第3話 「信頼」
ヴァイオレットから嫌われワンアウト。
盗賊団が近くまで俺たちを探しにきて......これでツーアウトってとこか。
......いやいや、 余裕かましてる場合じゃない。
「おい! 早く隠れろ!! 」
「なっ?! まだ話は終わってな......」
「馬鹿か! 今の声聞こえなかったのかよ!! 」
文句を言う相手も強引に小屋の中に連れ込む。
彼女を部屋の中心に突き飛ばしつつ、
入り口の前にそこら辺にあった家具を置いて外からの侵入を防ぐ。
後は息を殺して奴らが通り過ぎるのを待つしかないだろう。
とは言ってもあまり意味はない。
こんなバリケードなんて時間稼ぎでしかないし、
そもそもここまでやって来てるって事はこの隠れ家の事がバレてるって事だ。
小屋が見つかればそれは俺のいる場所と判断される。
そうなってからではもう遅い。
その前に逃げなければ。
いや、 そのチャンスはとっくに失われたな。
今出ていった所で見つかるのが関の山だ。
あと少しでも早く準備が終わってここを出ていれば......。
そんな事を考えずにはいられない。
とは言っても後の祭りだ。
ここでこうしていてもしょうがないし、
一か八か裏口から逃げるしかないか。
かなりリスクは高い。
ヴァイオレットにだって無理をさせる事になるだろう。
しかし元はと言えば準備が進まなかったのは彼女が原因だ。
ここは頑張ってもらおう。
そう思い振り返ると、
彼女は、 ナイフを両手で持って構え、
必死の形相で俺を睨んでいた。
「なんのつもりだ」
聞いてはみたが分かってはいる。
彼女は自分を守ろうとしているのだ。
だからこんな行動を取ってる。
「ほらやっぱりそうじゃない! お仲間が来たわよ! このまま引き渡すつもりなんでしょ?! ......いや、 それどころか......ここで襲うつもりなのね。 だからわざわざこんな所に連れてきたんだわ! 」
被害妄想だ。
そんな回りくどい事をして何になると言うのか。
しかし彼女の中ではもうそれが事実になっているのだろう。
俺への疑心と、 主人公たちに裏切られたトラウマ。
そのせいで冷静な判断が出来なくなってるんだ。
......いや、 この状況なら普通にそう思うか。
さてどうするかなぁ。
きっとここで俺がいくら言い訳しても信じてくれないだろう。
ヴァイオレットの運命を知ってると言ったら更に引かれるだろうしな。
説得もダメ。
かと言ってこのまま逃げるのもダメ。
だとしたら、 出来る事は限られてくるか......。
「おい! 小屋があったぞ!! 」
「入り口はここだけで窓もねぇか......って開かない! 」
「堤防でも作ってんだろ! 壊しちまえ!! 」
ああ、 くそ。
悠長に考えてる時間はなさそうだな。
小屋が見つかって、 しかもバリケードごと扉を壊しにかかってやがる。
俺と彼女は睨み合ったまま喋らない動かない。
そんな状況で、 外で破壊工作をしている野盗共の作業音が響く。
「何で、 何も言わないのよ」
先に沈黙を破ったのはヴァイオレットだった。
「本当にそうなの?! あいつらを裏切って私を助けた訳じゃないの?! 」
何だ、 あそこまで言っておいてまだ俺を信じる心が残ってるのか。
と言うか、 信じたいんだろうな。
主人公たちに裏切られ、 家を追い出され、
信じる者がいないこの状態。
誰かに縋りたくなるのは当然だろう。
今のこの短時間での落差だと情緒不安定にしか見えないが。
こう言う弱い部分も可愛いんだからこの子は。
ならまだ俺にも名誉挽回のチャンスがあるという事か。
今ここで信じてくれないなら、 いっそテキトーに騙してここから連れ出すなんてのもありか。
信頼は後々積み重ねればいい。
だからここはその場限りの嘘を......。
いや、 ダメだな。
「......ああ、 そうだよ」
「え? 」
俺には推しに嘘をつくなんて事は出来ない。
「あいつらとはここで合流予定だったのさ」
でももしそうしなければいけないのだとするならば。
「でも俺が先に手を出しちまってんじゃないかってキレてんだよ」
それは、 この子の為に命を差し出す覚悟がある時だけだ......!
