第17話 閑話:娘

お母さんとお父さんが離婚した。


その時にお父さんが道路に飛び出して、車に敷かれた。


その結果、私は...田舎に引っ越す事になった。


仲の良い友達とも...もう遊べない。


お父さんが退院する前に引っ越す約束だから、この数日間が友達と過ごす最後の時間だ。


お母さんは泣いているけど...


今思えば、お母さんが不倫して貯金を使い切ったのが原因だ。


しかも、ふざけた事に【贅沢させて貰った】と思っていたのに、そのお金は神谷さんじゃなくてお父さんが貯めたお金だった。


玉の輿に乗る筈だったお母さんは...騙されて全部のお金を失った。



【学校にて】



「しかし、親父は汚いし...くどくど話もするし、凄くムカつくよね」


「本当に嫌だ、嫌だ、洗濯物も別にして欲しいわ」


「小遣いも碌にくれないし...本当にキモイわ」


「まぁ、だけど、こんな事は言えないのが辛いよね」


「働いて食わして貰っているからね」



あれっ...いま、なんて言ったのかな?


【まぁ、だけど、こんな事は言えないのが辛いよね】



「あのさぁ...もしかして皆って、お父さんに気持ち悪いとか言ってないの?」


「恵美さぁ...当たり前じゃない? うちの親父は禿でキモイけど、親父が働いているから生活出来るんだから、傷つく事当人に言う訳無いじゃん」



「そうだよ、うちのお父さんも足が臭いけど...態々言う事ないよ、と、言うか感謝しているよ」


「嘘、それじゃ、お父さんにATMとか、気持ち悪いとか、誰も言ってないの?」



「恵美、まさか貴方、そんな酷い事本当に言っているの? 考えてみてよ? 例えば、私は自他共に認める【貧乳】で【チビ】だよね? だけど、そんな事友達から言われたら傷つくから、影なら兎も角、当人の前では言わないよね?」


「恵美、あんたまさか、此処で言っているような事お父さんに言っているの? 当人に言えないから、お互いに話をして愚痴っているだけじゃん」


「って、言うかさぁ、私は恵美が私達に合わせる為に言っていたと思ったよ? 月にお小遣い3万円貰って、スマホの維持費は別なんだよね? しかも今恵美が持っているスマホは最新機種で約10万円するやつじゃん...それお小遣いとは別に買って貰ったんだよね?」



「...うん」



「恵美のお父さんって、外見だって悪くないじゃん? 上の下だよね? ギリイケメンとも言えると思う」


「そうだよ、夜遅くまで働いて、家族に尽くしているんじゃないの、それで何が不満な訳」


「私だったら、多分ファザコンになると思うよ? 恵美の待遇を私にしてくれるなら【パパぁ大好き】位言ってあげるよ」



「なんで?」


他のお父さんは違うの?



「はぁ~、月に3万円もおこづかいくれて、それとは別に高級な物買ってくれてさぁ...恵美結構ブランド物も持っているよね? 正直言えば【別の意味のパパ】でも良いパパだよね、実の父親にそんな貢いで貰って何が不満なの」



「悪い事言わないから、謝った方が良いよ」


「うん...そうする...」




私はお父さんに何か酷い事されたのかな...ううん、されていない。


お父さんは、穴の開いた靴下を縫って履いていた。


スーツも安物をヨレヨレになるまで着ていて。


靴は古い靴を自分で磨いて履いていた。


唯一のブランド品のコートも、おじさんから貰った物を10年着ている。



それなのに、お母さんや私にはいつも贅沢な服や、ブランド品を買ってくれた。


お父さんの趣味って何かな...多分、何も好きな事なんて出来なかった筈だ。


お父さんのお小遣いは月に1万円で昼食代込みだ。


私が逆の立場だったら...多分逃げ出すと思う。



友達から聞いてみて自分が如何に酷かったかわかった。



お父さん...だけどもう、お父さんには会えない。


私とお母さんには接近禁止命令が出されていて、罰金もある。


お母さんの実家に帰ってきてからは...地獄だった。


「大学なんて行けると思うなよ、お前達は泰章くんの一生を潰したんだ、高校だけは編入試験に受かったから通わせてやるが、在学中はバイトして金を稼ぐ苦労を知るんだな、卒業したらすぐに就職するんだ...どうしても大学に行きたいならバイトして奨学金で行くんだな、だれも援助はしない」


そうお爺ちゃんに言われた。


去年はお年玉をくれたお爺ちゃんが人が変わった様に鬼になった。


「たんとお食べ」が口癖でいつもご馳走を食べさせてくれたお婆ちゃんも何時も怒ってばかりだ。


「私が躾をちゃんとしなかったからだ」とよく怒鳴られる。



今となって解る...全部自分が悪い。


お母さんが不倫しているのに気がついた時に殴ってでも辞めさせるべきだった。


それが出来ないならお父さんやお爺ちゃんに相談するべきだった。


それをしなかったばかりか、私はお母さんとあの神谷という男の味方になっていた。


本当に馬鹿だ...



多分お父さんは寝たきりになっている筈だ...


学生の私がアルバイトしたって、お父さんを養えない。


どうしよう....? 【養う?】



嘘でしょう、私がお父さんを養うの....あれっ、可笑しいな。


あのクソ爺を...あれ、あれっ? 友達はお父さんの容姿を上の下と言っていたけど...お父さんってイケメンだよね?


