第40話 ある寺に起きた事。
「止めろ、やめてくれ!」
何故こんな事されているのか解らない...
私が何をしたっていうんだ、ただ仏を信仰して教えを...
「うるせーんだよ! 糞坊主、嘘ばかり言いやがってよーーーーっ、本当に仏がいるなら助けてくれるだろうよ」
これは悪夢だ...
何故、こんな事をされなければいけないんだ...
私は悪くない...
「嫌だよーーーっお父さん助けて、助けてよーーーっ」
目の前で娘が殺されそうになっている。
相手は一人じゃない、10人以上の男に囲まれた状態だ。
しかも、手には銃や刃物が握られている。
「助けて下さい、娘は娘だけには手を出さないで下さい」
「あ~ん?お前が大好きなお釈迦様か大日如来に頼めば良いじゃ無いか、このペテン師野郎が」
「仏は...仏は」
頭が可笑しい、此奴らはキチガイだ。
私だって【仏】がこんな時に助けてくれないのなんて知っているさぁ。
だけど、私は僧侶だ。
代々受け継いだお寺を守る住職だ。
仏を否定なんて出来ない。
「貴方ぁ~貴方ぁ~ 助けて、このままじゃ里香が里香が~殺されちゃうーーっ。ああああああっーーー私は良いから里香は助けて、お願いします、私が私がーーーっ」
そう言っている妻はもう男に殴られて顔が腫れていた。
まるで遊ぶようにナイフが太腿に刺さっていた。
娘に手を出さない様に里香にしがみ付いている。
「止めて下さいーーっ。私が何をしたっていうんだ」
「お前は詐欺師だ...今迄俺達から幾ら金をだまし取ったんだ...あん!」
「多分、代々納めていた金を合わせたら...数十億、下手すれば百億近くになる、そこ迄の金をだまし取ったんだぜ? どう始末つけるんだ? お前が死んでも、お前の妻や娘...いや親族の女が全員死ぬまで風俗嬢になっても足りないんだぜ」
「私はちゃんと今迄貴方達の祖先の供養をしてきました...それがこの仕打ちかーーーっ地獄に落ちろ」
何で私がこんな目に逢うんだ...
住職の私が...
「あははははっ、皆笑ってやれ、此奴馬鹿だ」
「本当に馬鹿だな~ 地獄なんて無い」
「そうそう、もうそんなペテンに引っかからないな...お釈迦様? 如来さま...いねーよ、いい加減詐欺止めろや」
そう言うと、男たちは本堂に祭ってある大きなお釈迦様の像を倒した。
3メートルを超えるお釈迦様の像が大きな音を出して倒れた。
国宝級の仏像はあっけなく倒れ壊れた。
「糞坊主...いい加減いないお釈迦様なんか使って詐欺すんじゃねーよ、なぁ? もしお釈迦様や仏が居ないって認めたら今日の所は止めてやるよ」
言えない...寺に生まれてから今迄信じていた【仏】を捨てるなんて私には出来ない。
「助けて、助けていやぁぁぁぁーーーーっ」
娘の悲痛な声が聞こえて来た。
「あーあ...強情はっているから娘さん指が1本無くなっちゃったみたいだな、可哀想に、結局、お釈迦様は助けてくれなかったな」
娘が指を詰められて泣き喚いている。
その横で妻も遊び半分に殴られている。
「娘は、娘は...これ以上やめて」
「おかおかおかお母さん...助けて...助けてよ」
「ああああああっーーーあああああっ」
そんな...そんな、ただ私は信心していただけなのに。
「そうだ、奥さん、チャンスをやるよ..そうだな、お釈迦様の像にこのドスを刺しなーーー、嘘ついてごめんなさい、お釈迦様なんて居ないのに詐欺してごめんなさい...そう言えば娘は許してやる」
「お前、止めるんだーーーーっ」
「ううっ、それで、それで娘には酷い事しないでくれるの?」
「ああっ約束しよう」
《あーあっ泣きながら滅多刺ししてやんの》
「嘘ついてごめんなさい、お釈迦様なんて居ないのに詐欺してごめんなさいーーーっ」
「あはははっ、ようやく本当の事いったな、でお嬢ちゃんはどうする? お母さんと同じ事をすれば、終わるぞ」
「ハァハァ...やります、やりますからもう許してーーっ」
《まぁ女は此処までやれば良い、しかし、この仏像最早顔が解らないな》
「もう、女はこれで許してやれ...これで終わりで良い」
「止めてくれ、妻や娘を助けてくれ」
「はぁ~ 俺に頼む事ないじゃん? ほらそこにお釈迦様がいるから、それに頼めよ...他にも大日如来に毘沙門天、強そうな仏居るよな」
「そんな....」
「なぁ、これで解かったか? 俺たちが信心深いのを良い事に、お前は金をだまし取っていたんだぜ、俺の親父(組長)の葬儀の時には1億包んだよな? 今迄だって法事だなんだ金をいつも包んでいた...あれだけ信心していたのに、俺は下手打って指が無くなった」
