マジ?! 真面目くん

@tonari0407

僕は僕らしく生きていく

 皆さん、はじめまして。

 僕は真地一 まじはじめ。15歳の中学生です。

 友達からはまじめ君と呼ばれています。名前をちぢめたアダ名です。いじられている訳ではありませんよ。ご心配なく。僕の学友達はみんな良い人ばかりです。



 おっ、そろそろ6時になる。

 いつも通り目覚まし時計より先に起きてしまいました。長年の習慣ってこわいですね。


 ジッ――ぽちっ


 とはいえ時計の役割を奪うのは心苦しいのでいつも0.5秒ほど音色を聞いて、そっとボタンを押して止めるんです。ツルツルの頭を叩いたりなんてしません。優しく押してますよ。


 まだ眠っている妹は起こさないようにそっと移動します。僕たちは2段ベットで寝ているんです。


 えっ? なら目覚まし時計を鳴らすなって?


 うーん、僕は物の役割を奪うのはちょっと……。今後も精進してもっと早く止められるようになります。0.1秒までいけるかなぁ?


「おはよう!」

「おはよう、はじめ。今日も早いわね」


 ここにいるのはお母さんです。

 お母さんは専業主婦で年はなんと35歳。


 若いでしょう? とても可愛らしくて実年齢よりも更に下に見えるので一緒にいると姉弟だと思われます。 僕はお母さんが20歳の時に生まれた子なんです。


 初恋を実らせた末の結婚。僕も真面目に生きて、素敵な人と出会って恋をしたいなぁ。


 恥ずかしながら、僕はまだ人を好きになったことがないんです。


『きゅんっ』ってどんな感情ですか? もし機会があれば教えてもらえたら嬉しいです。



はじめ、おはよう」


 渋い声で新聞の陰から挨拶してくれたのは、僕のダンディーなお父さんです。白髪まじりの格好いい角刈は僕の憧れです。


 お父さんは真面目な銀行員です。金銭面には厳しくて、僕のお小遣い帳を見ては小言を言ってきます。少しうるさいお父さんですが、僕は尊敬しています。発言に重みがあるんです。家族を支える一家の大黒柱ですからね。


 今日の朝御飯は、豆腐とワカメの味噌汁に焼鮭、ほうれん草のお浸しにだし巻き玉子、そして炊きたてご飯です。


 お母さんの料理は絶品ですよ。

 ごめんなさい。あげられません。これは家族のために作られた愛情たっぷりの朝御飯ですから。


「いただきます」

 一口一口しっかり噛んで食べます。よく噛むことは大事です。消化も良くなりますし、時間をかけて食べることで満腹中枢も働きますから。


 そして何より、こんなに美味しいご飯を急いで食べちゃうなんてもったいないじゃないですか。


 あっ、ばれちゃったかな? 僕が早起きする理由。

 ゆっくり楽しみたいからです。家族の朝御飯の時間を。


「……おはよぉ」


 家族の最後の1人がやっと起きてきました。

 小学5年生の妹です。生意気盛りになってきて、突っかかってくることもありますが、可愛い妹ですよ。


 あっ、可愛いけど、まだこの子は子どもですから恋をするのは早いです。


 先日、色つきのリップを一生懸命塗って、よそいきのワンピースで姿鏡の前にじっと立っているのを見つけたときは、微笑ましく思いましたが……。

 とにかくまだお嫁に行くには早すぎる妹です。


「あっ! 」

 大事にとっておいた好物のだし巻き玉子を妹にとられました。妹は僕に何も言わずに嬉しそうにほおばっています。


 でも、怒りません。僕はお兄ちゃんですから。


「お兄ちゃんのはいいけど、他の人とかにはそういうことやらないようにな」


 声をかけると、妹はちらりと僕を見ました。


「こんなことお兄ちゃんにしかやんないも~ん。お兄ちゃん優しいから 」


 口にご飯粒をつけて、にこっと歯を見せて笑う妹に怒ったり出来ないでしょ?


 僕は妹のご飯粒を取ってやりました。

 ちゃんと、食べましたよ? お米には7人の神様がいますから。

 誤解しないでください。クラスの女子とかにはしないですからね!


