第26話  陽子 贖罪

生きるのが辛いわ...


少し前まで私は専業主婦だった。


給料を殆ど入れてくれて私を心から愛してくれた夫。


中学の頃から愛してくれていて、他の人と結婚して死別して...シングルマザーで困っていた所を助けてくれた人。


住む所に困り、真面に食事さいままらなかった、私を助けてくれた人...


私は、きっと頭が可笑しくなっていたんだと思う。


あの人は30歳で初婚だ、しかも中堅所とはいえ収入の良い会社で働いていた。


係長...馬鹿にしてたけど、それなりに仕事を頑張っていたんだと思う。



今思えば、本当に馬鹿だわ...だって私は30歳の子持ち、しかも手に職すら無い。


【釣り合う釣り合わない】って話なら私の方が釣り合わないわ。


なのに...私は、馬鹿にしてた。


馬鹿になんてしてはいけない、愛とか考える以前に【恩人】だったんだ。


もし、同窓会から後、泰章さんが助けてくれなかったら、きっと私は水商売をしなくちゃいけない位貧乏だった筈だ。


更に言うなら実家から助けて貰えずに、多分風俗で働いていたかも知れない。


前の旦那は本当にクズ...それと駆け落ち状態で出て行った私には行き場が無かった。


だが...今の私は実家に帰ってきている。


この居場所すら、彼が何回いや何十回も実家に足を運んでくれて、両親から許された場所だ。



最初は、泰章さんにも私の実家は冷たかった。


だが、彼は「結婚の挨拶は絶対に必要だよ」そう言いながら挨拶に行った。



最初は「もう家とは関係ない」そう言って塩迄まかれたらしい...


だが、学生時代から真面目だった性格の彼を私の両親は知っていた。


そんな泰章さんが、何回も通い、遊びに行った結果...私は許された。


昔と同じ様に【実家に顔を出せる】ようになった。




馬鹿な遊びから目覚めてみたら...解った。



自分の全てを救ってくれたのは泰章さんだった。


ボロボロの風呂すら無いアパートから救ってくれて、マンション住まわせて貰った。


お金が無く苦しい生活から救ってくれて専業主婦にしてくれたのは泰章さんだった。


愛...それ以前に、本当の恩人だ。


泰章さん程、私を愛してくれた人は居ない...


多分13歳から今迄、30年近く私を愛してくれていた。


私が他の人間と結婚して子供を作っていても、好きで居てくれた人。



失うまで気がつかなかった。


私にとってはかけがいのない存在だった。


居なくなってから気がついてしまった、私は彼を愛している。


自分でもどうしようもない位に愛している。


どうして良いか解らない位愛している。




そんな大切な彼を...私は傷つけた。


取り返しがつかない位馬鹿にして、傷つけて...馬鹿だった。



私はもう彼にあわせる顔が無い。


だから、せめて、原因を作った神谷を殺そうと思って探したら、失踪していた。


神谷を知る友人から聞いた話では「胡散臭い事をしていたから死んでても可笑しくない」という事だった。


今思えば、私は友達の声にも耳を傾けていなかった。


友人の話では神谷は女に飽きると、【他の男に抱かせたり】【輪姦してビデオをとり脅す】そういう最悪な男だった。


「恵美ちゃんに手を出されなくて良かった」とも言っていた。


会社まで放って失踪したなら...多分【死んでいる】かも知れないし、生きていても碌な人生送れないだろう。



こんなゴミに騙されて、私達の為に頑張って貯めてくれたお金迄全部失ってしまった。


本当に馬鹿な女だ...



両親と話した...


「悪いと思ったら、償えば良い」


「私はなにも言わないわ、悪いと気がついたら行動しなさい」


そう言われた。



【償い】


私がしないといけないのは【心からの謝罪】だ。


満足な生活を送れない彼の為の【介護】


そして...彼を養う為に必要な【仕事】だ。


女だから、償いで風俗に行こう、そうも考えた。


だが、父親から怒られ「そんな事したらもう二度と泰章くんはお前を見ないだろう」そう言われた。


その通りだ...


だから、スーツを着てちゃんとした会社の面接を受けた。


パートじゃ駄目だ、彼を養えない。


結局は、正社員にはなれないけど【正社員雇用の可能性のある】事務員に受かった。


給料は今現在は月17万円...全然足りない。


幸いまだパートだから副業可能だから、パートを増やそうかな...



泰章さんは許してくれるか解らない。


それを望むのは...駄目。


お金を稼ぐのは思った以上に大変なのが解った。



頑張って【彼を助けられる】位になれたら、謝りに行こう。



もし許してくれるなら...今度は私が彼の手助けをしたい。



本当にそう思った...


両親は....



「そうだな、少しはましになったな」


「償いから始めるのが当たり前なのよ、ようやく解ったのね」



今度こそ道を間違えない...そう心に誓った。



娘の恵美も、頑張っているようだ...私も負けられない。





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