第3話 二つ目の目的地、東京
北海道を後にした俺たちは次の旅の目的地である東京へと飛行機に乗って向かった。
北海道から約二時間、俺たちは東京に到着していた。
「何気に東京来るのは久しぶりだな」
「針川さんは東京に来たことあるんですか」
「ああ、俺は高校生の修学旅行で二日間来たんだよ。その時は熊本との町の大きさの違いに驚いてたな」
二人が話しながら行くのを俺は後ろからついていった。
空港を出てまず向かったのは秋葉原だった。
「東京に来たらまずはここに来ないとな」
「やっぱりアニメ大国の日本のこの場所は他とは別格ですね」
「二人はどんなアニメを見たりするんだ」
「私はアニメはあんまり見ませんね」
「俺も同じく見ませんね」
「そうなのかい。ざんねんだな、アニメは面白いのたくさんあるのに。まあここを見て面白そうなアニメを探すといいよ。今から三時まで自由に過ごすといいよ」
そういって針川さんはどこかへ行ってしまった。
二人取り残された俺たちはしばらく歩き回った。
しばらく歩き回って彼女が
「あ、あそこによさそうな喫茶店があるよ。行ってみようよ」
彼女からの提案で行きたいところも特になかった俺は喫茶店に行くことにした。
その喫茶店はシックな感じの二階建ての一軒家だ。
中に入ると
「いらっしゃいませ。二名様ですね。お好きな席へどうぞ」
と、言い俺たちが窓近くの席に座ると水とおしぼりを持ってきた。
「中も良い雰囲気だね」
彼女が言うようにそこは落ち着いたクラシックが流れていてほんのり香ってくるコーヒーの匂いが心を落ち着かせてくれるようだ。
俺はコーヒーと昼食にナポリタンを頼んだ。
彼女はパフェとカフェオレを頼んだ。
注文が届き手を付けると
「おいしいな」
「そうだね、とってもおいしい」
そう自然と言葉が出てきた。
二人でゆっくりとカフェの時間を楽しんでいると
「ねえ君たちっ熊本から来たの」
急に店員が話しかけてきた。
「どうして私たちが熊本から来たと」
彼女が質問を返すと
「針川といるところを見てね」
その人はそう答えた。
「針川さんとは知り合いなんですか」
俺が聞くと
「うん、あいつとは中学時代の友人でね。明日君たちと合流してやってもらいたいことがあったらしいけどその手間が省けたな。明日またこの店に来てくれ」
戻ろうとした彼に彼女は
「すみません、名前教えてもらっていいですか」
そういうと
「ああ、名乗ってなかったね。俺は伊藤だ」
そう言ってその人は戻っていった。
午後三時になり針川さんと合流し、しばらく泊まるホテルへと向かった。
「そういえば針川さん、喫茶店でバイトしてる人が針川さんの知り合いみたいだったけど」
それを聞いた針川さんは
「そういえばあいつ喫茶店で働いてるとか言ってたな。会ったのなら話が早いな。明日合流してから紹介するつもりだったけど。明日はどこにこいって言ってた」
「また喫茶店に来てくれって言ってました」
「そうか、なら開店時間頃に行くとしようか」
二人が話のを後ろから眺めていた俺はふと北海道での出来事が頭をよぎっていた。
「人に迷惑をかけることに違いがあるのか」
俺にはそこにたいした違いがあるようには思えなかった。
自分のことでもないのに手伝わなければならないこと。
考えれば考えるほどに答えから遠のいていくようでどんどんとわからなくなっていった。
今の俺がどこへ向かうべきか。
そう考えているといつの間にかホテルに着いていた。
ホテルで一晩過ごす間俺は考え続けていた。
結局答えは出ずに寝落ちしてしまった。
次の日の午前九時、俺たちは昨日の喫茶店へと向かった。
店の前では伊藤さんが待っていた。
「よお、純久しぶりだな」
「おまえもな優太。まさか二人が行った喫茶店がお前の働いてるところだったとはな」
