第3話 魔法の練習と、豪華な料理
私はユイちゃんと共に、塔の1階フロアに居る。
ユイちゃんが来てから2週間がたち、彼女の肌や髪艶は良くなり見た目も健康的になってきた。
私の魔力を直接摂取していることも有り、塔に初めて来た時よりも魔力量が増しているのがわかる。
「じゃあ、魔法を使う練習をしてみましょうか」
「はい、お願いします」
今はユイちゃんに魔法を教えているところ。
生まれてこの方魔法を使ったことがない彼女には、初めから丁寧に教えてあげるしかない。
私程度になれば、瞬間移動も可能だし、ちょっとずるい方法で買い物もできる。
魔力は自然に回復する体質なので、食事の必要も実はない。
その時点で人間ではないだろう。
ちなみに、食べるのが嫌いなわけではない。
ただ、そのためにむやみに生を奪う必要もないと思っているだけだ。自分にはそれが必要ないので。
「じゃあ、まずは魔力を操るところから始めましょう。イメージが肝心よ?両手を前に出して手のひらを向かい合わせるでしょ?そうしたら、その間に熱があるイメージをして」
「はい、やってみます」
このポーズで手を合わせると、祈りのポーズのようになる。
今は祈るわけじゃなく、その掌の間に魔力を集中させ、操れるように訓練をする。
彼女の魔力ならうまく制御できれば本当に”熱”を感じるだろう。
「なんだか、暖かくなってきた気がします」
「うんうん、その調子」
ユイちゃんは初めての割にはうまいこと魔力を操れている。
私の魔力を食べてたから余計だろう。
中々見込みがありそうだ。
「へぇ初めてにしてはやりますねぇ」
トワがお茶を持ってきた。
「はじめのうちは魔力を動かすだけで疲れますからね。お茶にしましょう」
トワの提案に乗っかることにして、私はテーブルセットを召喚する。
ポンと音を立ててテーブルと椅子が二つ。
「お嬢様、私の分はないの?」
「トワの分は要らないでしょう」
「っち、気が利かないなぁ」
そういいながらもお茶を用意する。
「じゃあユイちゃん休憩ね」
小さく返事をした彼女は魔力を込めるポーズを解く。
ふっと熱が発散するのがわかる。
「その調子で、魔力の流し方を覚えましょう。そうすれば塔の修復ぐらいは出来るようになるわ」
「頑張ります。ところで、アノマ先生」
ユイちゃんから先生と呼ばれて思わず止まってしまう。
私が先生か、ふふふ。
「なんでしょうユイちゃん」
「先生の様に机を出したり料理を出せるようになるには、どれぐらい訓練が必要ですか?」
あーなるほど。
確かに目の前で見せられてる魔法を使ってみたいと思う気持ちはよくわかる。
私も先代の管理者の魔法をまねしたかったものだ。
でも、ユイちゃんが使えるようになるには結構先が長そうだと思う。
「そうねぇ、今のユイちゃんの魔力量が倍ぐらいになれば、ミカン1個ぐらいは召喚出来るかな?」
「えぇ…魔力量って増えるんですか?」
「増えるわよー訓練次第だけど、頑張ってね?」
「うっ…はい」
私はトワの用意したお茶を飲む。
うん、今日もおいしい。
それにしても、ユイちゃんが魔法の勉強をしたいと言い始めるまでは結構早かったと思う。
つい2週間前まで、人生に絶望していたであろう子がこうも成長するとはね。
*****
恐れの塔なんて名前がついているけれど、ここは私にとって天国だった。
勉強がこんなに楽しいと思える日が来るなんて思わなかったし、だれにも邪魔されずにゆっくり眠れることがこんなに幸せだとは思わなかった。
アノマさんから借りたラジオのニュースで、あの男が捕まったことを知る。
飲酒運転、児童買春、薬物所持、私には使われていなかったけれど、ヤバいことを一通りしていたらしい。
事故車両が発見され、飲酒運転の現行犯で逮捕警察病院に搬送された例の男のスマートフォンの情報から児童買春にかかわっていたことが分かったと報道されていた。
にもかかわらず、その被害者が行方不明であることは一つも報道されなかった。
