第29話 義実家にて

ここ暫くの間に急に若返った気がする。


勇者になった事で超越した感覚があった。


万能感というか【今迄と違った存在になった】そう思っていた。


だから、今迄気がつかなかったんだ...まさか自分が若返っていた...なんて。


いや、薄々は勘付いてはいた、だが容姿が此処まで変わるとは思っていなかったな。


42歳のおっさんが20代になればな....


だが、今日鏡を見たら、これは可笑しすぎる、どう見ても10代。


恐らく15歳から18歳位の気がする。


中学のアルバムと高校のアルバムを見たから間違いはない。


昔の俺だ。


此処まで来ると何でもありだな。




ただ、問題なのは今日は、義両親を挟んで、陽子と恵美と会わなくてはならない日だ。


本来なら、大怪我した中年の親父の姿で会うのが正しい。


だが、この容姿はどうしようもない。


しかも、勇者だから、怪我しようとしても怪我しない。


今の俺はトラックはおろか、新幹線ですら敷き殺せない様な気がする。



まぁ、なってしまった物は仕方ない。


別に縒りを戻す気はないんだから【このままで別に良いだろう】






「泰章くん? なのか?」


「随分、若返った気がするのですが...気のせいかしら?」



義両親からしたらそう見えるだろうな。


まぁ、これから先会う事も無いのだから出鱈目で良いだろう。


「薬の副作用と、今迄のストレスが無くなったせいかも知れませんね」


陽子も恵美も同席しているが、俺からは一切話さない。



「ストレス?」


「そこの2人ですよ、一生懸命働いて、収入の大半を家にいれても感謝されない、しかも三人分の家事迄していたんですから、一人暮らししながら二人を養い、罵倒されていたんですから、老け込みもしますよね」



「貴方、そんな」


「お父さん...」



「まだお前達は黙っていなさい、話を聞こうじゃ無いか、泰章くん」


「そうね」



「多分【俺が怪我して働けない】あそこが最後の決断だったんです、【今度は私が支えるから】その一言があれば再構築もあったかも知れませんが...そうでは無かった」



「だが、それは泰章くんが断ったんだろうが...」



「それでもと言えなかったんですから【俺なんて愛して無いんでしょう】、そこで終わりです」



「それは余りに意地悪なんじゃないか?」


「そうよ、一度の過ち位許してあげなさいよ、男でしょう?」



「1回や2回じゃなくて3年ですよ? それならお義父さんに聞きます、敢えて口汚く言いますが許して下さいね【もしお義母さんが3年間、自分を相手にしないで、他の男に抱かれ続けて、この家と財産を相手の男に無断であげたら許せますか?】」



「...許せる自信は無い」


「お義母さんは、不倫の経験は今迄あったのですか?」


「無いわ」



「同じ女としてどうですか? お義母さんは旦那を裏切って、他の男に3年以上も抱かれ続けた挙句、財産を貢ぐ女や娘をどう思いますか?」


「それは...良い事じゃないわ」




「だが、娘も孫も反省しているんだ、どうにか考えて貰えないだろうか?」



「二人が居なくなってから、俺は凄く幸せなんです! 家事は自分の物だけすれば良いし、お昼だってカップ麺やおにぎり1個から、友達と1000円位の物は食べれる様になりました」



「待って下さい...今の話だと家事は泰章くんが殆ど全部行い、1000円の定食も食べられない、そんな生活を送っていた事になるぞ」


「その通りです、お金の大半を陽子と恵美に渡していましたし、俺は僅かな小遣いで生活していましたから、恵美にあげていた小遣いの半分以下でね」



「お前達、そんな事までしていたんだな?」


「それは...」


「お父さんごめんなさい」



「更に言わせて貰えれば2人が俺の所に戻ろうと思ったのは【神谷部長が妻帯者だったから】です、もし神谷部長が独身で受け入れていたら、俺を捨てて今頃三人で仲良く暮らしていますよ? どうせ、今よりを戻しても、また金のある相手が見つかれば、乗り換えるに違い無いと思います」


