第9話 土下座

会社に出社した。


会社の雰囲気は何時もと変わらない。


まぁ、自分から【部下の妻と不倫しました】そんな事を言う奴はいないだろう。


滝口の席に行き話を聞いたら、会社には【交通事故に遭った】それしか報告はしてない様だ。


タイムカードを打ってから席に座ると【社長室に来るように】そう書いてあった。


正直言えば、神谷絡みだと解るから行きたくない。


行きたくないが行くしかない。



社長室にノックして入った。


「失礼します」


「入り給え」


お辞儀をして中に入った。


その時に見た社長の顔は、到って冷静に見えた。


何を言い出すのか、様子を見る事にした。


「今回は義理の弟が迷惑を掛けてすまない」


軽く頭を下げているが余り良い感情は無いだろう。


「気にしてないと言えば嘘になりますが、もう解決した事ですから」


「そう言ってくれると助かる...それじゃ下がってくれて構わない」


そのまま一礼して下がろうとしたら...


「君にはかなり理不尽な事がこれから起こるかも知れない、だが儂から見て理不尽でも【身内】と他人なら【身内】を取らないとならない、だからその分も含めて今から先に謝る...この通りだ」


社長は頭を下げていた。


自分から言い出すだけ善人なのだろう。


実際に神谷を部長で止めて、専務や常務...しかも取締役にもしない事から真面な人だと解る。


恐らく、あの2500万も多分、社長が出したに違いない。


だが、何か仕掛けてくる、それが解っていて手を打たない馬鹿はいない。


俺は社長に【魅了】を掛けた。


魅了と言うのは女に掛けるだけじゃない。


男にも掛ける事が出来る...事実、俺が知っている、ライトノベルの悪役勇者は、王様に掛けて、一夫多妻制や王女との婚姻まで認めさせていた。



「今井くんは気にしないで良いぞ、なぁに儂が味方だ、儂が黒い目のうちは、妹にも彼奴にも手を出させない、安心したまえ」



凄いな【魅了】まぁ社長を押さえたんだ、会社内ではもう問題は起きないだろう。



そのまま自分のデスクに戻った。


さて神谷がどう出て来るか?


一応は彼奴の方が身分は上だし挨拶はするかな。


「神谷部長、おはようございます! 休暇届けと報告有難うございました」



「まぁ上司として当たり前の事だ気にしないで良いよ」


顔が引きつっている。


まぁ、自分が嫁を寝取った結果事故にあった男がピンピンしていたら不気味だろうな。


それに、2500万もとられたんだ、幾ら外面が良くても顔が引きつるだろう。



「そうですか? それじゃ俺は仕事に戻ります」


「待ちたまえ、話があるから、ちょっと会議室に来てくれるか?」


「良いですよ」



【会議室にて】



「お前、ふざけた事してくれたな! ふざけるんじゃないぞ、たかがあんなくたびれた女抱いた位で2500万だーーっあん」


多分、これが本性なのだろう、随分厳ついな。


「お前が俺の元嫁と一緒に2000万使ったんじゃねえか? その分取り返して500万の慰謝料なんだぜ!到って良心的としか言えねーな」


少し、怯んだようだ...まぁ昔の俺ならこんな事は言わない【私はそんな】とか言っていた人間がいきなり言葉使いが変わったんだ少しは驚くだろうな。



「俺のお陰で儲かったんだろう? 半分寄こせ」


「いいぜ、何だったら全額やろうか?」


「本当か?」


「だが、これを返すと言う事は、お前の奥さんとの約束は反故になるぞ? 【不倫していたのが、就業期間中だから会社ごと訴える】【未婚を装って元嫁に近づいたんだから結婚詐欺で訴える】それより困るのは...お前の娘の婚約者の御曹司に話すぞ、それで良いんだな? 俺としてはお前が地獄に落ちた方が楽しいからしれで良いんだ、あーあっ、折角お前の奥さんが話付けたのに...全部終わりだな..それじゃ銀行行ってくるわ」



「待て」


「待て? 金が欲しいんだろう? いいんじゃねーか?」


「解った、もうこの事で文句は言わない...それで良いんだろう」


「ああっ...ただ、もう少し言葉使いに気をつけた方が良いな、俺は嫁と離婚して娘を失った...お前のせいだ、それなのにお前の娘は結婚して今後も幸せな家族生活をお前達は送るんだろう? 正直言えば、頭の中でどうしたらお前達が不幸せになるのか、つい考えてしまうんだ!我慢しているのが解らないのか? お前の娘、真理ちゃんだっけ、もしレイプでもしたら俺と同じ様に不幸になるんじゃないかとかな」



「待ってくれ、娘は関係ない」


もう、腐れ嫁や腐れ娘の事はどうとも思っていない。


だが、最初の1回は嫌がる腐れ嫁をお酒で酔わせて半分無理やり連れ込んだ。


まぁ、そこから火がついた彼奴は此奴が好きになった訳だが...



「いや、あんたが俺の元嫁にしたように、案外一回関係を持っちまえばズルズルいけるかもな」


「頼むから止めてくれ」


「だったら、頼み方があるんじゃねーか?」


「頼み方だと」


「土下座だよ、ど.げ.ざーーーっ」


娘は可愛いらしいな...あははははっ土下座してやんの。


俺は土下座している、神谷の頭をそのまま踏みつけた。


「これで、許してくれるよなっ」



「ああっ、今はな、ただ、俺は家族を全部失った、お前が未婚で責任取るならまだしも、嘘をついて卑劣な手段で奪ったんだ、お前から見たら馬鹿女でも俺はあの時愛していた。だがもう取り戻せない...俺の前で幸せそうな顔をしていると、壊したくなっちまう...壊されたくないんなら、今度から言葉使いに気をつけろよ」


「解った...解ったから家族に手を出さないでくれ」



《此奴は本当にあの今井なのか? まるで別人じゃないか? 俺はヤバイ奴に手を出してしまったのか...だとしたら手を打たないと不味い》



俺は茫然と土下座をしている神谷を置いて会議室を後にした。


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