第11話 揉め事

その日一日、神谷は俺に絡んで来なかった。


まぁ、夫婦共有の財産の2000万は返ってきたし、慰謝料として相場より少し高めの金は貰った。


これで良いのか? と言われれば【こんなんじゃ足りない】


そうは思う。


だが、これで形上は償いは終わった事になる。


もし向こうから何かしてこなければこれで終わりで良い。



神谷も大人なのか、別に何か仕掛けて来る事は今の所はなさそうだ。


まぁ、何かするにしても、精々が嫌がらせをして、退職か首にする位しか出来ないだろう。


もし、神谷が一線を越えて、何かして来たら、その時はこちらも対処すれば良い。


ただ、それだけの事だ。



だが、事態はあっさりと動き出した。


「あんたが、今井泰章さん?」


見知らぬ男が話し掛けてきた。


周りは6人、完全に囲まれている。


さてどうしたものか...


「確かに、そうだけど? 何かようでもあるのか」


「悪いけどちょっと事務所まで来て貰えるかな?」



相手の正体も解らないと困るからついて行く事にした。


「解った、ついて行けばいいんだな」


「素直にして貰えるとこちらも手間が減る」


男達ははニヤ付きながら俺を囲んだ。


そのまま、ついて行くとスモークガラスのバンがありその前に高級車が止まっている。


俺はバンに乗せられ横の男2二人に肩を押さえるように拘束された。


明かに、見た感じからして反社会組織、多分ヤクザだろう。


「それで、俺はどうして、こんな事になっているんだ?」


「お前、神谷さん怒らしただろう? 神谷さんはよう、うちと繋がっているんだよ? だから、これからあんたは大変な事になるんだぜ」


「まぁ、殺されるんだけどな」



どうやら、此奴らはヤクザで、俺を殺そうとしているらしい。


やはり【法の外】の話になったのか...まぁ【どうでも良い】



「それで、何処のチンピラが俺を殺そうとしているんですかね?」


「座間会だ、おっとお前が解る様に言うなら、竜ケ崎組の系列だ」



簡単に言うなら、日本有数の暴力団竜ケ崎組の系列の組...そういう事だ。


さて、どうしてやろうか?


「貴方達は、暴力のプロ、そして俺を殺そうとしている...そういう事でしょうか?」


俺は丁寧にワザと話した。


「まぁ、殺す殺さないはまだ解らないがな」


「銃を突き付けて良く言いますよね?」


相手は何を言っているのか解らない、そんな顔をしていた。


俺は一連の会話を録音していた。


もしかしたら、俺を本当に殺そうと思っているのかも知れない。


勿論、銃なんて突き付けてはいない。


だが、少しでも大袈裟にした方が面白い。


「お前、何を言っているんだ」


男達は少し声を荒げたが気にしないで、適当に会話を続けた。


途中までは話をしてくれていたが、最後にはまるで頭が可笑しい人間を扱う様な対応へと変わっていき、とうとう話をしなくなった。




暫く、時間が経過すると、人が居ない山道を走っていた、俺を殺す場所として山林を選んだのだろう...此処まで来ればもうカメラも何も無いな。


ならば、何をしても大丈夫だろう。


俺は横の男二人に肘鉄をぶち込んだ。


「うげっ」


「うごっ、ごふっ」


そのまま、ハンドルを掴み、思いっきり右へ引っ張る。


「おい、貴様なにやっているんだーーーーっ」


「うわぁぁぁぁぁーーーーーっ」



「うごっぃぃぃーーーー」


「あああああーーーーーーーっ」



いきなり車は崖にぶつかったんだ、流石のヤクザでも驚かないわけないだろう。


俺は激突寸前にドアを蹴破り飛び降りた。


前の車から三人の男が降りて来たが、銃も持って無いから完全に俺の餌食だ。


剣を振るう様に手刀で斬りつける。



この程度の相手にはスキルも必要ないが...無力化させる為に【強奪】だけは掛けた。


どうでも良いスキルが片っ端から盗れた。



相手が銃を持っていても、俺には【どうでも良い】この世界の人間なんてオークにも勝てない位弱いからな。


簡単に無効化出来た。


バンの前に乗っていた奴2人はエンジンが内部に押し出されて足に食い込んでいた。


ガラスは割れて恐らく頭を打ち付けていた。


「ううっ」


「ううう」


何だか呻いているが放置だ。


後ろの奴も酷く打ち付けたのか気絶している。


こちらも、多分駄々じゃ済まない。



無効化した三人の方に向った。


「さてと、俺を殺すんだっけ? そのざまで出来るのかな?」


「ふざけるな! こんな事をして只で済むと思うな、座間会が黙って無いぞ」


「あのさぁ、あんた達みたいな奴を簡単に無効化出来る俺が素人に見えるのかな?...多分殺した数【魔物】は俺の方が遙かに多いと思うぞ」


「ちょっと待て、お前は同業なのか?」


まぁ何時殺されるか解らない、この状況で話せるだけ凄いのか...まぁさっきからガタガタ震えているが。


「同業じゃぁねーよ! 俺は殺し専門、暴力は余り好きじゃないんだ」


スキル【威圧】を掛けて静かに反した。


「ここ殺し...殺し屋」


「そうだよ、一般人に混じって静かに暮らしていたのによー、変な事に巻き込んでくれてどうするんだ、これ?」


「待て...そうだ、もう手を引く、手を引くからな...それで良いだろう?」



「もう遅いと考えられないか? バンはもう事故っているから、火をつけたらそれで終わり、そうだアンタ達も車に載せて左の崖から落とそうか?」



「絶対にもう関わらない、この事は口を割らない、だから止めてくれ」


殺される覚悟も無い癖に、此奴は何をいっているんだ?


大体口を割らない...そんなの信用が出来ないな。



「まぁ、いいや、ほらスマホ貸せ」


「何するんだ...」



「今回は助けてやるよ...まぁバンの方も命は助かるだろう...まぁ一生歩けないかもしれんがな、救急車を呼んでやるから【ただの事故】それで済ませろよ、余計な事言ったら...殺すよ」



「解った...絶対に話さない」


「そうか? どうせお前には決定権が無いだろうからな、組に直接こっちから出向いてやるから、伝えておけ」


「解った...はぁはぁ」


まぁ、手足を折って転がしているから、此奴も結構きついだろう。



俺は慰謝料を兼ねて、全員の財布から札を全部貰うと119番を掛けその場を去った。



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