第10話「少年と侵入者(3)」
「ちょっと話なさいよ、ヒロのところに行かせて、離して! 離してよ!!」
「ノームの作った剣? オリハルコン??」
「しっ、知らない、知らないわ聖剣なんて、聖剣なんてこの森のどこにもない、探したって無駄よ! ヒロのところに行かせて、ヒロを助けないと、ヒロ! ヒロ! ヒロ!!」
遠くでフェイの声が聞こえる、ボクは地面に頭がついたまま動けない、奴らの狙いはオリハルコンの
***
「……ごめんなさいウンディーネ、こいつら湖のこと知ってて、私、時間稼ごうとウソをいっぱいついたけど騙しきれなくて、ヒロ、ヒロも、じ、じんじゃっで……」
「お願い、逃げて、ウンディーネ、こいつらウンディーネの湖に毒を撒いて汚染させるの、それで聖剣を、オリハルコンの剣を奪おうとしている!!」
「よく聞いてウンディーネ、こいつらのヨロイは固くて鋼のナタなんかじゃ切れないわ、必ずオリハルコンの剣かしっぽを使って!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ボクはその言葉を聞いて安心した、大丈夫、フェイはボクを信じてくれていた。
ボクが絶対死ぬ筈ないと、必ずここに、キヨミズの住む聖剣の湖に来ると。
ああ、フェイの小さな体が白いヨロイの人間に紐で縛られてしまっている、吊るされている、そんなんじゃ綺麗な羽がボロボロじゃないか。
フェイ、ありがとう、ボクが回復する時間を稼いでくれて、フェイありがとう、ボクがここに戻る時間を稼いでくれて。
絶対に許さないぞ人間!!
「炎のしっぽ!!!!!!!!!!!!」
ボクの左手、サラマンダーのホムラのしっぽで作られたその左手が燃え上がり黒いヨロイの人間を包み込んだ。
「前衛の三人だけが倒れた、やっぱりフェイに当たらないようにすると後衛の奴は」
「ヒロ!!」
フェイが縄を解いて逃げた???
すごいよフェイ! 紐に切れ目を作ってた? 刃物隠し持ってた???
さすがフェイ、人間達と冒険して来ただけの事はある!
「フェイ!!」
「ヒロ!!」
フェイがヨロイの人間を蹴りつけボロボロの羽でこっちに飛んでくる、フェイは凄い、全然あきらめてない!!
「フェイ、酷い、大切な羽がこんなに傷ついて」
「大丈夫よヒロ、羽なんて平気、こっちには水の大精霊キヨミズが居るのよ、彼女はこの状況にかなりお怒りよ」
フェイは湖を見てうなずいた、湖は鏡のように揺らがず木々もただ見つめているだけだったがキヨミズの静かな怒りが伝わって来るようだった。
「いいのキヨミズ?」
次の瞬間、湖の真ん中にキヨミズが人の姿で立っていた、その手には土の精霊ノーム達が国じゅうのオリハルコンを集めて作った剣、光を煮しめて作られたような
そしてキヨミズはボクにうっすら笑みを浮かべただ単純に『殺せ』と言ったような気がした。
ボクは湖の水の上を歩き聖剣を、オリハルコンの剣を水の大精霊ウンディーネ、キヨミズからかしづき受け取った。
残ったヨロイの人間達はその光景の意味を理解した、聖剣は勇者に渡ったのだ。
勇者の名は『ヒロ』
聖剣オリハルコンの剣を振るい悪を討つ者。
ヨロイの人間達は思っただろうボクの右手に収まったその聖剣は自分達の醜さを覆い隠す分厚いヨロイをいとも簡単に切り裂くだろうと。
「剣で受けても無駄だよ」
ボクは黒のヨロイの一人に切りかかる、そのヨロイの人間はボクの剣撃を剣で受けようとしたが、その剣ごとスルリと切られそのままヨロイを胴体と共に斜めに切り取られた。
「?!!」
「やっぱり大きな音がするんだね鉄砲って、でもダメだよ、ボクに届く前に炎のしっぽか燃やしちゃう」
一人の人間が放った銃弾はボクに届かず液体となって蒸発した、ボクの左手、炎のしっぽの目の前に居た銃を撃った黒いヨロイの人間は弾丸を溶かし蒸発させた炎しっぽのついでに焼かれヨロイも残さず蒸発した。
「フェイに酷い事したのは君だね」
ボクはボクの内に潜む人間の本能とも呼べる暴力性とその暴力性の引き金となる怒りを自然と共にある精霊の無慈悲な行動原理と共に最後に残った白いヨロイの人間に向けた。
そこにいた人間は気づいただろう、何に向き合っていたのか、何に敵対したのかを。
ボクは右手に持っていた聖剣、オリハルコンの剣をホムラのしっぽで作られた左手に持ち代えその刀身を炎で筒んだ、青銅色だったオリハルコンは
そしてこの森から人間がいなくなった。
ヒロはもう精霊側の生き物だった。
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