結局、今の日本って国に私は存在していないんだなってわかった。
「別にそんなこと気にしなくてもいいんじゃないですかね?お腹いっぱい食べて、好きなことをして寝るのが子供の仕事ですよ」
トワさんがそんなことを言ってくれた。
好きなことと言われて、ここ2週間の間に読んだ物語たちを思い出してみた。
優しい魔法使いに、意地悪な魔法使い、高慢な王子や、落ち武者、陰陽師。
時代もジャンルもめちゃくちゃながら、ある種”魔法”と呼ばれるようなキャラクターが出てくる物語を読んでいて、脳裏をアノマさんがよぎった。
私も、物語の登場人物の様に、アノマさんの様に魔法が使えるのかもしれないと。
アノマさんは私が魔力を持っていると言ってくれていた。
だから、きっと訓練すれば使えるんだと思う。
だから私は、アノマさんにお願いすることにした。
アノマさんの教え方は感覚的過ぎて理解できなかったが、その通りにすると言われた結果が表れた。
初めは手のひらが暖かくなる程度で、本当に魔法か?ってわからないかったけれど、徐々にちゃんと魔法らしくなってきた。
「まずは正しいイメージ、何をしたいのか、何を起こしたいのか、そのイメージがあれば魔法は使えるの。逆に失敗するってことは正しくイメージができていないってこと」
「イメージですか…」
「そうちゃんとしたイメージ。例えば物語にある攻撃魔法は使おうとすると結構大変なんだよ」
そういって教えてくれたことはさっぱり理解できなかった。
てっきり火の玉が中空に浮かんで的に向かって飛んでいくイメージをすればいいんだと思ていたけれど、「火ってなんで燃えるかわかる?」といわれて私の脳みそは固まった。
「まだ、美味しいオレンジジュースを
そういってアノマさんは私の目の前にオレンジジュースを召喚してくれた。
私が魔法を使えるようになるにはまだまだかかりそうだと思った。
*****
「ユイの魔力量が増えてきましたね」
「でしょ?鍛えれば行けるって。私だって初めのころは彼女程度だったでしょ」
「二千年も前の事忘れましたよ」
トワがにんまりと言い返す。
まったく、本当は数億年前の話すら覚えているくせに、いい性格をしている。
私が物心ついたときの魔力量なんて、実際ユイちゃんの半分もなかった。
先代が優秀な先生だっただけだ。
魔力量は増やせる。
ちゃんと勉強して魔力を練り上げ、星の力を自らの力に変える。
塔は星の力を適切に処理するための物でもある。
上手いこと力を放出できなくなると、星自らがその制御権を握るので、極端な気候変動が起きるのだ。
ほかの星が落ちてきたのなんて、力の制御ができなくなったこの星の力が、他の星に作用して呼び寄せてしまったに過ぎない。
まぁトワからの受け売りだけど。
「最近は、星の力も弱ってきてる気がするのよ?私が吸い上げる魔力は確実に減っているわ」
「お嬢様はお歳もあるかもしれませんが…まぁそうですね」
私の向かいに座ってトワは頬杖をついている。
まったく、本当に大切なことは口にしないのがトワなのだ。
数年前だって大きな災害が起きてから、別の塔が消滅しましたよーなんてのんきに言ってきたものだ。
塔の管理者どうしでコミュニケーションは取れないが、どうやら妖精たちには独自のネットワークがあるらしい。
「そういえば、トワ的に別の塔がなくなるのはどう思ってるの?」
「別に何とも。そのうち復活するし」
「そうなのね」
「新しい管理者ができればね。それまでは復活しないけど、どうせそんなの五千万年もすれば元に戻るから大したことないのよ」
「わー気が遠い」
「私達はそういう時間軸で生きてるんですよお嬢様」
さすが何度も生物の絶滅を見てきた奴の言うことはレベルが違う。
そうやってこの星は脈動しているともいえる。
一応は私だって”人間”だったんだから今の世界に未練だってあるんだが、そういえばトワは何に未練があってまだ消えたくないなんて言ってるんだろうか?
