第13話 黒薔薇への道 黒薔薇誕生

「さてと...帰ってきましたわね..流石に疲れましたわ..少し眠ります..今日はゆっくりしてていいわ」


「フルール..時間が惜しいんじゃないの」


「それなら、大丈夫..後は夜ですわよ」


それからフルールは何度語りかけても答えなかった。



「ねぇ ジョディ起きてる?」


「ええ..」


「今の貴方に足りない物は何か解る..」


「強さですか?」


「それは勿論だけど...一番足らないのは経験よ」


「そうですね...だけど、それはどうしても手に入りませんよ」


「そう、だからズルをするのよ」


「ズル?」


「そう、私が経験した事..私が身につけた物..その全てを貴方にあげるわ」


「えっ、それって」


「今迄したのは、その為の器作り..今の貴方じゃ耐えられるかどうかは五分五分..頑張ってね」


いきなり視界が無くなった。


そして暗闇が広がっていく...


《嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘...これがフルールの記憶なの..》


そこには唯々殺戮や拷問をしていた少女が居た。


そう、これが黒薔薇...拷問や殺戮、恐怖の象徴よ。


私はね、他の黒薔薇とは違う..普通の黒薔薇は将来の王妃候補の女性をランダムに定めて拷問をして耐えた物から王妃に相応しいと思う者を選ぶの、だけど、私の父は元裏騎士だった。


だから、最初から黒薔薇になれるように私を育てた。


これが最初の私の殺人...殺したのは母さん


小さな子供が縛られている母親を拷問しながら殺す映像が浮かんだ。


《何で、何で、普通にこんな事が出来るの》


可哀想..そういう感情がないからよ...



幼い頃から目を抉り、人の顔を焼き、指や四肢の切断..暇さえあれば毒殺に暗殺、拷問。


それだけしか無かった。


暗殺、拷問、暗殺、拷問、暗殺、拷問、暗殺、拷問、暗殺、拷問、暗殺、拷問、暗殺、拷問、暗殺、拷問、暗殺、拷問、暗殺、拷問、暗殺、拷問、暗殺、拷問、暗殺、拷問、暗殺、拷問、暗殺、拷問、暗殺、拷問、暗殺、拷問、暗殺、拷問、暗殺、拷問、暗殺、拷問、暗殺、拷問、暗殺、拷問、暗殺、拷問、暗殺、拷問、暗殺、拷問、暗殺、拷問、暗殺、拷問、暗殺、拷問、暗殺、拷問、暗殺、拷問、暗殺、拷問、暗殺、拷問、暗殺、拷問、暗殺、拷問


本当にそれしかなかった。


私、王妃になってからも贅沢なんてしてないわ..正直言って宝石の価値も解らないのよ。


さぁ...受け入れて..そして耐えて。


《うががががががががががががががががっ 体中が痛い..ああああああ》


自分の力で押さえつけるの...


《頭がいたいいあいあいあいあいあいいあいあいあいあいあい痛い..破裂する》


自分の意思で押さえつけて


《心が心が痛い痛いいあたいあたいあたいたいた..》


ちゃんと押さえつけなさい..もう少しよ..もう少し..


《あががががががががががががががあぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱっ》


もう少し


《殺して、殺して、これ以上人を殺したくない...殺したくない》


あと少しよ、飲み込まれないで..


《死にたい、死にたい、死にたいのよ..こんな事する位なら死ぬわ..》


もう終わりは近いわ。


気が付くと私は体中から体液をぶちまけていた。


目からは涙、鼻からは鼻水...体は汗だらけ..下は糞尿をまき散らしている。


なのに、体は清々しい...


「耐えきったのね..大丈夫?」


「大丈夫です..寧ろ体は清々しいです」


「そう、だけど貴方は乙女として凄く汚いわ..水浴びをしてきなさい」


「きゃぁ..」


「直ぐにいってきなさい」



「終わったわ」


「どうしたんですか急に..」


「全てが終わった...貴方には私の全てを渡したわ、私がここで幽霊になってもしたかった事は 次の黒薔薇を育てる事だった」


「今の私なら解ります...フルールの人生はこれしか無かったのね」


「そうよ..私の最後の仕事は、次の黒薔薇を育てる事だったわ」


「マリアさんですね」


「そう、あの子は私の最高傑作..それをバカ息子が逃がす口実を作ってしまった」


「それで息子さんを助けなかったのですか」


「ええっだって子供なんてただ血が繋がっているだけの肉塊だわ」


「私もそう思います」


「そう、だから見捨てた..そして王が亡くなった後は国もね...」


「だから国が滅んだ後も貴方だけは見つからなかったのね」


「全て受け渡した貴方なら全て解っているでしょう..」


「死ぬまで弟子探しですか..凄いですね」


「だけど、誰もついて来れなかったわ...正直時間があればこんなズルでなく本格的に貴方を鍛えたかったけど、時間がなかったの...だから、私を受け渡す事で、それを埋めた」


「ええっ解っています」


「貴方を何とか黒薔薇を名乗れる位にはしました..まぁ私と同じ凡才ですが..」


「貴方は凡才ではないですよ、マリアが天才なら、貴方は秀才だと思います」


「そう、本当は黒薔薇になった貴方には王族との婚約が約束されるのだけど..国がないからあげられないわ..そうだ、これをあげる」


「ブローチですか?」


「ええ、安物だけど子供の頃から私が持っていたものよ..」


「ありがとうございます」


「さぁ、最後の試練が始まるわ..私を安心させて」





「お前が俺の子を殺して妻を売り飛ばしたのか!」


「ええ、そうよ何か悪いのかしら?」


「貴様、それでも人間か? 殺してやる..」


「そう、出来るならやれば!」


男は剣を抜き突っ込んできた。


凄い、太刀筋が簡単に見える。これがフルール、黒薔薇なんだ。


私は左によけ..ナイフで片目を抉った


「うわわわわわわわっ 貴様」


「弱いのにしゃしゃりでてくるからだわ..この程度で」


「来るな、来るな」


私は素早く駆け寄り首筋を切り上げた..首から男は血を噴き上げ..動かなくなった。





「お見事...あれでも彼奴はこの辺りじゃ有名な冒険者よ..これで私も安心していけるわ」


「そうなのかな..そんなに強くは無かったよ!」


「当たり前よ..貴方は」


「黒薔薇だからね」


「クス..そうね..そろそろ」


「行くの」


「ええっ 私の執念は次の黒薔薇を育てる事だった..それが叶った今、もう自分が保てないみたいね」


「そう、私は泣かないわ..黒薔薇だからね」


「それで良いのよ..今の貴方なら復讐など容易いでしょう...頑張るのよ」


「はい、やっぱり貴方は優しいわ、誰よりも」


「うふふ、冷酷女王、黒薔薇のルーラン...拷問狂と言われた私が?」


「ええっ、少なくとも私には優しかったわ」


「貴方がそう感じたなら貴方が黒薔薇候補だったからよ...黒薔薇を目指す子は私の宝だもの」


「今迄、本当にありがとうございました」


「貴方は黒薔薇...私の作った最後の黒薔薇..どこまでも気高く狂い咲きなさい」


「はい」


フルールはそのまま消えるようにいなくなった。


最後にフルールは私に微笑んだような気がした。


さようならフルール...私は..貴方の様に狂い咲いてみせる。




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