第4話 終末への足音

ユイちゃんが魔法の勉強を始めてから5年ほどが経った。

今では彼女も19歳となって、見た目もだいぶ女性らしくなった。

塔に来た頃は、まだまだ少女と幼女の間みたいな見た目をしていたが、それなりに発育良く育っている。

私に比べると胸は大きいし、ヒップラインもなかなかである。

ユイちゃんの成長に合わせて?トワも見た目が成長しているが、私は何もしていないので、トワ自身の意思なのだろう。

面倒なのでその辺は確認していない。

「アノマさんは本当に見た目が変わらないんですね」とはユイちゃんの発言。

見た目止めてるからね。

死ぬまでこの見た目だよ。


「ユイちゃん、塔の修復は出来るようになったし、最近はご飯も食べなくてよくなったね」

「そうですね、地球からパワーをもらえるようになってからお腹がすくっていう感覚がなくなりました」

ユイちゃんがあははーとわらっている。

うん、たぶん人間離れしてきていることに気が付いて遠い目になっているな。

「たぶんね、そろそろ体の成長を停めることもできると思うよ」

「え、そうなんですか?」

「私を見ればわかるでしょ?」

「…まぁ確かに」

根本的な見た目は代えられないが、成長を停めることは可能なのだ。

ユイちゃんの魔力はそろそろ私に匹敵してきているので問題ない。

今では塔の高さは下に向かって3階層ほど増えている。

これはユイちゃんに作ってもらった分。

おかげで、少しだけこの星の力を吸い出せた。

それに、ユイちゃん自身も時間の使い方がうまくなってきた。

のんびりスローライフを送っているみたい。

塔の周りを散歩する日課は変わらないけれど、その時見つけた草花を鉢植えに植えたりしている。

今ではユイちゃんも転移魔法が使えるので、もっとも近隣にある100円ショップというところで、鉢植えとか買ってきているようだ。

聞いたところ便利そうなので今度一緒に行こうと思う。



魔法が上手くなってくると、寿命の概念が無くなってきちゃうんだよね。

私みたいな存在が死ぬ時は星からのエネルギーを魔力変換できなくなった時だから。



*****

「昨日、塔が一個なくなりましたよ~」

午後のまどろむような時間、1階にユイちゃんが作った共同スペースに現れたトワが、あっけらかんと伝えてきた。

「え、それ大丈夫なんですか?」

「さぁ何が起こるかわからないですね」

ユイちゃんが心配そうな声を上げるが、当然トワは知らないと答える。

これで、地球に現存する塔は家を合わせて3本か…そろそろ危なそうだなぁ

「うーん、そろそろ塔を強化しようか」

「アノマさん、どういうことです?」

「そういえば、言ってなかったね。私の夢は人類が滅亡するところを見る事なんだよ」

「な、なんですかそれ」

私はユイちゃんに説明することにした。


私が人類滅亡を観測したいという願望を持ったのは、おおよそ千年ほど前になる。

事は単純で、塔の管理者として生きていても何の目標もなくなってきていた私は、過去の管理者の記録から、この星が自らの意思で生物を根絶やしにしてリセットしていることを知った。

であれば、意思を持ち、考えるということをするようになった生物である人がそれに直面したとき、どうなるのかな?という事にずっと興味があり、この塔を小さくコンパクトに納めている理由は、天変地異が起きた時も、私が生きて居られるようにするための手段だったのだ。


「ユイちゃんはだれか助けたい人とかいる?」

「…いえ、別に」

「それは良かった。この塔は”魔法使い”じゃないと入れないから、誰か助けたいとか言われても困ったけどね」

そういう意味でも、天涯孤独であるユイちゃんは都合の良い魔法使いの素質のある女の子だったのだ。

私の退屈しのぎにもなり、次期管理者にもなりえて、一緒に塔を維持するために大切な存在だ。

「ところで、人類は滅亡するんですか?」

「うーん、今すぐってことはないと思うけど、すでに世界に残っている塔はうちを合わせて3本。たぶん、そろそろ星が力を使って、世界をリセットしようとすると思うんだよね」

「リセットされると私たちはどうなりますか?」

「私とユイちゃんがいれば、塔を小さくして生き残れると思うよ。あとはリセット後の世界でどんな進化が起きるかを観察できるほど生き続けられるかは、その時にならないと分からないね」

「私達で地球のパワーをどんどん使ってもリセットは避けられないんですか?」

「無理だねー…私たちが使う星のパワーなんて微々たるものだから」

「そうですか」

うん、残念ながらね。力を適度に放出する塔が減ってくること自体が星のリセットのタイミングなんだよ。

うち以外に、1~2本塔が残っても、星の運命は変わらないからね。

「というわけなんだけど、トワ何とかなるかな?」

「1階部分だけにすれば何があっても耐えられますよ。そうやって耐えた存在は過去にもいましたし、星が力を放出した後に塔が復活するのは、最小限度に小さくなることで次の管理人が現れるまで待つようにできているので」

「じゃあ段階的に減らしましょう。ユイちゃんが増やした地下側に私の部屋を写し、上のフロアを1個減らしましょう」

「え?下に伸ばすんですか?」

「塔の記録を見る限り、そのほうが安全みたいよ?最終的には今いる1階のフロアと、その下のフロアだけを残すようにしましょう」

「うーん…それは最終的に私はアノマさんと同じ部屋で過ごすことになるんでしょうか?」

「そうなるわね」

「そ、そうですか」

あら、ユイちゃん私と同じ部屋が嫌なのかしら?

ちょっと、顔を赤らめてプルプルしているけれど、大丈夫かしら。

まぁどうしてもいやなら部屋の真ん中に壁でも作りましょうか。


****

アノマさんは鈍いです。

私がここに住むようになってから早5年。

いえ、二千年生きているというアノマさん的には微々たるものでしょうか、私は19歳になりました。

様々な現実から悲観的になっていた昔の私はもうなく、アノマさんやトワさんから優しく接してもらい、心身ともに健康な状態です。


ただ、どうも私は恋愛対象が男性ではなかったようです。

さんざん体を使ったとはいえ、そこに”愛”などなく、あくまでもお金を稼ぐための手段でしかなかったこと、また、異性に対する最も単純な欲望にふれすぎたというのもあるのでしょう。

今はアノマさんと一緒に過ごすと、やさしい気持ちになり、ずっと一緒に居たいと思うようになりました。

もしかすると、これは恋というより、親に対する安らぎなのかもしれませんが。


トワさんはどうも人の心を読めるらしく、私の思いに対してニヨニヨとほほ笑みを浮かべてはたまにからかってきますが、アノマさんには何も言っていないらしく、ある種何にも考えて居なさそうなアノマさんはこちらの気持ちに一つも気が付いてくれません。

それが、意図せず一緒の部屋で過ごすことになるかもしれないとか…私の心臓持つかな?


なんてことを思いつつも、人類が滅亡する地球がリセットされるという内容のほうはいまいち頭に入ってきませんでした。

ただ、塔の記憶とでもいうべき本が読めるようになった今、その意味するところは分かります。

地球は自ら再生するんですね…あまりにも極端な環境になると、自らを最初に戻そうとするようです。

そのフラグが、塔の消滅。

トワさん曰く、いま地球にある”恐れの塔”は3本。

アノマさんが管理しているのを入れて3本なので、地球のエネルギーを放出する塔が圧倒的に少ない状態。

なので、地球のエネルギーが一気に放出されることで、リセットされるらしい。


たまにアノマさんの部屋で聞くラジオではそんな兆しもなく、まだ毎日魔法を教えてもらいながらゆったりとした時間を過ごしているある日、それは起こりました。

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