そういえばそのあたりは聞いたことがない。
まぁ聞いても教えてくれないだろうなぁトワのことだし。
そうだ、久々にトワで遊んでやろう
「ん~…ふっ」
「お嬢様、私の見た目で遊ぶのはおやめください」
「背格好は一緒じゃない」
「服装で遊ぶのはおやめください」
トワは今、パステルカラーのふわもこメイド服につつまれて、不貞腐れている。
たまにこういう遊びをするのが楽しいのだ。
トワはすごく嫌がるが。
「良いではないか~良いではないか~」
「いつの時代の遊びですか!服装だけは今風のを持ってきてぇ」
こないだコンビニで買ってきた雑誌のかわいい服をイメージしてトワを着せ替えて遊ぶ。
うんうん、かわいい。
ちょっと癒されたので元に戻してあげる。
「まったく、お嬢様のこの遊びには困ったものですね」
「いいじゃない、楽しいんだもの」
「はぁ…自分の思い通りにならなそうな事から目をそらすために私で遊ばないでくださいな」
「そうさせたのはトワでしょ」
「むぅ」
可愛くほっぺを膨らませて、トワはすっと消えた。
っち、逃げられたか。
仕方がないので、また本でも読むことにしよう。
あるいはたまにはユイちゃんと夕飯を食べてみようかな?
そんなことをモダモダ考えながら時間は過ぎていった。
*****
「というわけで、一緒に夕飯を食べて見ようと思ったので遊びに来たの」
私の目の前には、銀髪赤目のゴスロリ女性が一人。
トワさんはノックも無しに突然現れるせいで、部屋の扉がノックされたのにびっくりして扉を開けてみれば、アノマさんが立っていた。
よっと気軽に挨拶されて、するりと部屋の中に入ってくると、私の定位置であるローテーブルのクッションに勝手に腰かけた。
アノマさんの部屋で見ていた時は見た目とは裏腹に落ち着いた大人な雰囲気もあったのに、今はなんだか子供っぽく感じる。
「えーと。アノマさんって食事必要なんです?」
「要らないわよ」
「えぇ…」
「でもほら、人間ってみんなで食事をとってコミュニケーションをとるっていうじゃない」
「…多分そうですね」
「うん、ユイちゃんはそういう経験あんまりないんだね。大丈夫私もないから」
何が大丈夫なのかわからないが、アノマさんが手を叩くと、トワさんが出てくる。
「というわけで、コース料理をお願いね」
「はいはい、お嬢様の仰せのままに」
気が付いたらローテーブルは普通の四角いテーブルに代わり気が付けばクロスも敷かれている。
私も豪華な椅子に座っていた。
目の前にはたくさんのフォークにナイフにスプーン。
アノマさんに倣ってテーブルに置かれていたナプキンを膝の上に置く。
てか、アノマさんって日本人じゃないの?
こういうコース料理ってフランス料理とかじゃないんだっけ?
「前菜の、生ハムとチーズとピクルスでございます」
ちょっと大きめなおさらに、ちょこんと料理が乗っている。
どれも彩が豊かで、ピクルスもハンバーガーに入っているようなのではなくしっかり野菜って感じがする。
「シルバーは外側から使うのよ~」
アノマさんが使っているフォークを手に取る。
一番右側のフォークだ。
そんなに大きくない。
「ユイちゃんも飲む?」
「それ、お酒ですか?」
「ぶどうジュース」
いや、絶対それワインですよね?お酒の匂いがしますもん。
ちょっと呆れながらも生ハムを口に運ぶ。
何処で食べてもそれなりに美味しかった食材だ。
口の中でしょっぱさと甘さが広がる。
過去に食べたことがある生ハムはしょっぱいばかりで脂っぽく感じたけれど、これは甘みも感じる。
テレビで脂の甘味なんて話を聞いていたけれど、本当だったらしい。
ただ、チーズはしょっぱいだけだった。
私には味がわからなかった。
キュウリのピクルスは程よい酸味で、チーズのしょっぱさを忘れさせてくれた。
もうちょっと食べたいなって思うけど、さっき前菜だって言ってたからこれからメインが出てくるんだよね?