多分、外見はドストライクじゃないかな...なんで嫌っていたのかな。


イケメンで性格が良くて...尽くしてくれる。


うん、理想の男性じゃないかな。


親子じゃ無いなら結婚したい...可笑しい、絶対に可笑しい。


いや、親子でも事実婚で良いんじゃないかな?


血が繋がっていないから親子でも実質他人だから良いよね、若い分お母さんより私の方が勝ちだ。


お父さんは何時も私を【可愛い】と言っていた。


そんな可愛い私がお嫁さんとして傍にいてあげるといえば...喜ぶんじゃないかな?



あははははっ、気がついちゃった...私お父さんの事が【大好き】ううん【愛している】って事に。


どうしようかな?


接近禁止で罰金を取られちゃうけど...多分お父さんはとらないと思う。


それに私はお母さんの若い頃に似ているらしいから、頑張ればお父さんを口説けるんじゃないかな?


それ以前に...お父さんの介護をする人が居ないなら私がすればいいじゃない。


うん...そうしよう。


だって私はお父さんを...こんなにも


愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している愛している


いるんだから大丈夫だよね?



【泰章SIDE】


ピンポーン


誰だ、日曜日なのに、どうせ何かの勧誘だろう。


良いや無視だ無視。


ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン。


煩いな...


仕方なく俺はインターフォンのモニターを除いた。


げっ、恵美、なんで此処に来たんだ。


迂闊だった、さっさと引っ越すべきだった。



だが...くそっ親子って言うのは簡単に切れないのか、チクショウ。


あんなに嫌いな娘なのに、俺の事を馬鹿にした腐れ娘の癖に。


なんでだよ【やつれたな】だと...なんでそんな事が頭に思い浮かぶんだよ。



「お父さんいるんでしょう? 此処を開けてよ...お願いだから」



「お前の顔なんて見たくない、俺には二度と会わない約束をした筈だ」


「そうだけど、どうしても、謝りたいだから、お願い此処を開けてよ」



「お前なぁ~ 此処を開けたら100万円、お前から貰う事になるんだぞ」


「それでも良いから、お願い」



仕方ない、急いで寝間着に着替えた。


結局、俺は根負けしてドアを開けた...まぁこれならどうにか、怪我人に見えるだろう。



俺を見るなり腐れ娘は玄関先で土下座をしだした。


「お父さん..グスッ..すん..本当にごめんなさい」


泣きながら謝っている。


親娘の絆とは怖いな...あれだけ腸が煮えくり返っていたのに【可哀想】そんな気持ちが込み上げてくる。



「もう良いから顔をあげなって」


「お父さん、許してくれるの?」



「許す訳ないだろうが」


「そうだよね...私、これからお父さんの面倒みるよ、上手くないけど、料理に掃除に頑張るからここに置いて」


「お前、俺の面倒を見ようっていうのか?」


「うん...一生お父さんの面倒みるからさぁ...許して」



そうだな、此処まで償うって言うんだ、許してやれば良いさぁ。


まぁ一緒に暮らすのは無理だが、少し位譲歩してもい良いんじゃないか?


俺は、タンスの中から100万円の束を5つ取り出して封筒に詰めた。



「仕方ないな、これをやるよ」


「お父さん、これって...なに」


「これは元はお前の学費にと思っていた金だ...最後の親の務めとしてお前にやるから、持っていきなさい、大学の学費にするとよいよ」


「お父さん...ありがとう、愛している」


最初からこう素直だったら...あっ。


腐れ娘はスカートを卸してそのまま抱き着いてきた。


「許してくれたお礼に...あたしをあげる、お父さん」


恵美は顔を赤くしてそのまま目をつぶった。


そうか...これはただの魅了の影響だ。


ただ、それだけの事だ。


本当の親娘として俺が好きな訳では無い...


まぁ、それでも、昔の楽しかった時の事を少しだけ思い出した。


俺は、お金を腐れ娘の鞄に放り込み。


そのまま腐れ娘をお姫様抱っこした。


「お父さん...愛している、世界で一番愛しているよ」


何を勘違いしたのかこんな事言いだした。


スカートも拾い...玄関まで行き外にそっと置いて、急いでドアを閉めた。


勿論、速攻で鍵も掛けた。


気がついた腐れ娘がドアを叩き始めた。


「お父さん、愛しているから、ほらドアを開けて」


「ねぇ...あけてよお願い、酷いよ」



「良い子になるから、いい子になるから此処開けてよ..ねぇ」


「なんでもするよ、恵美なんでもするから、此処をあけて...ねぇ」



暫くして管理人が警察に通報したのか、警察に腐れ娘は連れていかれた。


その際に警察官が事情を聞いて来たが【離婚した相手の子供】と説明して、弁護士の書類を見せたら納得して帰っていった。



よく考えたら【魅了】を掛けたのだから...俺を好きなのは当たり前だ。


俺は一体...何を勘違いしているんだ、馬鹿だな。



「うん...一生お父さんの面倒みるからさぁ...許して」か...あれが本心ならどれだけ嬉しかったか...


まぁ良い、元から【大学まで援助】はしてやろうそう思っていたから、これで良い。


全てが済んだら、此処を引き払って引っ越せば良い。


それでもう会う事も無いだろう。



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