
って、語り始めると本当に止まらなくなるからこの辺にしておいて、重要なことを1つ。
こんなにもかわいいキャラなのにもかかわらず、何故か攻略対象キャラではないのだ。
クラスの委員長ってよく攻略対象から省かれるけど、その理由がいまいちわからない。
うるさいだけだっていう人もいるけど、彼女の場合清楚が元気を纏って歩いているのだ。モテるはずなのに、この原作主人公は分かっていない。
これ以上は愚痴になるので留めておくとして。
その待望の市川尊花の攻略ルートが、ファンディスクとして今度発売されるって聞いてウキウキだったのになぁ……。はぁ、なんで死んじゃったんだろう。死んだ方がマシだよ……。
いやわたし、一回死んでたわ。たはは。
以上。この通り、尊花さん限界オタクの紹介でした。完。
「どうして、私のこと名前を知っているんですか?」
「え?! えーっと……あの……。その……」
そんな美鈴ことわたしさん、絶賛ピンチでした。
ここで初対面なのに、なんで名前呼んじゃったんだろう。目の前に天使がいたからしょうがないか。
……しょうがなくない! ファーストインプレッションは大事って、よくお母さん(仮)が言ってた。それがダメになったからアイドルやめたんでしょわたしぃ!
わたわたしているわたしを見かねたのか、それともわたしの目線の先に偶然クラス振り分け表があったからなのかは分からないけど、尊花さんは納得した。
「そっか! 同じクラスだもんね、美鈴ちゃん!」
「同じクラス……。同じクラス?!」
「あれ、聞いてなかったの? 私と美鈴ちゃん、あいうえお順でお隣さんだよ?」
聞いてませんけど?!
驚愕のまま、とりあえず同意するように首を縦に振ってみた。
そっか。市川の「い」。それから相沢の「あ」。確かに五十音順ならお隣さんだ。
ゲームでもそうだったっけ。元々の相沢美鈴はどんなところにも引っ張りだこだったから、基本的に会いに行かないと興味すら示してくれなかったんだった。
「そ、そう。ですね。お隣さんです……」
「……美鈴ちゃん、だよね?」
「は、はい。一応……」
それはふたつの意味での一応、だ。
なんだろう。この確認にも似た問い方は。
頭の中で浮かべている人と目の前の人を確かめるような違和感……。
「……そっか。美鈴ちゃんはここで何してたの?」
「え、っと……。人ごみに疲れてここで休憩を……」
なにか誤魔化された感じがしたけど、助かったからよかったぁ。
これから何を返せばいいか、流石にわかったもんじゃなかったし。
「そっかぁ。私も一緒に座ろーっと」
尊花さんは気持ち間を空けるようにして、わたしの隣に座った。
風に乗った彼女の香りは新鮮だった。尊花さんって、こんないい匂いするんだ。
女の子らしく、ハンカチを下にして座る姿に女子力のパワーを感じる。
「ここ、気持ちいいね。風が通り抜けていく!」
「た、たまたま座った場所なんですけどね」
実際ホントのことだ。周囲の学生も気づくことはなく、目を閉じれば優しい風が頬をなでる。
こういう場所を人は昼寝ポイントと言うのだろう。
本当に心地よくて眠たくなってしまう。
「でも気持ちいい……。これから入学式だなんて思えないぐらい落ち着いちゃうね!」
「そう、ですね……」
この1年。知っている人に会うことはなかった。
あったとしても美鈴の母親だったけど、立ち絵なんてなかったし。
だからこうして初めて立ち絵ありの、それも最推しの女の子と出会えたことで、気が緩んでしまったのかもしれない。
瞼がゆっくりと落ちては戻る。うつらうつらと眠りの妖精が魔法をかけているみたいに、徐々に、じょじょに……おちて……。
その瞬間だった。
「ほら、もうすぐ入学式だよ!」
「……ほぇ?」
腕がゆっくりと引っ張られる。睡魔が急激な覚醒をもたらしてきた。
「ここへはいつでも来れるから! ね?!」
……そうだった。彼女は真面目で元気な子。
だから強引に腕を引っ張って、入学式にも連れて行こうとする。
うん、これは後押しだ。
このまま学校に行かずに寝て過ごすところだったからこそ、強引に引っ張っているのだろう。あぁ、さすが未来の委員長さんだ。
「あのっ! ……ま、また。一緒に来てくれますか?」
「うん、もちろん!」
まさか最推しに学校に行けって背中を押される日が来るなんて。
そんな強引な彼女も好きなんだよなぁ。
わたしは尊花さんに手を引っ張られながら、学校へと、下駄箱へと向かうのだった。
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