第7話 俺も浮気したのかも知れない
午後からは、自動車事故について加害者の運転手とその会社の社長が来たいという話があった。
さっさと終わらせたい俺は、そのまま了承した。
笠井さんはそのまま暇だから居てくれるそうだ。
まぁ、実際には余り仕事を受けていないお爺ちゃん先生だし、ある意味半分友人だからの事だろう。
事故を起こした運転手とその雇い主の社長は俺を見るなり土下座をした。
凄く悪い気がする。
余り記憶に無いが...俺はふらふらと道路に飛び出した気がする。
その状態の人間をトラックが避けれるのだろうか?
俺も車も運転する人間だから解る、答えは無理だ。
「あの、飛び出したのは俺も悪い、気にしないでくれ」
「そう言って頂けると助かります、それでこれは些少ですが」
多分運転手の雇い主の社長が茶色い封筒を差し出した。
「これは?」
「すみません、この馬鹿、自動車保険の支払いをして無くて...1000万あります、これでなんとか許して貰えないでしょうか?」
「すみませんね、私は、弁護士として此処に立ち合いしている笠井と申しますが、今井さんはもう真面な人生を歩めません、多分桁が1つ上になりますよ」
自動車保険で払われなくって良かった。
俺はそう思った。
あれはどう考えても【俺が悪い】
「そんな、そんな金額、会社でも用意は難しいです...その場合は此奴に、ですが...ああどうしよう」
運転手はガタガタ震えている、億なんてお金一般人には無理だ。
俺は茶封筒から400万だけ取り出し、残りは返した。
「今井さん、それは?」
「笠井さん、困ってそうだからこれで良いよ...どうかな? 400万で示談OK」
俺は運転手と会社の社長に笑顔で答えた。
「あの...本当に良いんですか?」
「それで許してくれるんですか?」
あれは本当に俺が悪い...正直言えば、これすら貰うのはおこがましい。
だが、生活を考えたら、少しは金が欲しい。
正直申し訳ないが貰う事にした。
「ああっ構わない、その代わり今後何が起ころうと文句なしでお願い致します」
「それはどうしてでしょうか?」
「私はある宗教の女神を信仰しています、その神は祈れば難病や大怪我も治してくれるのです...だからこんな怪我きっと偉大なる女神様が治してくれますから...はははっ...勿論怪我が悪化しても文句言いません」
《症状を聞いたら、もう一生歩けない程で手も麻痺している...そう聞いた、それで良いのか?》
《一生許さない、そう言われると思っていたのに》
「本当にそれで良いのでしょうか? それならこちらは本当に助かりますが」
うん、それで良い...逆にトラック壊して悪いとさえ思えた。
「構わないよ」
「あの今井さん、かなりお人好しですよ、さっきの事といい...まぁそういう所が私も好きなんだがね」
笠井さんは400万円の示談書を作ってくれた。
それでお互いが合意してサインして話は終わった。
俺は生命保険も入っているが、申請するつもりがない。
俺は笠井さんに100万円報酬として払おうと思ったが「これからの生活を考えたら幾らあっても足りませんよ」と言われた。
だが、どうしても報酬を貰って欲しいと言ったら渋々50万円だけ受取ってくれた。
笠井さんが帰り、夕方になり食事が出て来た。
さてと...そろそろ良いかな?
「パーフェクトヒール」
繋がっている点滴に痛み止めにカテーテルを無理やり引き抜きぬいた。
結構な痛みがあったから今度はヒールを掛けた。
最初から体なんて簡単に治せた
だが、五体満足だったら、あの腐れ達は絶対に別れなかっただろう。
だからこれで良い。
これでもう問題は無い筈だ。
さて退院しようか...入院代金が勿体ない。
医局にいき「退院します」と伝えた。
これで病院ともお別れだ..
だが、病院側が退院を許してくれなかった。
仕方なくずうっと文句を言っていると、最後には自己責任都合で退院できた。
その際に【例えどの様な事が起きても病院は一切責任を負わないし意義申し立てはしない】そういう書面にサインして退院となった。
お金に関してはもう会計が閉まっているので明日持ってくる、そういう約束をして、そのまま家に帰った。
タクシーに乗って家に帰ると、何故か寂しさが込み上げたが、ベッドを見ると直ぐに嫌な気持ちに変わった...粗大ごみの回収業者に電話したら明日と言っていたが、見ているのも嫌なので割り増しを出すからと伝えると直ぐに回収していった。
イルゾンでネット調べしたら、明日に配送可能なベッドとマットがあったからポチッた。
毛布に包まるとマリアーヌの顔が頭に浮かんだ。
過ごした期間はたったの七日間...だがあの七日間は、腐れと過ごした12年より楽しかった。
そう考えたら...俺も浮気した...そう言えるかも知れない。
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