まぁ、魅了に掛かっているから、それは無い。


「だが、2人とも反省をしている、もうそういう事はしない筈だ、もう少し考えてくれないか?」



「過去はもうどうでも良い、だが今の俺は、昔に戻りたいかと言われれば戻りたくない、500円のランチすら食べれない、ヨレヨレのスーツに穴の開いた靴下...そんな生活はしたくない...確かに体は不自由だけど、リハビリを頑張っているから日常生活は問題無く出来る」



「だけど、2人とも凄く反省しています、昔の娘や孫は確かに酷かったけど、母親の欲目ではなく今の2人は生まれ変わった様に貴方の事を考えています、どうにか許してあげられないでしょうか?」



「俺は充分許していると思いますよ! 本来なら陽子の有責の筈だし、共有財産から約2000万円の使い込みです、本来なら半額の1000万の返金と慰謝料の請求が出来るし、今でもその資格はある、だが俺は請求していない、これだけでも本当は感謝して欲しい位です」



「確かにその通りだ、だが娘も孫も【償いたい】そう言っているんだ、どうにかならないか」


「そうよ、チャンス位あげても良い筈よ」


まぁ、義両親からしたら...そう見えるよな。


「それにプラスして、恵美には大学の学費として500万渡しましたし、本来は接近禁止なのに【無視して会いに来ても訴えていません】かなり譲歩していると思いますが、違いますか?」



「それでも儂はやり直して貰いたいと思っている...罪滅ぼしだから、今度は泰章くんが自由にする番だと思えば良いんじゃないか?」



「それは、浮気はし放題で、その浮気の経費は全部、陽子と恵美持ち、ATMと罵って稼ぎが悪いと馬鹿にして、俺が好きな相手が出来たら、2人を捨てて相手の女に行く...それで良いんですか?」



「何を考えているのよ、貴方可笑しいわ」


「いえ、それが私がされた事ですよ、同じ事して良いなら【これが同じ事】です」



「確かに、それを行っていた...そうだろう? 陽子に恵美、それでこれからどうやって泰章くんに償うつもりだ、儂も此処までとは思っていなかったぞ」



「私は泰章さんと一緒に居られるなら、もうお小遣いもいりません、女として最低限の化粧はしたいですが、それすら不要だと言うのならそれも要りません」



「私も同じ、アルバイト代は全部お父さんにあげるし、スマホもお小遣いも要らない...だから一緒に居させて下さい...お願いします」



土下座はズルいな...これじゃ完全に俺が悪人じゃ無いか?


だが...俺はやはり駄目だ。


今の俺ならどんな美人でも手に入る。


それこそハリウッドスターだろうが何処かの国の王族...テレビで見ているアイドルだって選び放題だ。


なのに、恵美に対しては12年、陽子に対してはそれこそ約30年、その期間が重くのしかかる。


幼馴染からの恋人~妻。


連れ子~俺の娘。


そんな奴は、世界中探しても他には居ない。


今になって思う...あそこで【魅了】をなんで掛けたのだろうか?


掛けなければ、もう縁が切れた筈だ。


こいつ等は俺なんか愛していない、所詮、腐れ嫁と腐れ娘だ。


今、俺を愛しているのは魅了を掛けたせいだ...


解っている...


知っている...


俺はまだ【家族】に未練があったようだ。


此奴らにまだ気持ちがあると言うのか?


認めなくちゃならないな。


俺は此奴らに未練があった。


だから、あそこで俺は【魅了】を使った。


マリアーヌが傍に居てくれたら、多分使わなかった筈だ。


多分...此奴らがマリアーヌを除くなら...数少ない愛した女だったんだ。



「だったらチャンスをやるよ...半年間、月に2回二人に時間をやる、1人1回にするも、2人で2回にするも自由だ、友人からスタート、それが最大限の譲歩だ、ただ、俺はデート代も何も出さないし、ゼロからスタートじゃない、マイナスからのスタートだ、それで良いなら時間をとってやる、それで良いか?」



「解ったわ、また出会った頃から始めれば良いのね」


「そういう事なんだね」



多分、俺の2人への気持ちは【未練】だ、多分【愛】というならもう無いと思う。


自分を嫌っている人間を振り向かせるのは、まず無理だ。



「まぁな...それじゃ元義父さん、元義母さんこれで良いか? これ以上は無理だ」



「ああっありがとう」


「有難うございます」



俺は義実家を後にした。



半年間...俺にとっても未練を払しょくする良い時間だ。





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