第5話
1063年11月1日。僕は目を覚まし、現状を知った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
体が痛い、皮膚がヒリヒリして焼けるようだ。そのあまりの痛さに僕は起きた。
「つっ」
目を開けると天幕が見えた、上体を起こし周りを見渡すと怪我人が何十人といる。どうやら医務室のようだ。目を落とすと僕の体には包帯が巻かれており、隙間から見える肌は傷だらけで見るに耐えない。
「うっ」
「とりあえず起きなきゃ」
僕は体が痛むのを無視して起き上がり、近くにあった松葉杖を突いて天幕の外へと歩いて行った。
天幕の外へ出てみるとどうやら昼時のようで人が溢れんばかりにいる。
僕が驚いていると横から声をかけられる。
「おい、もしかしてアベルか?」
「もしかしてアンスかい?」
僕がそう返すと彼は抱きついてきて泣き出してしまった。
「生きででよがっだ」
「もう何日も眠りっぱなしで」
「もしかしたら死んでしまったのかと思ったんだ」
そう言う彼は目から大粒の涙を流し、会って一週間程度の僕に対して本気で心配してくれていたのが分かった。
「よかった、アンスも」
無事でと口に出す直前に気づいた、彼には、アンスには片足がない。
「あ、アンスその足は一体」
「ん?あぁこれは」
「一昨日の戦いで取られちまった。魔法使いの魔法に当たってこうなった」
そう言うとアンスは少しの間下を向いた。
その間僕とアンスの間に妙な間があいたが、バッと顔をあげるとアンスは話を切り替えるようにこう言った。
「そういやずっと眠りっぱなしだったんだ、あの事についてもしらねぇだろ」
「あの事って?」
アンスに対してそう聞き返すとアンスは。
「一時休戦だ、後一週間ほど続くそうだ」
そうアンスは告げるとついでにと。
「お前、軍のお偉いさんに呼ばれてたぞ。もし起きたら伝えてくれって」
「それでこれを聞いたらすぐきてくれだって、あの丘の上に大きい天幕があるからそこへ、って」
休戦より大きな話題が出てきた。えっ?僕が?軍に?なんで?そんな疑問が出てきたが気にしてもどうにもならないからとりあえず。
「アンス、伝えてくれてありがとう。とりあえず行かなくちゃいけない、後でもう一度話そう」
「あぁ、その時もう一個言わなきゃいけない事があるからな」
アンスは気になる事を言ったがとりあえず急ぐことにした。道中見かけた事がない人が増えている事に気づいた。
「そこのお兄さん、私を買ってかない?」
「そこの少年。この剣を買っていかないかい?これはかつての英雄アラナルが使っていたとされる・・・」
「おい!そこの!今盗んだのを見たぞ!」
「やべ!」
「逃げるぞ!」
そこには活気が溢れていた、僕が戦場で戦っていた2日間とは違い全員に生気が溢れていた。
丘の上にたどり着くまでに何度も呼び止められてしまい着くのに予想以上に時間がかかってしまった。
「ついに辿り着いたぁ」
着く頃にはヘトヘトで、もうベットに横たわりたい気持ちが全面に出ていた。
そして天幕の中に入ろうとした時に前にいた兵士の人に止められた。
「おい貴様、何の用件でここに来た」
兵士はこちらに槍を向け、警戒しながらそう言ってきたので僕がすかざす。
「ぼ、僕はアベルと言います!こちらの天幕へ行けと言われたので来ました!」
そう言うと兵士は懐から紙を取り出して確認をすると。
「よし、通れ。無礼な行為はするなよ」
と言い、警戒を解いて通れるようにしてくれた。
「ありがとうございます!」
僕がそうお礼を言うとその兵士は。
「ふん」
と、鼻を鳴らすだけであったが少し、優しい顔つきになっていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「失礼します!」
「入れ」
そう言われたので天幕の中に入るとそこには毎朝号令をかけていたあの大男がいた。
「やぁ少年、私の名前はマクシミアンと言う。君の名前はアベルで良いかな?」
「ひ、ひゃい」
天幕の中に入るなり明らかに自分より強く、身分の高い男から丁寧な口調で言われたものだから驚きと緊張で変な返事になってしまった。多分殺されるな。そう僕が内心青褪めているとマクシミアンさんが笑いこう言ってきた。
「はっはっはっ、まぁ落ち着けよアベル君、別にとって食おうって考えじゃない」
「はぁ」
とりあえず落ち着いてと言われたので深呼吸してから何故呼ばれたかを聞いてみる事にした。
「それでマクシミアン様、何用で私の事をお呼びになさったのですか?」
「あぁ、それはだな君が殺した3人組がいるだろう。そいつらは此方にも彼方にも厄介だったんだ」
「それで感謝と新たな命令を告げるために来てもらった」
「あの3人組を倒した事、大義であった」
そうマクシミアンさんが言ってきてくれたのに確かな充足感と、一抹の不安が出てきた。
「ありがとうございます」
「それで、新しい命令とは?」
僕がそう言うとマクシミアンさんは近くの従者に取ってこいと命令をした。
従者が取ってきたのは一般的なロングソードと、明らかに業物だと分かるダガーだった。
それをマクシミアンは左右それぞれに持ちこう聞いてきた。
「君には二つの選択肢がある。一つはこのロングソードを手に取り戦場へと戻る事。これだけでも充分な報酬だし、生きて帰れる可能性がある」
「もう一つの選択肢はこの『簒奪のダガー』を使って敵の砦は攻め、我等の勝利に貢献する事だ」
そう聞かれて僕ははっきり言ってコイツ頭おかしいんじゃねぇのかって思った。だって普通前者を選ぶし後者のメリットが無い。なので断ろうとした時。
「断った場合、もしかしたら君の村は不運にも盗賊に目をつけられて壊滅するかもな」
そう言われて僕は心臓が締め付けられそうになり、それを言った相手の目をせめての抵抗として見た。
僕が見たそいつの瞳は純粋な黒だった。それ以外に何も写っておらず、さっきまで満面の笑みだったその顔はうすら寒い笑みとなっていた。
「さぁ、君はどうする?」
僕に選択肢なんて無かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「頑張れよ、少年兵」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます