第08話「少年と侵入者(1)」

 朝起きると外は薄い雪化粧、灰色グリズリーのクマ吉は冬眠中、サラマンダーのホムラはボクの家のカマドに丸まり決して外に出ようとしない、その年の冬も何時もと同じ冬になる筈だった。


「キヨミズおはよう、今日も水浴びしに来たよ」


 ボクは左手の火傷の時以来よく水の精霊ウンディーネ、キヨミズの住む聖剣の湖に水浴びに来ていた、それは最初完全に馴染んでいなかった左手の治療の為だったが最近ではキヨミズのところに遊びに来るって感じになっていた。


「キヨミズも丸くなったものね、前は聖剣を守る為とか言って、湖に近づこうとすると虫けら踏み潰すよな目をして攻撃してきてたのに」


 フェイが丸くなったと言ったキヨミズはその昔、魔法王タナカの魔法騎士、女性エルフのアスタリスクが所持していた聖剣、オリハルコンのつるぎをその身たる湖に隠していて、それを守る為にここに人間を近づかせないようにしていたとフェイがキヨミズの言葉を話してくれた。


「そうなの?」


「そうよヒロ、だから私達も昔はここに近づかなかったし、キヨミズだって人間語の名前はもってなかったわ」



「そうなのキヨミズ?」



 ボクがキヨミズに聞くとフェイがキヨミズにボクの言葉を訳す。


 キヨミズは今、透明で人の大きさの姿をしており湖のほとりに腰をかけボクに微笑んだ。


「そうだってさ」


 フェイがそう言うのを待たずボクも笑ってキヨミズを見る。


「知ってるヒロ? その女性エルフ、アスタリスクは炎の魔法を使い手なの、水の大精霊ウンディーネのキヨミズとはライバルって感じだったのよ、でも仲良しなの」


 キヨミズはボクとフェイの通じない会話を聞きながらもボクやフェイの顔を優しく見つめる。


「炎のしっぽが左手のヒロと少し似てるね、キヨミズもそう感じてるから丸くなったのかものかもね」


 ボクは自分の左手を見てこの手はホムラやクマ吉、キヨミズやフェイがくれたの贈り物のような気がした、そしてボクはこの森の一員なんだって思えた。


「あ、ボク水浴びに来たんだった」


 ボクはなんだか照れ臭くなって水浴びする為にナタとかベルトに固定した荷を近くの木の枝にかけると上着を脱ぎ始めた。


「なんか寒いとかと暑いとか感じなくなっちゃったんだよなボク」


 フェイがキヨミズに聞いたら治療のためにボクの血の中に大精霊ウンディーネ、キヨミズのその身たる湖の水が大量に溶け込んだ為だと言う、実際あれ以来怪我をしてもすぐ治る体になってしまった、まあ便利だからいいんだけどなんだか左手がサラマンダーのしっぽで血がウンディーネの湖の水って言うのは人間のていをなしているのだろうかと、フッと考える事がある。



***



「キヨミズの湖に浮いているとなんか落ち着くな」


 ボクは湖の真ん中に浮いていた、治療の為に何度も来てた時から思っていたけどキヨミズの湖に入ると体が溶けるように温かく安心する……世界は冬だと言うのにボクはお母さんのお腹の中みたいだと思った。



「ヒロ!!」


「ボクも気づいた!」



 キヨミズが湖の真ん中でプカプカしていたボクを湖の水ごとほとりへと投げ飛ばす、ボクは木にかけた上着をはおり鋼のナタを腰に下げ気配を感じた西の森に駆け出した。



 侵入者の気配を感じたのだ。

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