「おいおい。 そんなナイフ一本で俺をどうにか出来るとでも......ぐあっ!! 」
俺の身体に顔面に拳大の火球がぶち当たる。
当然彼女が放ったものだ。
それは俺の顔を焼いた後、 後ろに抜けてバリケードごと扉を破壊した。
その先で叫び声が下から、 野盗にも当ってるかもしれない。
もしそうなら好都合だ。
「し、 知ってたわ......! 最初から分かっていたもの! 」
そう言う彼女の身体は震えていた。
下を向いて両方の拳を握りしめてワナワナしている。
きっと怒ってるに違いない。
「だからあんな風に言ったんだもの! 分かってたわ! 信じてなんかなかったわ! ざまぁみろ! 騙させる前に見破ってやったんだから! この嘘つき!! 」
そしてヴァイオレットはグッと顔を上げ俺を睨み言った。
「さようなら。 最低の嘘つきさん」
その表情は、
怒ってるどころか、
悲しそうで、
切なそうで、
そして、 涙を浮かべていた。
そこで俺は気づいたんだ。
ああ、 否定して欲しかったんだな。
それでも俺がお前を守ると言って欲しかったんだな。
馬鹿だ俺は。
この土壇場で推しを傷つけるなんて。
今更気づいてももう遅い。
ヴァイオレットは扉とは反対側の壁を壊し、 外に逃げて行った。
そっちには野盗の気配もない。
いい判断だ。
しかし驚いな。
今のはゲームでも見た事のない彼女の表情だった。
きっとED経て、 変化したんだろう。
そんなものを見れたんだから、 役得かもしれない。
そして、 彼女が少しでも長く生きる手助けが出来たんなら。
文句もない。
そしてそんな役得の俺の最後のモブキャラとしての仕事は。
「おい。 女はどうした? 」
「......見ての通り、 逃げられちまいましたよ」
コイツらを少しでも長く足止めする事だ。
「ざけんじゃねぇぞテメェ!! 」
いつの間にか野盗たちが小屋の中に入って来ていた。
その中に、 兄貴Aもいて、 俺を掴み上げ投げ飛ばされる。
「ぐはぁ! 」
俺は壁に叩きつけられ、 力なくその場にへたり込んだ。
「好き勝手しやがって! テメェ覚悟は出来てんだろうなぁ! おかげでこっちは死にかけばっかだ! 死んだ奴もいるんだぞゴラァ! 」
ちっ、 やっぱあれぐらいじゃほぼ全滅とはいかないか。
けどここに来ているのはどうやら二人だけのようだ。
他に気配もない。
これなら彼女が逃げ切る事も可能だな。
後は俺の頑張り次第か。
「うるさいっすよ兄貴。 こちとら顔大火傷して死にそうなんすから」
「おうおうそりゃあよかったな! 仲間たちと一緒だぜぇ! 同じ苦しみを味わいやがれ! 」
なるべく気を引くようなセリフを言ってみる。
効果は抜群。
兄貴Aは死にかけのをまた掴み上げて壁に押し付けてくる。
苦しいが、 これで二人を足止め出来た。
まぁ元々コイツらの目的は俺だろうけどな。
「アニキ、 何でこんな事したんすか? 」
お、 子分A。
お前も無事だったのか。
あの時は殴って悪かったな。
「あんたらとつるむのに嫌気がさしたんだよ。 だから仕事の邪魔してから消えようとしたのさ」
どうだ、 ムカつくだろう。
俺の事殴りたいだろ。
殺したいだろ。
そう思うならそうしろ。
それに時間をしてくれる分、 彼女が遠くに逃げられる。
「そんな事の為に......? ちくしょう! アンタはもう兄貴とは思わねェ! ぶっ殺してやる!! 」
おいおい。 まだお前は俺を兄貴だと思ってくれてたの?
