第6話

1063年11月2日。僕の最後の日であり、終戦の日だ。


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ザッザッ、草を掻き分ける音が森に響く。

僕は一人で敵地へと向かっている。そこには誰も着いてきていない。

ザッザッ、ただ一人敵地へと進む。こうして歩いていると行軍していた時を思い出す。

ザッザッ、あの時初めてアンスと出会った時を思い出す。行軍4日目、僕が木陰で休んでいる時に出会った。そこからたった数日しか経っていないが僕とアンスは親友と言える仲になった。

ザッザッ、トールズと会ったのは戦場に着いて初めての夜だ。彼はただ目の前に居ただけの僕等に貴重なアドバイスをくれた。

ザッザッ、ダンとは2日目の朝に知り合った。彼とは初めて喋ったがとても友好的で喋り易く、彼からの教えがなければ今も生きていないだろう。

ザッザッ、少し、喧騒が聞こえ始めた。もうそろそろだろう。

ザッザッ、ふぅ、手の震えは少しある、だけどまだ無視できる。緊張も少しある。だけど動けない程ではない。

ザッザッ、僕もこの1週間ちょっとで成長したなと思う。思えば、初日は逃げてたし2日目は爆風に巻き込まれた。

ザッザッ、そう考えると僕は結構すごい運命を辿っているな。中々ないぞこんな事になるのは。

ザッザッ、もう着く。早く任務を終わらせて帰ろう。


「家族が待ってるんだ」


こんなところで止まってられない。

僕の覚悟は、今決まった。


僕は覚悟が決まった瞬間にダガーを引き抜き、適当な人間を斬りつけた。


「ぎゃあぁぁぁぁ!」

「どうし」

「たすけてく」

「娘が」


たった数秒で四人を斬り殺した。殺すと同時にダガーから力が流れてくる。そういえばあの野郎こう言ってたな。


「殺せば殺すほど強くなる、か」


この簒奪のダガーは殺した相手から体力と魔力、更には力を少し奪うらしい。

本来なら忌避されるべき武器であるが。


「今の僕にとっては最適って事か」


「この悪魔」


たった今斬り捨てた男がそう言ってきた、酷い事を言うなぁ。


「僕は生きたいンだ」


こんな所で止まれない。例え悪魔と言われようが。


そこから僕は会う人間全てを斬り殺していった、その度強くなっていく自分を止めれる者はおらず。

全ての者は抵抗虚しく死んでいった。

しかしそれもここまで。


「ヨうやく着いた」


そこは岩でできた堅牢な要塞だった。砦なんてもんじゃない。

だけど、まぁ。


「今の僕にあんマリ意味ないけど」


そう言うと僕はダガーで要塞の門を斬った。


「案外脆いンだね」


僕は斬った要塞の門を通って中に入っていった。

そこも沢山の人が抵抗したけど全て斬り殺した。

そして、最後の部屋に辿り着いた。


『入れ』


扉の向こう側からそう言われたので遠慮なく入った。


「やぁ、はじメまして。僕はアベル、ヨロシクネ」


「はじめまして、アベル。私はグランと言う」


僕が挨拶をすると相手、グランは返してくれた。良い人だナァ。まぁ、殺すけど。でもまぁ少しは会話してみヨッか。


「ねぇ、グランさん。今から殺されちゃうけど、感想有る?」


「そうだな、恐怖は無い。私はそれだけの事をした、たったそれだけの事」


僕が聞いてみるとツマラナイ答えが返ってきた。

なんかイラつくな。

ボクがそう思っていると突然。


「なぁ、アベル。君は自覚があるのかね」


何が?


「ナニが?なんのジ覚があるっテ?」


「君のその姿、もう人間じゃ無いぞ」


えっ?


「嘘ヲつくな!ワカったゾ!ソうやってボクを陥れヨウとしテルンダな!」


じゃなきゃおかしいだろ!僕が悪魔だなんて!違和感なんて何処にも!


「君、『簒奪のダガー』を使っているね?』


なんでそれをと言う前に全て話された。


「『簒奪のダガー』はまたの名を『破滅の牙』とも言われている」

「その理由は使った者がどんどんと異形化していき」


ヤメロ


「そして完全に異形と化した時」


ヤメロヨ


「その者は死ぬ」


「ヤメロォォォォ!」


僕はそう叫ぶと己のでグランを引き裂いた。


「アッ」


僕は気づいた、既にその身は異形と化しており。

ドロッ。

体が溶けていっているのを。


「ナンデ!」

「ナンデボクハシナナクチャイケナイ!」

「ナンデボクガギセイニ!」


僕は自暴自棄になりそこら辺の物に当たるが、それも出来なくなる程にどんどんと溶けていく。


「ア、アッ」


体の半分が溶ける頃にはもう何も出来なくなっていた。


「タダイキタカッタノニ」


胸の辺りもなくなり。


「アァ」


首も消えてしまい。


「カゾクニアイタイ」


遂には全て溶けて消えてしまった。












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