「そんな事言われても、只の住職になんか何も出来ない、出来る住職などいるもんかーーっ」
何だ、更に怖くなったぞ。
「だよな...だがな違うんだよ...本物は違うんだよーーーっ、俺の為に女神に本当の救世主が祈ってくれたら...生えてきたんだよ、指がな..お前やそこの偽物じゃない...本物は奇跡を起こせるんだーーー そんな偽物じゃない本物の女神イシュタス様と教祖泰章様はお前と違い、本物なんだ」
「俺は娘の命を助けて貰ったよ...幾ら祈ってもそこのお釈迦様はよー助けて何てくれなかった...だがよ、泰章様が祈ってくれたら治ったんだよーー寝たきりだった娘が、今は笑いながら幼稚園だぜ、もしお釈迦様がいたなら、娘を見捨てた悪魔じゃねーのかよ」
「そうだな...お前等は邪教徒だ...まだ数珠を持っているのか? おい誰か此奴の指10本斬り落として数珠なんて握れない様にしてやれ」
「へい」
「止めろーーーーっ」
私の指は一本一本斬り落とされた。
その指を笑いながらヤクザが潰した。
「おっ、母屋に色々な権利書がありました」
「それじゃ、それは全部貰うとして...本当は足りないがもう許してやるか」
「えっ..」
「勘違いするなよ!お布施だなんだ、沢山の金を俺たちからだまし取ったんだからな? お前達はもう可哀想だから殺してやるよ...この寺は、本物の神と神の使いに捧げるさぁ」
「本物の神?」
「ああっ、女神イシュタス様と救世主泰章様だ」
「そんな....本物なんて居る筈が無い」
私は...どうせ死ぬなら...最後まで【お釈迦様】に祈りながら死のう...そう思ったが...
信じられなかった...
【泰章SIDE】
竜ケ崎組の組長から話をきけば、下の組の者が【布教】に行ったと聞いた。
何をしているのか気になり真理と一緒に見に行ったら....
「おい、お前達何をしているんだ?」
「泰章様、今私は邪教を懲らしめている所です...待って下さい、この寺も泰章様に捧げさせて頂きます、俺も貴方に貢献したいんです」
「こんな残酷な事はイシュタス様は望んでいない...」
どうするか?
女二人が虫の息で転がっている。
坊さんが指が斬り落とされ殺され掛かっている。
【パーフェクトヒール】
「記憶はどうしようもありませんが、体の方は治しました」
「嘘、綺麗になっている...痣が全部治っているなんて」
「嘘...指が、指が生えてきた」
少なくとも肉体的には【治った】状態にはなった筈だ。
「ああっ、治ったよ、だが記憶だけはすまないね、嫌な思いさせて」
「有難うございます、助けてくれて、娘を戻してくれてありがとうございます」
「本当にありがとう...ありがとう...」
さてと...
「何者だ、なんでそんな事が出来るんだ...うわぁぁぁぁーーーっ」
「大丈夫ですよ...貴方もすぐ治します...」
【パーフェクトヒール】
何時見ても凄いな...切断された指が生えて元に戻るんだからな
「これは...これは本当の奇跡だ、ああっああああーーーっ」
そう叫ぶと住職は奥に引っ込んでしまったが、直ぐに鉈を持って出て来た。
目が座っている...やばいなこれ。
「居ないよね? お釈迦様も大日如来も虚空菩薩も皆、皆いなよねーーーーっ」
そう叫びながら、仏像を鉈で壊し始めた。
これにはヤクザも驚いてみていた。
「そうよ、なにこいつ等、散々花を絶やさずあげてきた、お線香も欠かさずあげてきた...いつも磨いてあげたのに..娘を見捨てた...ふんクズ仏」
「お釈迦様...こんな仏像祈るなんて馬鹿みたい、」
足が怪我するのも構わず...踏みつけていた。
なんだ、この光景。
一際、それが終わると...
「私だってこんな偽物信仰したくなかった...本物が居るならそれを信仰したかった...今私は本物を見た、どうか私を貴方の仏弟子...いや弟子にして下さい」
「私もお願いします」
「私も...お願いします」
「あはははっ、泰章様の弟子になるなら...これで良い...この寺は泰章様の物にして終わりで良いぜ」
「良かったですね泰章様、これで2件目のイシュタス様の教会が出来ましたね」
「そうだね...」
イシュタス様を信仰する人が増えるのは嬉しいけど...これで本当に良いのだろうか?
だが、これがまだ始まりだったとは俺は思っていなかった。
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