良い奴だなぁ。
......でもそうしてくれ。
俺も精一杯抵抗するから。
そうしてる間にヴァイオレットが......。
「おい待て、 女を追うぞ」
そんな俺の希望を嘲笑うかのように、 兄貴Aが言う。
え、 ちょっと待て。
なんでそうなる。
「どうしてっすか!? 」
「コイツをぶっ殺すのは簡単だ。 でもよ、 だったらもっと絶望する顔が見たくねぇか? コイツ、 あの女に熱心だった
みてぇだからなぁ」
「......なるほど」
くそ!
まさか俺の推しへの想いがバレていたなんて!
この溢れる気持ちの馬鹿!!
って考えてる場合じゃない!
「おい、 女を探して来い」
「わかりやし......タァ? 」
兄貴Aに命令された子分Aが走り出そうとして突然崩れ落ちる。
後頭部にはナイフが刺さっていた。
俺が今、 投げたものだ。
手を自由にしてたのが悪かったな。
どれだけ裏設定を細かく決めてたのか知らないが、 俺は投擲の名手なんだよ。
これぐらい簡単だ。
「っ?! テメェ!! また仲間を殺しやがったな!! 」
「が、 はぁっ!! 」
怒り狂った兄貴Aが俺を床に叩きつける。
肺の空気全部が......と言うか内臓全部が飛び出しそうな苦しいと痛みが全身に走る。
そうだ。
俺は今、 人を殺した。
まぁそんなのは日常茶飯事だった訳だし、 さっきだって仲間を殺した。
でもそれは前世の記憶を取り戻す前だし、 さっきのは自覚もなかった。
しかし今は、 確実に目の前で、 これの手で殺した。
記憶を取り戻して、 前世で人なんて殺した事なんて当然なかった俺がだ。
でもそうまでして彼女を逃したい覚悟が、 俺にはあった。
「くそが!! ふざけやがって!! 殺してやる! 殺してやる!! 」
兄貴Aは俺に対し、 殴る蹴る投げるの暴行を激しく繰り返す。
俺は最早呻き声すら上げる余裕もなかった。
でもそれでいい。
コイツの気を引けるならそれでいい。
その為に、 人殺しだってしたんだから。
しかし暫くすると。
兄貴Aは俺を殺し切る前に手を止めた。
そして、
「......待ってろこの悪魔め。 女を連れてきて目の前で犯してから殺してやる」
絶望的な一言を言い放った。
そのまま小屋を後にしようとする兄貴A。
まずい。
これじゃ逆効果だ。
俺を殺しただけじゃ済まなくなってしまった。
仲間が死ぬ程の損をしているとはいえ、 普通ならしれで諦めるだろう。
しかし今のコイツなら見つかるまで血眼になって探すに違いない。
「ま、 て......」
俺は最後の力を振り絞り、 兄貴Aの足に全身でしがみ付いた。
何としてもここから逃す訳にはいかない。
「俺を殺して、 それでチャラにしてくれ、 な? 」
「ふざけんじゃねぇ!! 」
殴られても、 蹴られても、 壁や地面に叩きつけられても。
俺は離れなかった。
それでもコイツはヴァイオレットの後を追おうとする。
だからその時は脚に噛み付いて止めさせた。
それを、 何度も何度も。
気力が続く限り続けた。
「なんであの女にそこまでする!! 今日会ったばかりの獲物だろうがよ!! 」
途中そんな事を聞かれたので答えてやった。
「あの子は、 なぁ! 可哀想な、 子、 なんだよ。 どうやっても今のままじゃ、 幸せに、 なれない! だから俺が! その運命を変えるんだよ!! 」
その後は折角答えてやったのに、 「意味が分からない」と殴られた。
ちくしょう、 理不尽だ。
でもそれでも。
ここまで言っても兄貴Aは諦めようとしなかったので、
俺は最後の手段に出た。
「なぁ、 頼むよ。 あの子だけは見逃してくれよぉ」
情けない話だが。
俺にはもう、 泣き落としで頼み込む事しか出来なった。
「俺の事はどうしてもいい! だから、 だからあの子だけは!! 」
もうその頃には、
自分自身がなんでここまで必死になっているのか分からなかった。
たかが推しキャラに命をかける?
