第38話 逃がした魚は大きかった

「嘘でしょう!」


なんで彼奴が運転手つきの車になんて乗っているの?


彼奴はもう、体に大きな怪我を負って、真面に働けない筈。


それなのに...可笑しいわ、なんで若返っているの?


絶対に可笑しいわ。


私は、泰章について調べた。


幸いな事に、僅かだが、あの会社に連絡が取れる相手がいた。



「嘘でしょう....」



私がもう終わりだと捨ててしまった泰章が、今は【常務】にまで出世していた。


あの車に乗っていたのは見間違いじゃない。


常務にまで出世していたから乗っていたんだ。


しかも、横には若い女が居た。




あはははっ、私があそこでよりを戻せば、今頃は私は常務夫人になれたというの?


神谷なんて偽物じゃなくて、本当の意味での成功者になれたの。



憧れの海外旅行に、ブランド品を買って、タワマンに住めた。



私は父に相談する事にした。


「おまえ、ふざけるなよ! お前の為に何回頭を下げたと思っているんだ! しかもようやくこれから償いを始める、その時にあんな馬鹿な事言いだして」


「そうよ、どの面下げて言っているの?」



「でも、私は泰章さんとやり直したい...」


私や恵美に甘い二人だ、これで大丈夫だ...



「もう騙されんぞ、本当はお前達二人を追い出したい、だが、泰章君との約束だから此処に置いている、お前にはパートの時間以外一切外出は許さん、もし泰章君にあったら、今度は約束したようにするそうだ...慰謝料を請求されるから絶対に行くなよ」


「そうよ、もしそんな事になっても私もお父さんもお金は出さないから、絶対に泰章君には会わないで頂戴」



「そんな」



「身から出た錆だ、あんなに良い旦那を捨てて不倫に走り、その後も馬鹿してきたんだ、本当に嫌われた、当たり前の事だ」



「そうよ」



あと少し、私が...


私が、あの時にちゃんと反省して会いに行けば...常務夫人になれたかも知れない。



ううん、あの時に不倫なんてしなければ、実力で泰章は出世した。



返して...私の泰章を返して...


私には、それをいう権利は、あるのかどうかも解らない。



だけど...今の泰章には【私が欲しかった物が全部ある】



常務という肩書に、その給料...私が傍に居たら泰章は、多分タワマンに引っ越してくれて、ブランド物から何から買ってくれたと思う。


あそこに戻りたい...


あそこにこそ私が欲しい物が全部ある。



返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して。



「ふざけないで、泰章は私の者よ、邪魔...えっ」


気がつくと私の頬をお父さんが引っ叩いていた。



「お前って子はどれだけ俺に恥をかかせるんだーーっ! そんなに好きなら不倫なんてするな、しかも再構築のチャンスまでくれたのに壊すなーーーっ、お前が全部壊したんだーーーっ もう無理、絶対に無理なんだーーーっ いい加減解れ...とりあえず部屋で頭を冷やすんだな」


「部屋に戻りなさい」



そう、お父さんもお母さんも敵なのね...なら仕方ないわ。


本当に使えないわね...


私は渋々部屋に戻った。


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