第17話 俺の日常

天城翼は勇者だった。


この世界ではクズの様な人生を送っていたが、俺の世界では勇者だった。


彼奴は世界を救ってくれた。


彼奴が居なければ俺は死んでいたし、兄たちも何時かは死んだだろう。


それじゃ、彼奴の代わりに【此処に来た俺】はどうすれば良いのだろうか?


勇者にはこの世界では成れないが、せめて天城翼を...クズとは言わせない位にはしなくちゃいけない。


少なくとも《天城翼》は凄い奴だった。


そう言われる位にはなって見せる。


それが、世界を救ってくれた、天城翼への恩返しだ。



こうして元セレス.スタンピートの目標が決まった。



朝3時に起床する。


軽く体ならしに柔軟をして家の掃除を徹底的にする。


その際は隠密のごとく音を立てない。



それが終わったら買って貰った金棒を500回素振りする。






最初は素振り用の木刀を買って貰うつもりだったが、オールみたいな物でも2キロも無かった。


余りに軽くて意味が無さそうだったので、お店を見ていたら六角金棒という物があり、60?で4キロだった。


少しはましなのだがまだ軽い、更に重いのが欲しくて話したら、140?で幅が広くて35キロという物があった。


近くの道場主が特注で作ったのだが、お金も払わずに道場ごと居なくなってしまったらしい。


仕方なく飾り代わりに置いてあるとの事だ。


俺が欲しそうに見ていると...


「これは真面に振れないぞ、もし振れるなら譲ってやるけど...まぁ無理だな」



何だか昔を思い出した気がする。


俺はジョブやスキルが無いから...武器屋の親父に、お前には無理だとよく言われた。



この六角棒、金額を聞いたら高くて30万円もするらしい。


特注品で作ったのと、焼きもしっかり入れており、金属も良い物を使っているとの事だ、店主曰く。


「日本刀でも叩き折れる」と言っていた。


静流さんは買ってくれようとしていていたが悪すぎる。


だから、こう提案してみた。


「もし、この金棒を真面に300回振れたら、くれませんか?」


「面白い事いうな! 俺は商売しているんだ、無料は駄目だが、もし本当に振れたら、兄ちゃんは幾ら持っているだ!」


俺は財布を見てみたら1万8千円入っていたからその金額を伝えた。


「よし、もし300回振れたら、その金額で売ってやる」


「乗った」


多分、この金棒の重さは前に振っていた剣の半分位の重さだ。


俺はその剣を千回以上振っていた。


まぁ楽勝だ。


度肝を抜いてやる...目の前で振り始めた。


300回は簡単に振れて...終わった後にこの店の店主は俺に訪ねてきた。


「どんな流派の剣なんだ、それは」と聞いてきた。


「西洋の国、スタンピートという家系に伝わる技ですかね」


嘘と真実を交えて話した。


まぁこの世界には絶対に無い流派なんだけどね。


約束通り店主は1万8千円で譲ってくれた。


静流さんは5万円別に払おうとしたが、


「男の約束だから要らない」


と頑と受け取らなかった。


まるで、あの武器屋の親父みたいだ。


また何か買ってやりたいが、この世界では無理だな、討伐とかでこの金棒が折れる事も無いだろう。


金棒を振り終わり、軽くその辺を走ったら。


予習に入る。


俺は騎士で貴族だった。


実際の現場でも王宮でもメモなんて、とらしてくれない。


だから、暗記は得意だった、英語や国語、歴史は等は予想外に簡単に終わり、楓から教わる必要も直ぐになくなり、静流さんからも、教わって既に高校の段階に追いついた。


逆に数学や化学はちんぷんかんぷんだ。


数学は算数レベルは楽勝だったが【数学】に入った途端...お手上げだった。


「これ位出来ればまぁ良いんじゃない? 数学や化学は諦めて大学は文学部か法学部、経済学部に行けば良いだけだわ」


「私もそう思うよ、大学は文学部だね」


どうやらこれでもう終わりで良いみたいだ、ただ解らないのは嫌だからこれからも独学で頑張ろうと思う。



アルバイトは夏休み限定という約束でOKを貰った。


給料は日当で貰える。


朝から夕方までの仕事で2日間に1回という事で許して貰えた。


本来は日給8000円という約束だったのに、何故か1万3千円くれた。


「いやぁ、正直申し上げない、1人で5人分近く働いてくれるのにこれが上限なんだ」と責任者に言われた。


「いや、気にしないで下さい、体が鍛えられてお金が貰えるなんて、それだけで満足です」


「一回に25キロのコンクリート袋6つ運んでくれて、穴を掘らせりゃまるでシャベルだけで、重機使った様に素早く掘るんだからな...夏休みで終わるのが残念だ」


「もし高校が始まっても休みの日に母さんが手伝って良いと言うなら手伝いに来ますね」


「そうか、そうしてくれると助かる」


地味に評価されるのが嬉しい。


貰ったお金は自由にして良いと言われたので全額静流さんに渡し、その中から、3千円は楓にあげて貰う事にした。


本当は楓に5000円そう思っていたら、静流さんに怒られた。


「幾らなんでも中学生にお小遣い上げ過ぎ」だって。


だけど、勉強も教えて貰っているからって言ったら、話し合いの結果3000円になった。


楓は凄く喜んでいた。


俺もその中から楓と同じ様に3000円貰った。


要らないと断ったら...


「学校に行くようになったらお小遣いが必要でしょう」と楓さんが言うので貰う事にした。




勉強が落ち着いたから、ほぼ毎日体を鍛え、家事をしてバイトをしている。


その最中に、ネットを使いこの世界の情報収集をしている。


そんな毎日を繰り返していた。



偶に茜さんに会う事があり、何故かジュースを奢ってくれるのでベンチに座って話をした。


茜さん以外はやはり、余り俺とは話してくれない。



近所の人の話からすると【親や妹に暴力を振るう】最低な男だったみたいだから仕方無いな。



茜さんに相談したら...


「気がついたんなら、もう良いと思うよ! 過去は変えられないから、これから先返して行けば良いんだよ! 家族とは長い付き合い何だからさぁ!」


と真顔で言われた、思ったより熱いタイプだ。


性格も良いし...綺麗だしさぞかしモテるんだろうな、それに凄く親身になって話を聞いてくれる。


偶に妹の京子さんやその友人の久美子さんに手を挙げているが、女冒険者や女騎士が指導している様な物と考えたら仕方ないと思う。



今の所、俺相手に真面に相手してくれるのは、家族の静流さん、楓、茜さん位だ、多分京子さんや久美子さんは嫌々なのだと思う。



街を歩くとスマホで写真を撮られ、ヒソヒソ声で陰口を叩かれる。


ここから頑張って信頼を回復くしないといけない。


俺が写真を撮られると、茜さんが一緒に居る時は「てめー勝手に撮るんじゃねーっ!」と怒ってくれる時がある。


まだまだ、先は長いな... 夏休みもあと1週間で終わる。


そこから先、俺の高校生活が始まる。


考えると、今から不安で仕方ない。


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