「スープのブイヤベースです」
食べ終わってお皿が下げられるてから、しばらくするとトワさんが今度はスープを持ってきた。
スプーンはこれ用だ!
オレンジ色のスープの中心にはホタテと大きなエビが鎮座していた。
こんな大きなエビ初めて見た。ホタテも大きい。
エビやホタテなんて、出前のお寿司に乗ってる奴しか見たことがない。
アノマさんはナイフとフォークも使っている。
あ、それも使うんだ具材も食べるからか。
「おいしいかしら?ユイちゃん」
「っ、はい、美味しいです」
「それは良かった」
口に運んだエビはぷりぷりだったし、ホタテはほろほろと繊維が舌の上でほぐれていく。
しっかり噛むとホタテのうまみが口の中に広がる。
他にも貝が置いてあるけどどうやって食べれば…あ、殻は持っていいんだ。
とってもおいしかった。
語彙力が無くて、美味しいとしか言えない。
きっとこのスープもいろんな素材の味が混じってこんなにおいしいスープになっているはずだけど、何が入っているかなんてわからない。
「きっとユイちゃんはこういう本格的なコース料理は食べたことないだろうから、一度は経験しておいて損はないでしょ?と思ったの」
スープを飲み終えると、アノマさんがまた話しかけてくる。
全くその通りだ。
ナイフとフォークを使ったのなんて、ファミレスぐらいしかない。
「食べ物はね、人を幸せにするっていうでしょ?私もそう思うの。食べる必要のない身体だけど、味覚がないわけじゃないからね、昔はたまにお出かけしてはお外でご飯をよく食べたものよ」
「お嬢様は黙っていなくなって、ひょっこり戻ってくるからこっちは生きた心地がしなかったですよ」
「まったく心配してない顔で、しれっと翌朝起こしに来るトワに言われたくないわねそのセリフ」
プイッとトワさんがアノマさんから目線をそらす。
なんだか小さい子が機嫌が悪いのを伝えているみたいで可愛い。
「食べ終わったなら、次はメインをお持ちしますよ」
そういって、トワさんがお皿を片していった。
私はユイちゃんと共に、塔の1階フロアに居る。
ユイちゃんが来てから2週間がたち、彼女の肌や髪艶は良くなり見た目も健康的になってきた。
私の魔力を直接摂取していることも有り、塔に初めて来た時よりも魔力量が増しているのがわかる。
「じゃあ、魔法を使う練習をしてみましょうか」
「はい、お願いします」
今はユイちゃんに魔法を教えているところ。
生まれてこの方魔法を使ったことがない彼女には、初めから丁寧に教えてあげるしかない。
私程度になれば、瞬間移動も可能だし、ちょっとずるい方法で買い物もできる。
魔力は自然に回復する体質なので、食事の必要も実はない。
その時点で人間ではないだろう。
ちなみに、食べるのが嫌いなわけではない。
ただ、そのためにむやみに生を奪う必要もないと思っているだけだ。自分にはそれが必要ないので。
「じゃあ、まずは魔力を操るところから始めましょう。イメージが肝心よ?両手を前に出して手のひらを向かい合わせるでしょ?そうしたら、その間に熱があるイメージをして」
「はい、やってみます」
このポーズで手を合わせると、祈りのポーズのようになる。
今は祈るわけじゃなく、その掌の間に魔力を集中させ、操れるように訓練をする。
彼女の魔力ならうまく制御できれば本当に”熱”を感じるだろう。
「なんだか、暖かくなってきた気がします」
「うんうん、その調子」
ユイちゃんは初めての割にはうまいこと魔力を操れている。
私の魔力を食べてたから余計だろう。
中々見込みがありそうだ。
「へぇ初めてにしてはやりますねぇ」
トワがお茶を持ってきた。
「はじめのうちは魔力を動かすだけで疲れますからね。お茶にしましょう」
トワの提案に乗っかることにして、私はテーブルセットを召喚する。
ポンと音を立ててテーブルと椅子が二つ。
「お嬢様、私の分はないの?」
「トワの分は要らないでしょう」
「っち、気が利かないなぁ」
そういいながらもお茶を用意する。
「じゃあユイちゃん休憩ね」
小さく返事をした彼女は魔力を込めるポーズを解く。
ふっと熱が発散するのがわかる。
「その調子で、魔力の流し方を覚えましょう。そうすれば塔の修復ぐらいは出来るようになるわ」