「本当に世界は狭く感じてしまうな」
二人が軽く会話をしたところで
「よし、じゃあ今日は俺が東京観光のガイドだ。しっかりついて来いよ」
そう言って歩き出し俺たちはそれについていった。
歩いて約三十分、暑い中歩いて俺たちは雷門へと着いた。
「わあ人がたくさんですね」
彼女がそう驚くほどに人が多い。
空港の時にも思ったが熊本とは人の数が桁が違いすぎる。
熊本では町で人がどれだけ多くても人一人は通れるだけのスペースくらいはあった。しかし今いる場所は人と人との隙間が狭く満員電車に乗っているようだった。
一時間くらい過ごしていたが暑すぎたのでどこかで休むことになった。
近くにあったファミリーレストランで少し早めの昼食をとることになった。
昼食を食べて、店を出た俺たちは伊藤さんに連れられて東京の街を一望できる山に来ていた。
「すごいですねここ。本当にさっきまでいた場所が全部見えてる」
「結構知らない人が多い穴場のスポットなんだぞ」
僕は近くのベンチで休んでいた。
するとコーヒー缶をを持った伊藤さんが隣に座り
「ほれ、これでも飲んどけ」
と、コーヒー缶を手渡してきた。
それを受け取り開けて飲み始めてしばらくして
「君はなにを悩み続けているんだい」
伊藤さんがそう問いかけてきた。
「俺はここに来る前自殺しようとしていました」
「うん知ってる」
「死のうとした俺をあの二人は強制的に旅に連れてきました」
「そのようだね」
「俺にはあの見ず知らずの二人がなぜここまでしてくれるかがわかりません。あのまま俺が自殺していてもあの二人にもあなたにも北海道の人たちにもまったく関係のないことです。むしろ大切なお金を使わせ時間を使わせただ迷惑をかけているだけです」
俺が自分の気持ちを吐き出していると
「北海道であるおじいちゃんに何か言われたよね」
伊藤さんが口を挟んできた。
「人に迷惑をかける意味とはどういうことか。そう言われました」
俺の答えに伊藤さんは
「ならその答えはもう出てるんじゃないかな。あの二人を見れば。この旅にどんな意味があるかそれがわかれば簡単にその答えは出てくるよ」
そう言って立ち上がった伊藤さんは
「もう一つ、君は高校での成績はどのくらいだい」
そう聞いてきた。
「俺は下の中くらいです」
そう答えた俺に伊藤さんは
「でも留年することはないんだろう」
「ええまあそうですけど」
「なら別に今の成績を悲観することはない。そりゃあ成績が良いに越したことはないけど成績にこだわりすぎることはない。そうすれば人生もっと生きやすくなるよ」
そう言い残して伊藤さんは帰っていった。
俺はますます意味が分からなくなっていた。
一点のために努力し結果が出ない日々を過ごしてきた。
成績にこだわらないことが人生を生きやすくする。意味が分からなかった。
ずっと言われ続けてきた。「今苦労すれば大人になってから楽できる」と。
今の伊藤さんの発言はまるでその言葉を全否定するようなん言葉だった。
東京での数日が終わり俺たちは次の目的地へ向かうために駅へと向かっていた。
「あれ、伊藤さん来てくれたんですね」
「ああ、せっかくだから見送らなきゃなと思ってな」
みんなで少し話していると新幹線の時間になりホームへと向かった。
最後に改札を挟んで伊藤さんが俺に
「裕君、また遊びん来てくれよ」
そう言って伊藤さんは帰っていった。
「また、か」
その言葉は俺にはまるで死ぬんじゃないぞと、この旅を忘れるなとそう言っているように聞こえていた。
ホームに上がるとちょうど新幹線が来た。
俺たちはそれに乗り次の目的地である大阪に向かった。
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