第41話 嘱託になった。

私は娘と一緒にプライムコーポレーションに押しかけた。


自宅に行きたかったが、もし自宅に行ったのがバレたら両親は怒り狂って家を叩きだすに違いない。


だが、会社なら【偶然】という言い訳がつく。


「恵美、此処からが勝負よ」


「解ったよお母さん、上手くやるよ」


《本当にこの糞婆ァ、痛いよね...もう邪魔なんだけどけどなぁ...まぁお陰で【お母さんに無理やり付き合わされた】そういう言い訳で会えるから付き合ってきたけどさぁ、馬鹿じゃない、更に嫌われるってーの、バーカ》


私の考えた作戦は【娘の事で相談がある】とそこから話しをする方法だ。


多分、嫌がられるかも知れないが、此処なら人目もあるから、恐らくは場所を移して話位はして貰える筈だ。


泰章さんはお人好しだから...そこから真摯に話せば、とっかかり位は貰える筈だ。



「すみません、今井常務に会いたいのだけど?」


「アポイントはありますか?」


「無いけど、元家族だからどうにかなるでしょう?」


「元家族ですか?」


「はい」



「なら、何でご退社された事を知らないんですか?」


「「退社?」」


「はい、昨日づけで退社しました」



「あの今井常務、泰章さんはどうするか、聞きましたか?」



「体の調子がかなり悪いようで、これからは嘱託勤務になるそうですね...他は存じておりません」


「そうですか?」



ハァ~彼奴はいったい何なのかしら?


折角出世したから、よりを戻してやろうと思ったのに、会社を退職して...嘱託、それってバイトになったのと同じでしょう。


こんな所に来るだけ無駄だったわ。


「恵美帰るわよ! 本当バイトになるなんて最低だわ、もう彼奴にはようは無いわね帰るわよ」


「そうね...帰ろう(あーあっ勿体ない、常務のままだったら良かったのに、幾ら顔が少し良くても、バイトじゃ意味ねー...あれ)」


《よく考えれば...お父さん、若返ってイケメンになっているんだった、可笑しいなキモイ筈の親父が、なんで【智也】よりイケメンなんだろう? 頭が可笑しいのかな...私、智也よりイケメンなら充分な筈、頭が本当に可笑しい...そんな人間が何でキモイと思ったのかな...まぁ良いや出直そう、一度しっかり自分の目で見て見よう》



「本当に、あの馬鹿は何処まで私をイラつかせるのよ、もう此処に来る事も無いでしょう、ほら行くわよ」


「はーい」





【時は少し遡る】



「急に二人して退職届けを出すなんて、どうしたんだ」



俺はこの間の事で反省した。


確かに彼らは【俺たちには良い人だ】だが敵には容赦がない。


この間はさいわい、どうにか治まったが、同じような事がまた起きたら大変だ。


だから、目を光らせて見張らなければならない。


そう考えたら、もう会社勤めでは居られない。



「親類のお寺が住職不在で困ってまして、そこを引き継ぐ事になりました」


「それに真理もついて行く、そういう事か?」


「はい、泰章さんにプロポーズされまして、そのうち結婚もする予定ですので...」


「おい、それは初耳だぞ」



「すみません、まだプロポーズしたばかりで、これから婚約の挨拶に向おうと思っていました」


「そうか、それはおめでとう、だが会社を辞められたら困る、これから親類になるなら余計なんとかならんか?」


「それなら、本当に困った時には助けに入ります、そうですね嘱託勤務の相談役とかで如何でしょうか? 勿論給料は要りません」


これなら...大丈夫だろう。



「いや、それは悪い、そうだなら、取締役 顧問と言う事にしよう? 流石に常務と同じには出来ないが年収で2000万は保証しよう」


「すみません、何から何まで...ですが、会社外には【嘱託勤務】になった、そんな感じで伝えて貰えますか?」



「まぁ、実際に、君のお世話になるのは部長以上の筈だから構わない...まだ神谷がした事が尾をひいているんだな」


「はい」


「解った...それじゃ婚約おめでとう...二人とも幸せにな」


「「はい」」



さてと、これからは宗教者として活動しながら...偶にこの会社が困ったら行動する。


それで良い筈だ。


それはそうと、イシュタス様にお伺いを立てて見た方が良いだろう。


神託とか降ろしてくれるかも知れない。


この世界の神とイシュタス様の関わり合いも聞かなくては今後の活動も決められない...


やる事は多い。







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