「頑張ります。ところで、アノマ先生」
ユイちゃんから先生と呼ばれて思わず止まってしまう。
私が先生か、ふふふ。
「なんでしょうユイちゃん」
「先生の様に机を出したり料理を出せるようになるには、どれぐらい訓練が必要ですか?」
あーなるほど。
確かに目の前で見せられてる魔法を使ってみたいと思う気持ちはよくわかる。
私も先代の管理者の魔法をまねしたかったものだ。
でも、ユイちゃんが使えるようになるには結構先が長そうだと思う。
「そうねぇ、今のユイちゃんの魔力量が倍ぐらいになれば、ミカン1個ぐらいは召喚出来るかな?」
「えぇ…魔力量って増えるんですか?」
「増えるわよー訓練次第だけど、頑張ってね?」
「うっ…はい」
私はトワの用意したお茶を飲む。
うん、今日もおいしい。
それにしても、ユイちゃんが魔法の勉強をしたいと言い始めるまでは結構早かったと思う。
つい2週間前まで、人生に絶望していたであろう子がこうも成長するとはね。
*****
恐れの塔なんて名前がついているけれど、ここは私にとって天国だった。
勉強がこんなに楽しいと思える日が来るなんて思わなかったし、だれにも邪魔されずにゆっくり眠れることがこんなに幸せだとは思わなかった。
アノマさんから借りたラジオのニュースで、あの男が捕まったことを知る。
飲酒運転、児童買春、薬物所持、私には使われていなかったけれど、ヤバいことを一通りしていたらしい。
事故車両が発見され、飲酒運転の現行犯で逮捕警察病院に搬送された例の男のスマートフォンの情報から児童買春にかかわっていたことが分かったと報道されていた。
にもかかわらず、その被害者が行方不明であることは一つも報道されなかった。
結局、今の日本って国に私は存在していないんだなってわかった。
「別にそんなこと気にしなくてもいいんじゃないですかね?お腹いっぱい食べて、好きなことをして寝るのが子供の仕事ですよ」
トワさんがそんなことを言ってくれた。
好きなことと言われて、ここ2週間の間に読んだ物語たちを思い出してみた。
優しい魔法使いに、意地悪な魔法使い、高慢な王子や、落ち武者、陰陽師。
時代もジャンルもめちゃくちゃながら、ある種”魔法”と呼ばれるようなキャラクターが出てくる物語を読んでいて、脳裏をアノマさんがよぎった。
私も、物語の登場人物の様に、アノマさんの様に魔法が使えるのかもしれないと。
アノマさんは私が魔力を持っていると言ってくれていた。
だから、きっと訓練すれば使えるんだと思う。
だから私は、アノマさんにお願いすることにした。
アノマさんの教え方は感覚的過ぎて理解できなかったが、その通りにすると言われた結果が表れた。
初めは手のひらが暖かくなる程度で、本当に魔法か?ってわからないかったけれど、徐々にちゃんと魔法らしくなってきた。
「まずは正しいイメージ、何をしたいのか、何を起こしたいのか、そのイメージがあれば魔法は使えるの。逆に失敗するってことは正しくイメージができていないってこと」
「イメージですか…」
「そうちゃんとしたイメージ。例えば物語にある攻撃魔法は使おうとすると結構大変なんだよ」
そういって教えてくれたことはさっぱり理解できなかった。
てっきり火の玉が中空に浮かんで的に向かって飛んでいくイメージをすればいいんだと思ていたけれど、「火ってなんで燃えるかわかる?」といわれて私の脳みそは固まった。
「まだ、美味しいオレンジジュースを
そういってアノマさんは私の目の前にオレンジジュースを召喚してくれた。
私が魔法を使えるようになるにはまだまだかかりそうだと思った。
*****
「ユイの魔力量が増えてきましたね」
「でしょ?鍛えれば行けるって。私だって初めのころは彼女程度だったでしょ」
「二千年も前の事忘れましたよ」
トワがにんまりと言い返す。
まったく、本当は数億年前の話すら覚えているくせに、いい性格をしている。
私が物心ついたときの魔力量なんて、実際ユイちゃんの半分もなかった。
先代が優秀な先生だっただけだ。
魔力量は増やせる。
ちゃんと勉強して魔力を練り上げ、星の力を自らの力に変える。