 歯を磨き、身だしなみを整え、持ち物のチェックをして、僕は学校に行く準備をします。


「行ってきます」

 見送ってくれたのはお母さんと妹。お父さんは先に出勤していきました。そのときは僕も見送りましたよ。


 満面の笑顔で手を振って、僕は学校に向かいます。いかなるときも、笑顔と挨拶は欠かしません。


 いつ誰とお別れすることになるかなんて誰にもわからないですから、僕は今を精一杯生きるんです。後悔のないように。


 特に何も変わりない平坦な通学路。中学校までは歩いて10分程の距離です。学校に行ったら友達付き合いとか勉強とか色々ありますから、この通学時間は貴重な僕のぼんやり時間です。


 僕の家は田舎の中でも特に外れたところにある一軒家なので、通学するときもあまり友達には会わないんです。ご近所付き合いは大事なので、出会った人にはちゃんと自分から挨拶していきますよ。


「おはようございます! 」

「おお、はじめくん。朝から気持ち良いあいさつだねぇ。おはよう」


 にっこりと笑いかけてくれたのは、柴犬のポチを散歩させていた近所のおじいさんです。小さい頃から兄妹ともに可愛がってもらっています。


「おはよう。ポチ」

「わんっ!」


 ポチも僕に挨拶をしたのを見ておじいさんは軽快に笑います。

 ポチが踏ん張り始めたので、僕はプライベートな時間を邪魔してはいけないと思い、足早に立ち去りました。



 もうすぐ中学校です。中学校周りは幼稚園等もあるので、ちらほら人がいます。ちびっこ達は跳ね回っています。


 動物の絵がついたピンク色の幼稚園バスがやってきます。昔は僕もあれに乗っていたなぁ……


「あっ! 」


 帽子をブーメランのように飛ばした女の子が道路に落ちたそれをめがけて走っていきます。その先にはバスが迫っていて――


 キキィッ!!!

 ゴンッ!


 僕はカバンも何もかも放り出し、必死で走り、身をていしてバスから女の子をかばいました。


 その後はわかりません。




 ◇




 僕が目を覚ましたとき、僕の周りには泣き腫らした目の家族がいました。


「「はじめっ!」」

「お兄ちゃん!」


 ベットに横たわる僕に3人が泣きすがります。どうやら僕は生きているようです。


「無事で、良かった。人を助けろとは教えたが、命を捨てろなんて言ってない……」


 お父さんの涙なんて初めて見ましたよ。

 僕も泣いてしまいました。



 目を覚ましてから数日後、バスはスピードが出ていなかったこともあり僕は退院しました。

 どうやらバスの衝撃ではなく、僕自身が慌てすぎて気絶して、自ら転んで頭を打ったようです。

 大変お恥ずかしい。ご心配おかけしました。


 短い入院期間だったのに、友達が千羽鶴を折ってくれて、彼等のありがたみを知りましたね。僕は友達が大好きです。



 病院の外に出ると、見知らぬ女性と小さな女の子が僕を待っていました。

 女の子は僕の方に走ってきます。


「あっ、あの! たすけてくれてありがとぉっ」

「ああ、あの時の子か。無事で良かった」


 お母さんから聞いて知ってはいましたが、女の子は傷ひとつなく元気そうです。


「あのね、おれいにこれ……」

 女の子はそっと何かを手に渡してきました。


 手芸用の赤いモールで作った小さな輪っかです。


「ありがとう。なにかなー? 可愛い」


「……これ、ゆびわ。

 あたしはプリンセスだから、おとなになったらナイトのあなたとけっこんしてあげる」


 僕は一瞬固まって、女の子を凝視します。

 唇が赤く塗られていて、僕の半分ほどしかない背丈は震えています。目は緊張にうるんでいて――


「やくそくねっ! 」


 そう言って女の子はくるりと背を向け、保護者の元に走っていきました。彼女の手を繋いだ母親らしき人が、僕に向かって何度も深々と頭を下げています。


 ……みなさん、これが『きゅんっ』でしょうか?


 どちらにせよ、真面目な僕には選択肢は1つしかなさそうです。


 お父さんもこんな気持ちだったのかな?


 僕は僕らしく生きていきます。

 大人になるのが楽しみです。

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