第27話 美味しい

「凄いな、前々からやる男だと思ったが正直此処までだとは思わなかったぞ」



「本当に凄いですね、まさか1週間で終わらせるとは私も思いませんでした」


俺は今、社長に地上げの結果報告を伝えにきている。


そりゃ驚くよな、年単位で取り込んできた都市開発を僅か2週間で終わらせてしまったのだから。


「偶々ですよ...本当に偶々です」


「そんな謙遜する事無いですよ? こんな事出来るのは今井常務位で他の人には絶対にできません」


「私もそう思うが...何かコツでもあるのか?」


【魔法を使ってヤクザの娘を治したら一発でした】なんて言えないしな...


「まぁ、社長は知らない方が良いでしょう」



これで良い筈だ、多分神谷と同じような事をした...そう考える筈だ。



「成程、君はただ仕事熱心な男だけでは無い、そういう事だな。解った、もう下がって良いぞ、これで常務の地位は完全に固まったな」


「有難うございます」






「凄いですね、こんな簡単に地上げを終わらせてしまうなんて」




街そのものの縄張りが竜ケ崎組の物になった住民は最早諦めムードになった。


今迄は山戸連合に泣きついて、どうにかして貰っていたが...その山戸連合が竜ケ崎組の参加に入ってしまった。


相談しようにも出来ない。


組長の小林に頼みに言ったが...


「幾ら頑張っても何時かは手放さないとならないんだ、それなら好条件を引き出してくれた今がチャンスだと思わないか」


そう言われて取りあって貰えない。


まして、今迄の座間会の時と違い、地回りが傘下に入った後だから、竜ケ崎組が事務所を構えた。


街中にヤクザの事務所が幾つもでき、しょっちゅう絡まれるような場所...地価が下がり治安が悪くなった。


しかも、嫌がらせは日々続き、何をされるか解らない。



だが、今井は決して買い叩きはしないで、通常より高値で買い取るよう指示した。



その結果、住民は簡単に土地を手放した。




「偶々上手くいっただけだ」


「そうですか、それでも凄いと思います、そうだ今井常務、今日は祝杯をあげませんか?」


「良いね、だが、俺はまだ常務の給料を貰って無いから居酒屋だぞ、それで良いならご馳走するよ」


「はい」




【真理SIDE】


どれだけ凄いのか計り知れません。


大体、殆どの男は底が浅くて話す気にすらなりません。


泰章さんは、最初に会った時から不思議な感覚にとらわれました。


一目惚れと言うのはこういう事を言うのかも知れません。


だけど、まさか此処までとは思いませんでした。


「本当ですか?」


「はい、既に、泰章さまは竜ケ崎組と手を組み、地上げは7割がた終わっています」


なに、それ?


竜ケ崎組? 直接手を組んだと言う事ですか...何処まで凄いのでしょうか。


その事が本当なら、もう日本の裏社会なら怖い物はまず無いでしょう。


少なくとも、死んでしまった父(笑)は本家との繋がりは持てず、座間組通してでしたよ。


私も昔は、世界をどうにかしようと思っていましたから解ります。


あの辺りと人脈を繋ぐのは凄く難しい筈です。


そんなパイプを既に持っていらしたなんて、私が手助けしなくても順調に階段を上がっていきますね。


最も、今の私には、日本も世界も必要はありません。


だって、日本や世界を牛耳るよりもただ一人、今井泰章さんに愛される方が何百倍も素晴らしいからです。


正直言えば、地位なんてどうでも良いのですが...それでも最低線の地位は持って欲しいという乙女心もあります。


此処までくれば、叔父様には子供が居ませんから、私の婿になってゆくゆくは社長...これはもう決まった様な物です。


ですが、その為には、母が邪魔ですね。


散財をして財産を食いつぶす害悪な女...あんなのが親だなんて信じられません。


泰章様は、離婚の時に交渉をした母を嫌っているかも知れませんね。


散々楽しい思いをしたのですから...そろそろ人生を終わらせても良いかも知れません。





しかし、好きな人と食べるとこう言う物でも美味しく感じますね。


こんな焼き鳥や煮込みが...フレンチより美味しく感じます。


「どう?結構いけるでしょう?」


「はい、本当に美味しです、このたれは継ぎ足しで使っているんです」


「あっ、だから美味しいんですね」


本当に美味いしく感じるんですから...不思議ですね。








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