塔は星の力を適切に処理するための物でもある。
上手いこと力を放出できなくなると、星自らがその制御権を握るので、極端な気候変動が起きるのだ。
ほかの星が落ちてきたのなんて、力の制御ができなくなったこの星の力が、他の星に作用して呼び寄せてしまったに過ぎない。
まぁトワからの受け売りだけど。
「最近は、星の力も弱ってきてる気がするのよ?私が吸い上げる魔力は確実に減っているわ」
「お嬢様はお歳もあるかもしれませんが…まぁそうですね」
私の向かいに座ってトワは頬杖をついている。
まったく、本当に大切なことは口にしないのがトワなのだ。
数年前だって大きな災害が起きてから、別の塔が消滅しましたよーなんてのんきに言ってきたものだ。
塔の管理者どうしでコミュニケーションは取れないが、どうやら妖精たちには独自のネットワークがあるらしい。
「そういえば、トワ的に別の塔がなくなるのはどう思ってるの?」
「別に何とも。そのうち復活するし」
「そうなのね」
「新しい管理者ができればね。それまでは復活しないけど、どうせそんなの五千万年もすれば元に戻るから大したことないのよ」
「わー気が遠い」
「私達はそういう時間軸で生きてるんですよお嬢様」
さすが何度も生物の絶滅を見てきた奴の言うことはレベルが違う。
そうやってこの星は脈動しているともいえる。
一応は私だって”人間”だったんだから今の世界に未練だってあるんだが、そういえばトワは何に未練があってまだ消えたくないなんて言ってるんだろうか?
そういえばそのあたりは聞いたことがない。
まぁ聞いても教えてくれないだろうなぁトワのことだし。
そうだ、久々にトワで遊んでやろう
「ん~…ふっ」
「お嬢様、私の見た目で遊ぶのはおやめください」
「背格好は一緒じゃない」
「服装で遊ぶのはおやめください」
トワは今、パステルカラーのふわもこメイド服につつまれて、不貞腐れている。
たまにこういう遊びをするのが楽しいのだ。
トワはすごく嫌がるが。
「良いではないか~良いではないか~」
「いつの時代の遊びですか!服装だけは今風のを持ってきてぇ」
こないだコンビニで買ってきた雑誌のかわいい服をイメージしてトワを着せ替えて遊ぶ。
うんうん、かわいい。
ちょっと癒されたので元に戻してあげる。
「まったく、お嬢様のこの遊びには困ったものですね」
「いいじゃない、楽しいんだもの」
「はぁ…自分の思い通りにならなそうな事から目をそらすために私で遊ばないでくださいな」
「そうさせたのはトワでしょ」
「むぅ」
可愛くほっぺを膨らませて、トワはすっと消えた。
っち、逃げられたか。
仕方がないので、また本でも読むことにしよう。
あるいはたまにはユイちゃんと夕飯を食べてみようかな?
そんなことをモダモダ考えながら時間は過ぎていった。
*****
「というわけで、一緒に夕飯を食べて見ようと思ったので遊びに来たの」
私の目の前には、銀髪赤目のゴスロリ女性が一人。
トワさんはノックも無しに突然現れるせいで、部屋の扉がノックされたのにびっくりして扉を開けてみれば、アノマさんが立っていた。
よっと気軽に挨拶されて、するりと部屋の中に入ってくると、私の定位置であるローテーブルのクッションに勝手に腰かけた。
アノマさんの部屋で見ていた時は見た目とは裏腹に落ち着いた大人な雰囲気もあったのに、今はなんだか子供っぽく感じる。
「えーと。アノマさんって食事必要なんです?」
「要らないわよ」
「えぇ…」
「でもほら、人間ってみんなで食事をとってコミュニケーションをとるっていうじゃない」
「…多分そうですね」
「うん、ユイちゃんはそういう経験あんまりないんだね。大丈夫私もないから」
何が大丈夫なのかわからないが、アノマさんが手を叩くと、トワさんが出てくる。
「というわけで、コース料理をお願いね」
「はいはい、お嬢様の仰せのままに」
気が付いたらローテーブルは普通の四角いテーブルに代わり気が付けばクロスも敷かれている。
私も豪華な椅子に座っていた。
目の前にはたくさんのフォークにナイフにスプーン。
アノマさんに倣ってテーブルに置かれていたナプキンを膝の上に置く。
てか、アノマさんって日本人じゃないの?