いくらなんでもそれはやり過ぎだろう。
前世の俺ならドン引きだった。
でも俺は知っているんだ。
彼女の悲惨な運命を。
何個も、 何個も。
その苦しみに比べれば、 俺の命ぐらい......!
だから俺は、 必死に食らいついた。
「......気持ち悪い野郎だ」
どのくらいの時間が経っただろう。
いい加減俺に付き合うのも疲れたのか、
兄貴Aが足を止めた。
「もう女なんかどうでもいい。 テメェさえぶっ殺せばそれでいい」
ようやくそういう考えになってくれたか。
しつこくウザイぐらいにしてよかった。
「さっさと死ね。 この裏切りもの!! 」
そして兄貴Aは俺にとどめを刺すべく、 ナイフを手に持ってそれを振り下ろした。
まぁもうここまでボロボロだとそこまでしなくても死ぬんだが。
気持ちの問題だろうな。
いやでもよかった。
やるだけやった。
結構時間は経ったし、 もうコイツが追いかけられないくらい遠くまで逃げただろうな。
その後は面倒を見てやれないが、 少しでもあのEDから離れた展開になってくれるといいんだが。
幸せになれなくても、 せめてもう少し長く生きてくれれば。
あーあ、 でも本音を言えば最後まで付き合いたかったな。
EDのような展開を乗り越えるところまで見てやりたかった。
でもそれはもう叶わない話か。
ならせめて次の人生は。
あの子に近い存在に生まれ変わりたいな。
次はあるかなんて知らないが。
そんな事を考えてるうちに、 俺の胸に向かってナイフが降りてくる。
何故かゆっくりと。
死ぬ瞬間はスローモーションに見えるって本当なんだな。
......ハハ。
しかもこれあれだ、 幻覚まで見えてやがる。
そのナイフの向こうにありえない存在が見える。
そんな筈はない。
だって彼女はもうとっくに逃げて......。
「仲間と合流するって言うのも嘘だったのね。 これは仲間割れって次元の様子に見えないもの」
ああ嘘。
幻聴まで聞こえる。
「本当にあなたって、 最低の嘘つきさんね」
でも幻聴でもいいか。
あの大好きな声を聞きながら死ねるんだ。
こんなに幸せな事はない。
そうこうしているうちに。
ようやく。
俺の胸に。
兄貴Aのナイフが突き刺さった。
いや、 刺さらなかった。
「あっつぅ!! 」
兄貴Aが突然悲鳴のような声を上げる。
見ればナイフを持っていた手が焼け焦げ、 ナイフが弾き飛ばされていた。
それを成したのは、 火球だ。
火の魔術。
使ったのは、
ヴァイオレットだった。
彼女は幻覚でも幻聴でもなく、 そこに本当に居たのだ。
何で? 逃げた筈じゃあ......。
「て、 テメェ! どいつもこいつもふざけやがって!! 」
兄貴Aが怒りに我を忘れながら暴れ出す。
そしていきなりヴァイオレットに向かって走り出した。
やばい! 狙いを向こうに変えやがった!
「く、 来るならきなさいよ!! 」
彼女はそれを迎え撃とうとしていた。
火球を準備し、 兄貴Aに向けて再び放とうとしていたのだ。
ああ、 凄いな。
まさかあのエンドからここまで成長するなんて。
ゲームをプレイしていただけじゃ絶対見れなかったな。
彼女の目には、 生きようとする意思がメラメラと燃えているように見えた。
覚悟を決めた人間の顔だ。
この男を殺してでも、 生きようとする人間の目だ。
きっと今の彼女なら、 兄貴Aを本気で殺すだろう。
その成長自体は素晴らしい。
でも、 ヴァイオレットにそんな事はさせられない。
君を推すファンとして......そんな事、 見過ごす訳にはいかないんだ!
