第06話「少年と冒険譚」

「げっ、フォーク刺された!! 黒のナイトにボクの白キングと白のクイーンが両方狙われてる」


 ボクは苦渋の選択を迫られる、これではボクは取られたら敗けの白のキングを逃がして最強の駒である白のクイーンを差し出すしかない。


「ささ、お逃げなさいヒロ、でも次の一手でチェックメイト、詰み、私の勝ちだけどね♪」


「フェイ、さっきフェイの黒のルーク取らせてくれたのって罠?」


「トーゼンでしょ、私の黒のナイトの次の攻撃圏内にヒロの白のクイーンを誘ったのよ、ルアーリングって言うの、私のエサに釣られたわねヒロ」


「うう、負けました」



***



 ボクとフェイは暇を見つけてはこのチェスと言うゲームをさしていた。


「でも面白いゲームだねチェス」

 ボクは年期の入った黒のナイトを手に取りフェイを見つめた。


「でしょ~、昔一緒に旅してた人間の魔法使いに教えてもらったのよ、ほらオセロとかトランプとかも教えたでしょ、あれと一緒」

 フェイは頭の上が座りやすい城壁の形をした駒、黒のルークの上に腰を下ろす。


「ふーん……そだ! 朝、冒険の話をしてくれる約束だったでしょ」


「でもいいの? 明日起きれる?」


「起きれるよ、冒険の話を聞きたい、チェスしてたら聞きたくなった」


「まあいいわ、ヒロ、話してあげる」


 フェイはチェスボードの上の駒達の間を歩きながら話し始める。


「じゃあ今日はこのチェスセットをくれたその魔法使いの話をしてあげるわ、そいつはね、その魔法と知識を使って魔法の王国を作ってその国の最初の王様になったの」


「フェイがよく話してくれる魔法王国、タナカ・マジックキングダムの話だね」


「そうよ、そいつが私にチェスを教えてくれたの」


「タナカってフェイがつける名前の響きによく似てるね」


「そりゃそうよ、そのタナカって男に教わった言語の名付け方だもの、そいつ異世界からここに転移したらしいんだけど「神隠しの正体はこれか」とか言ってたわ」


「異世界人?」


「そうよ、そのチェスだってそいつがこの世界に持ち来んだのよ」


「すごいんだねタナカ」


「そうよタナカはすごいの、たった一人で国を作り、飢えや貧困をなくし、病気の人を救い、外敵を討ち滅ぼし、みんなに教育を与えたわ、ほら私やあんたが話してる標準人間語、魔法王国語の元になったって言語だってそいつが元居た国の言語なのよ」



「タナカはひとりぼっちでここに来たの?」



「私に出会う前はずいぶんと苦労したらしいわ、私はいろんな人間とパーティーを組んで旅したからいろんな言葉を覚えたけど、実際、この世界の人間は種族や部族によって話す言葉が結構違うから、まずコミュニケーションすら大変だったみたいなの、だけどそれをタナカは教育によって解決した、いまじゃ日本語、魔法王国語が共通言語と言ってもいいわ」



「タナカすげーー!!」



 ボクはこの魔法王タナカの話が大好きだった、フェイは何度もタナカの話をしてくれた、竜と戦うタナカ、魔法を開発するタナカ、農耕を発展するタナカ、工業を発展させるタナカ、病気の予防や治しかたを教えるタナカ、お菓子作りを広めるタナカ、その全てがタナカと旅を続けたフェイの誇りだった。

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