こういうコース料理ってフランス料理とかじゃないんだっけ?
「前菜の、生ハムとチーズとピクルスでございます」
ちょっと大きめなおさらに、ちょこんと料理が乗っている。
どれも彩が豊かで、ピクルスもハンバーガーに入っているようなのではなくしっかり野菜って感じがする。
「シルバーは外側から使うのよ~」
アノマさんが使っているフォークを手に取る。
一番右側のフォークだ。
そんなに大きくない。
「ユイちゃんも飲む?」
「それ、お酒ですか?」
「ぶどうジュース」
いや、絶対それワインですよね?お酒の匂いがしますもん。
ちょっと呆れながらも生ハムを口に運ぶ。
何処で食べてもそれなりに美味しかった食材だ。
口の中でしょっぱさと甘さが広がる。
過去に食べたことがある生ハムはしょっぱいばかりで脂っぽく感じたけれど、これは甘みも感じる。
テレビで脂の甘味なんて話を聞いていたけれど、本当だったらしい。
ただ、チーズはしょっぱいだけだった。
私には味がわからなかった。
キュウリのピクルスは程よい酸味で、チーズのしょっぱさを忘れさせてくれた。
もうちょっと食べたいなって思うけど、さっき前菜だって言ってたからこれからメインが出てくるんだよね?
「スープのブイヤベースです」
食べ終わってお皿が下げられるてから、しばらくするとトワさんが今度はスープを持ってきた。
スプーンはこれ用だ!
オレンジ色のスープの中心にはホタテと大きなエビが鎮座していた。
こんな大きなエビ初めて見た。ホタテも大きい。
エビやホタテなんて、出前のお寿司に乗ってる奴しか見たことがない。
アノマさんはナイフとフォークも使っている。
あ、それも使うんだ具材も食べるからか。
「おいしいかしら?ユイちゃん」
「っ、はい、美味しいです」
「それは良かった」
口に運んだエビはぷりぷりだったし、ホタテはほろほろと繊維が舌の上でほぐれていく。
しっかり噛むとホタテのうまみが口の中に広がる。
他にも貝が置いてあるけどどうやって食べれば…あ、殻は持っていいんだ。
とってもおいしかった。
語彙力が無くて、美味しいとしか言えない。
きっとこのスープもいろんな素材の味が混じってこんなにおいしいスープになっているはずだけど、何が入っているかなんてわからない。
「きっとユイちゃんはこういう本格的なコース料理は食べたことないだろうから、一度は経験しておいて損はないでしょ?と思ったの」
スープを飲み終えると、アノマさんがまた話しかけてくる。
全くその通りだ。
ナイフとフォークを使ったのなんて、ファミレスぐらいしかない。
「食べ物はね、人を幸せにするっていうでしょ?私もそう思うの。食べる必要のない身体だけど、味覚がないわけじゃないからね、昔はたまにお出かけしてはお外でご飯をよく食べたものよ」
「お嬢様は黙っていなくなって、ひょっこり戻ってくるからこっちは生きた心地がしなかったですよ」
「まったく心配してない顔で、しれっと翌朝起こしに来るトワに言われたくないわねそのセリフ」
プイッとトワさんがアノマさんから目線をそらす。
なんだか小さい子が機嫌が悪いのを伝えているみたいで可愛い。
「食べ終わったなら、次はメインをお持ちしますよ」
そういって、トワさんがお皿を片していった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます