第8話 金は取り戻した

翌日、俺はベッドを受取ると笠井さんの事務所へ向かった。


こういう時は半分引退したような弁護士は便利だ。


時間をすぐに空けて貰える。


話は簡単だ、神谷への慰謝料請求だ。


請求内容は簡単だ。


【請求金額は2500万】


これは、使い込まれた金額約2000万に慰謝料500万を足した金額だ。


請求金額としてはまぁ、3年分の不倫としては500万は高額だが、請求するのは自由だ。




【会社でお互いに不利益になる事は一切しない】


簡単に言えばプライベートな事は会社では持ち出さないし追求しない。


そんな意味合いだ。



これで請求する事にした。



笠井さんに内容証明にして貰い【会社】と【自宅】に送るようにした。


内容には裁判も辞さないと一筆いれて貰った。



神谷は入り婿で、奥さんは社長の妹にあたる。


本来なら常務や専務になっても可笑しくないが、部長という事は何か事情があるのだろう。


会社で威張れるのは、社長の義理の弟、その事実があるからだ。


だから、こそ、家では妻に頭が上がらないし、会社では素行をしっかりしていなければならない。


社長の縁戚で部長の神谷は怖い。


だが、それは【会社に居たい】そう思えばの事だ。


会社を辞めても良い、そう考えれば、そんなのは通用しないし、まして【不倫】が関係していれば解雇されたら【不当解雇】で訴えれば良いと考えたら、彼奴の方が痛い筈だ。



さて、これでどういう風に出て来るか見物だな。


素直に払えば良いし、素直に払わなければ【本当の意味】での報復をすれば良い。



取り敢えず、内容証明郵便が届いてからの反応を見れば良いだろう。



3日間と掛からずに、神谷の嫁の裕子から電話があった。


神谷でなく、裕子から電話があったのがミソだ。


神谷より家庭では妻の裕子の方が力を持っている、そういう事だと思う。


「貴方がこちらを送ってきた、今井さんですか?」


「はいそうですが?」


「此処に書いてあるのは事実なのでしょうか?」


「証拠は沢山ありますよ、何だったらお見せしましょうか?」


「ええ、宜しくお願い致します」



わざわざ、向こうからこちらの方まで来てくれるそうだ。


家に入れるのもなんなんで、近くのファミレスで会う事にした。


ドリンクバーのアイスコーヒーを啜っていると、裕子らしき人物がこちらにきた。


多分、彼女であっているだろう。



「貴方が今井さんであっているのでしょうか?」


確かに歳をくっているが、上品そうなマダムだ。



「ええ、そうですが」


「そう、それなら、早速、証拠とやらを見せて貰えるかしらね?」


俺はあらかじめ用意した証拠を見せる事にした。


「これは確かに言い逃れは出来ない証拠ですね...解りました、この金額は私の方で直ぐに払います、ですがその場合は貴方の奥さんに対して私も慰謝料を請求しないといけなくなりますわね」


成程、それで相殺しよう...そういう風に持っていこうとしているんだな。


「俺の方はもう、離婚しましたから関係ありませんからどうぞ...ですが、それをやると困るのは貴方達になると思いますよ?」


「そうかしら?」


此奴もただの生兵法だな。


「はい、俺が浮気を発見したのは【早退】したからなんですよ? つまり、神谷、貴方の旦那さんは仕事をさぼって不倫をしていた事になりますよね、就業期間中に不倫、しかもそれをする為に、俺に時間外残業を強いた、つまり、会社ぐるみかも知れないと妻は追及しますよ? 会社のイメージはどうなりますかね? たかが数千万ですむ事を数億~数十億の損害が出るようにしたいんですか?」



「貴方、凄く汚い事を考えるのね」


どっちがだ...



「しかも、この内容見て下さいよ...ほら、あんたの旦那は未婚って言って近づいてますよ? 【結婚詐欺】もプラスになるかもね...まぁ裁判やればやる程、騒ぎは大きくなるな、それに汚い? まぁ妻は馬鹿ですが、【未婚者として近づいて】しかも俺の上司の立場を利用してますよね...この状況じゃ、最初の1回は断れないな、まぁそのまま付き合った時点で俺の元嫁も腐ってますが、あんたの旦那は俺より遙かに腐ってますよね」



「それは...」


「もう、良いですよ、裁判にしますから、可哀想に娘さんの婚約...どうなるのかな? 父親が結婚詐欺で裁判になったら、無罪でも流れるんじゃないかな? 少なくとも就業時間中に不倫をした、それが明るみにでるんだから」


「解ったわ...払いますから、もう止めて下さい、娘を傷つけないで下さい」


「良いですよ...ただ言わせて貰えば、俺たちはあんたのクズ旦那のせいで【家族はバラバラ】だ...離婚してるんだぞ! 少なくとも金を払えば何も失わない、あんた達の方がまだ幸せなんじゃないか?」



「そうね...解ったわ、払います」


「そうですか...それじゃ弁護士呼びますから書類にしましょう」



笠井さんに電話すると...俺が元気な事に驚いていた。


だが、そこはプロだ、てきぱきと仕事をしていった。


決めた内容は



【慰謝料プラス使い込んだお金あわせて2500万の一括払い】


【会社でお互いに不利益になる事は一切しない】


【神谷家側からは一切の慰謝料請求はしない】


【その代わり、今回の件で、会社を巻き込むような裁判を行わない】


こんな感じだ。


正直、腐れ嫁や腐れ娘は【どうでも良い】と思いたい、だが義両親には世話になったし、悔しいが楽しい思い出もある。


だから、今回一回だけは助ける事にした。



「これで良いわね...よくもまぁ、やってくれたわね」


「馬鹿な旦那持つと大変ですね(笑)」


「貴方、昔あった時はおとなしい感じがしたのに...」


「家族を奪われ、死に掛けたら人もかわりますよ」


「まぁ、良いわ」


そう言うと裕子は去っていった。



次の日には既に2500万は入金されていた。


これで一応、表向きはかたが付いた事になる。


これから何か仕掛けて来なければ...もうこれで終わりで良い。


明日一日休んで、明後日からは、会社に出社する事にしよう。




しかし、俺も随分変わった物だ。


死ぬ前の俺ならこんな事は何も出来なかっただろうな...


恐らくは腐れ嫁や腐れ娘と再構築して、また暫くしたら同じような目に逢うに違いない。


下手すれば神谷と腐れ嫁が関係を続けるのを無理やり黙認させられて悔しい思いをしたのかも知れない。



まぁ今となっては【どうでも良い】事だ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る