「っ?!......」
次の瞬間、 兄貴Aは声も出さずに崩れ落ちた。
後頭部にはナイフ。
当然、 俺が投げたものだ。
そのまま兄貴Aは絶命し、
二度と起き上がらなかった。
◇◆◇
「......なんで戻って来た」
その後。
俺は本当に壊れかけた小屋の壁に座ってもられかかりつつ、 ヴァイオレットに尋ねた。
身体中が痛いし口の中もぐちゃぐちゃだから上手く喋れない。
でもそれだけは何とか絞り出せた。
「......別に」
いやどこぞの女優じゃないんだから。
「別にアンタを利用しようと思っただけよ。 一人じゃこの先生きていけるかどうかも分からないから! 私、 貴族だから! こんな野に放たれても生活出来ないから! 」
ちくしょう。 ツンデレ、 なのかこれ?
気持ちは嬉しいが何を考えているのか全く分からないな。
ゲーム中の彼女の思考なら直ぐに読み取れるのに。
これはEDを超え、 色々痛い目に合った彼女が成長したって事なのか?
「それに......謝りたかったから」
ん? なんだって?
今の言葉はゴニョニョ言ってて聞き取れなかったぞ?
「悪い聞こえなかった。 もう一度言ってくれ」
「っ!? うるさい! 二度と言わないわ!! 」
ええー......なんなの?
「とにかく! アナタの覚悟は見せて貰ったわ! 本当に私を助ける気があるようね! 」
今度は急に上から目線だし。
情緒不安定か。
まぁそういう所も可愛いんだが。
「だから一緒に居る事を許可してあげる! 私を助けて死なないようにしなさい! そして私を養いなさい! 」
それにしてももう少し頼ま方もいうものが......え?
今なんて言った?
いや聞こえはしたんだけど。
「......それは、 俺を、 信じるという事か? 」
口をモゴモゴさせながら何とか問いかける。
それに対し、 ヴァイオレットは頷いた。
「命を賭けてくれたんでしょ? なら信じてあげてもいいわ! 」
......。
.............。
ああ、 嘘だろ。
推しキャラが。
あのヴァイオレットが。
俺を、 信じると言ってくれた。
ああもう今には天に召されそうな気分だぜ。
いや召されないけどね。
だって。
俺はこれなら、 この子を守らなきゃいけないんだから。
「おいおい。 そりゃありがたいが、 ちゃんと俺の言う事聞けるのかよ? 」
嬉しくて堪らないが俺はその態度を微塵にも出さない。
何故なら俺はモブの野盗だ。
あくまでその役割から逸脱し過ぎないようにしなきゃいけないんだからな。
もうこの時点で遅いかもしれないが。
それでも、 俺はこの世界の住人として、 彼女を救わなきゃいけない。
きっとそれが彼女の為になる筈だ。
「か、 勘違いしないでよね! 主人は私の方よ! アナタは下僕なんだから! ......でも、 生き残る為に、 少しくらいは聞いて、 あげる」
っ!?
ぐぼぁ......こんなの卑怯だろぉ。
でも落ち着け。
こんな嬉しいカウンターを食らっても、 俺は平常心でいなきゃいけないんだ。
あくまでモブとして。
あくまでこの世界の住人として。
彼女の、 EDのその先を見る為に。
「ふっ。 なら先ずはその服で我慢して貰う事だな。 それから......」
そう言いながら俺は右手を出した。
これは俺の最大限のわがまま。
我慢はするが俺だって少しは報われたっていいだろ。
「手をかしてくれ。 一人じゃ立てない」
手を握るぐらいなら......いいよな?
まぁ本当に一人じゃ立てないんだが。
「わ、 分かったわよ......」
どの点に着いて了承してくれたんだかは分からないが、 少なくとも俺にはもう敵意はなさそうだ。
「アンタ、 名前は? 」
ヴァイオレットはそう尋ねながら手を伸ばしてくる。
だから俺は、 それに答えながら手を掴んだ。
「名前なんてねぇよ。 ラッド。 そう呼ばれてただけだ」
すると、 次の瞬間。
「え? 」
「......は? 」
繋がれた手から、 光が溢れ俺を包んだ。
そして、
「痛みが、 引いた? 」
この出来事が、 俺たちの今後を決める事となった。
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