第10話 神谷の裏の顔
神谷浩二。
大手企業、プライムコーポレーションの部長。
今の社長の妹、裕子に見染められて婿になり入社。...そして、それを機に部長となる。
社長に子供はいないから、本来なら次の社長という話があっても可笑しくない筈だが...無能ゆえに部長どまり。
未だに専務の椅子は勿論、常務の椅子にも届かない。
だが、妻の裕子は【それを認めている】
無能に隠れたその奥に...実は隠れた顔を持っていた。
本来の仕事は無能だが、彼等には裏の顔があった。
広域暴力団竜ケ崎組の経営するフロント企業、場合によっては直接組とも繋がって、プライムコーポレーションを食い物にしている。
それが神谷浩二とその妻、裕子の本当の姿だった。
元々浩二じたいは、ホストで居た所を、竜ケ崎組のフロント企業にスカウトされ、風俗と水商売の責任者になっていた。
浩二のホスト時代の太客が裕子であった。
そこからズルズルと付き合い、浩二が危ない事しててもそのまま付き合いは終わらず、結婚して今に至る。
先代のプライムコーポレーションの社長である【要 良治】はこの結婚に反対するも...裏で殺されたと言うのは裏社会では有名な話だ。
ちなみに、戸籍上の名前は【要 浩二】【要 裕子】だが、先代が書いていた遺言で「要の苗字を名乗る事は許さない」という事から【神谷】の苗字を名乗っている。
恐らくは、神谷に取り込まれた裕子を斬り捨てる、そう考えていたのだろうが、先手を打たれ殺されたのだろう。
この事は...今の社長である【良一】は知らない。
精々が妹が役立たずと結婚した...その程度にしか思っていない。
今現在の浩二と裕子は利害関係だけで繋がっており、そこには愛情は無い。
浩二は不倫、裕子はホストにまた狂っていた。
「お前、俺に許可なくなんで2500万も使ってんだよ」
何時になく浩二は苛ついていた。
金をとられた挙句に土下座までさせられ、頭まで踏まれたのだ、プライドの高い浩二には耐えれない屈辱だっただろう。
「それは、あんたが馬鹿したからでしょう? 今は娘の真理が北条の御曹司との結婚が纏まるかどうかの瀬戸際なのよ? あんな端金ですむなら、さっさと終わらせた方が良いわ」
「ああっ、解ってはいるが、あんな中年のババア抱いただけで2500万だぞ、まだ娘にも手をだして無いのに」
「まぁ、仕方ないじゃない? そのうち2000万近い金は貴方が貢がせてたんでしょう? 今は揉める訳にはいかないわ」
「糞っ...ムカつく、お前の方から今度は訴えて金をぶんどれよ..あの糞女抱いただけで2500万は割が合わねーよ」
「それも出来ないわね...ほら、こんな内容で和解しているんだから、下手に動けないわ」
裕子は、和解内容について説明した。
「ふざけんな! お前なんでこんな内容で和解したんだよ」
「貴方が馬鹿だからよ! こんなに不倫の証拠残して、しかも、未婚として近づいているじゃない?しかも最初に限って言えば【無理やり】ともとれる脅し文句、本当に馬鹿じゃ無いの? 相手は裁判も辞さない、結婚詐欺も含んで訴えるかも知れないのよ? まぁ優秀な弁護士が居るから、此方が勝つけど...そんな揉め事になったら、真理の婚姻の話は無くなるわよ、その方が余計に痛いわよ」
「だからって、俺は土下座までして頭を踏まれたんだ」
「それで終わりなら良いじゃない? 表に残るお金だから、私だって兄に土下座してお金を借りたのよ? 同じよ、同じ」
「糞、割が合わねーよ」
「確かにそうだけど、今井さんだっけ? 考えたら結構悲惨じゃない...10年以上連れ添った嫁さんや娘に不倫された挙句、離婚よ、そう考えたら土下座で足で踏まれた位で終わるなら良いんじゃない、それより、変に蒸し返さないでくれない? どうしても腹の虫がおさまらないのかしら?」
仕方ないわね、そんな顔で裕子は浩二を見た...浩二の形相は怒りに震えている。
「ああっ、収まらねーな」
「そう、どうしても手を出すなら、殺してしまう事ね、ただそんな事したら、また貴方、組に貸しを作る事になるわよ?」
「ああっ、そうだな【組からのお願い】を増やす原因になりかねない」
「まぁ、そのおかげでお金に困らないんだから、仕方ないわね、だけど、どうしても報復したいなら殺すしか無いわ...もし大事になったら、折角、北条コーポレーションに入り込めるチャンスが無くなるわ」
「ああっ、やるなら徹底的にやってやるさ」
浩二は口を釣り上げ笑った。
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