第16話 【楓SIDE】 もう怖くないよね
お兄ちゃんは本当に元のお兄ちゃんに戻ってくれた。
それが本当に解った。
今泉京子に川村久美子は私の中学では知らない者はいない不良だ。
久美子ちゃんはまぁ腰巾着みたいなもんだけど、京子ちゃんは違う。
お姉さんに県下最強女ヤンキーと呼ばれている、今泉茜さんがいる。
鬼神姫という大きな暴走族の幹部をやっていて滅茶苦茶怖い。
噂では総長に成れるのに「あっメンドクサイ事は嫌いだから、お前が仕切れ」と自分から辞退。
それだけなら解るが、気に入らないと現総長を平気でボコる。
今の鬼神姫の総長の前歯が無いのは口答えした総長を茜さんがボコった際に折ったなんて話もある。
京子ちゃんはその妹って事もあって実質中学を牛耳っている感じだ。
私の中学に不良は京子ちゃんと久美子ちゃん以外は居ない。
何故なら、京子ちゃんと揉めた時に茜さんが出てきて全部血祭りにした。
だから、うちの中学には男子も含め、不良は京子ちゃんと久美子ちゃんしか居ない。
その為やりたい放題だ。
先生も、京子ちゃんが絡むと弱腰で何か相談しても相手にしてくれない。
茜さんは高校で体育教師を跳ねたという話もある。
それは冗談ではなく本当の事で、下半身不随で辞めた柔道の有段者の体育教師がいた。
しかも、警察に訴えたくても実家にまで大勢のヤンキーが毎晩来ていたから、被害届けも出していない。
その先生には奥さんも子供もいたから、諦めるしかなかったんだと思う。
そんな、京子ちゃんの白羽の矢が私に当たった。
多分、誰でも良かったんだと思う、お金を何時でも貰えるATMが欲しかった。
そんな所だ。
夏休みなのにいきなり公園に呼び出された。
しかも15分以内にこないとボコるっていう乱暴な電話だ。
今迄京子ちゃんや久美子ちゃんと接点は無い。
だけど、もし行かなかったら...夏休み明けから地獄が始まる。
私はお兄ちゃんが虐められていたのを見た。
ああなったらもうお仕舞だ。
絶対に耐えられない...
行かないという選択肢は無かった。
行ってからは最早恐怖しかなかった。
「お前、何すましているんだよ?」
「なぁ、凄く迷惑かけている事が解らないのか?...あん?」
「そうそう、だから私達に税金納めてくれないかな?」
京子ちゃんと久美子ちゃん以外に最も恐ろしい人がいた。
茜さんだ...
「私、別に京子ちゃん達に迷惑かけたこと無いよ...」
「楓のお兄さんが迷惑かけているんだよ」
「お兄ちゃんは京子ちゃんには関係ないでしょう?」
「そうだけど? だけどクラスメイトが豚を飼って居るから凄く迷惑なんだよね」」
「あんたの知り合いだから、飼育係の友達って事で、妹が嫌な思いしているから、迷惑料頂戴」
「払えよなぁ」
お兄ちゃんが走って来ている。
嘘、助けにきてくれたの?
だけど、不味いよ...お兄ちゃんが来たからってどうしようもないよ。
「家の妹が何か迷惑掛けたのかな?」
「お兄ちゃん...」
「相変わらずキモイな、本当に豚みたいだ、ほら見ろ、こんな奴見せられたら凄く迷惑だってーの」
「...おい、此奴が、天城翼なのか?」
「そうですよ、本当にキモイですよね、茜さん」
ほら、一緒に絡まれるだけだって。
「すみません、確かに俺は見苦しいかも知れません、腹が立つなら俺は幾ら文句言われても構いません、だが妹は関係ないので許して貰えませんか?」
お兄ちゃん、凄いな。
怖がらないで冷静に話しているよ。
茜さんが怖いのはお兄ちゃんだって知っているよね。
「うふっ、なに言っているんですか? 貴方が見苦しい訳無いじゃ無いですか~凄く凛々しく見えますよ」
「茜さん、なに言っているんですか? 此奴は天城翼...オークマンですよ」
「豚みたいで性格まで悪いっ」
「京子、久美子、ちょっと黙れ! あっ 翼さん、私何時もは怒鳴ったりしないんですよ? 誤解しないで下さいね...だけどよそ様の子に手をだしたから怒っているだけですからね...楓ちゃんだっけ? もう大丈夫だから、もし京子や久美子に何かされたら言ってね、こいつ等どつくから」
「お姉ちゃん」
「茜さん」
「うちの妹たちって、ちょっとやんちゃで困って居るんですよ? 姉として本当に困っちゃうんですよね、もう馬鹿させませんので安心して下さいね翼さんに楓ちゃん」
何だか私もお兄ちゃんそっちのけで何だか揉めている。
しかも可笑しな事に茜さんがまるで猫を被った様に笑みを浮かべながらお兄ちゃんに話している。
元の話を知らないお兄ちゃんは、茜さんに感謝の言葉を言っていた。
「何だかスミマセン、仲裁に入って貰って」
「いえ、良いんですよ、家の妹たちが馬鹿やってたのを止めただけですから」
「本当に困っていたんですよ、妹が困っていたから仲裁に入った物の、相手は女の子...どうして良いか解らなくて、本当に助かりました」
「女の子?」
「相手が男だったら拳で語り合えば良い...だけど綺麗な女性にそんな事は出来ないから、本当に仲裁してくれて助かりました」
「綺麗って、俺..じゃない私の事ですか?」
「その金髪染めているのかな? 凄く長くて風になびいていてキラキラして凄く綺麗ですよね、それに凄く痩せていてスレンダーって言うんですか? スタイルも素晴らしくて、天使みたいですね」
お兄ちゃん怖くないの?
しかも、昔ならいざ知らず、お兄ちゃんそんな事がなんで言えるの?
そんな気の利いた事...思えば最近は言えていたよね。
「そうですか? 翼さんみたいな人に、そんな事言われたら困っちゃいます...」
「それじゃ、これで妹と一緒に行って良いですか? 名残惜しいですが、そろそろ家に帰らないと」
「私も残念ですが...こいつ等にはキッチリ言っておきますから、安心して下さい」
「それじゃ、これで行きますね、有難うございました...ほら楓もお礼」
「ありがとう」
「あっそうだ、私、今泉茜って言います」
「茜さんですか、本当にありがとうございました」
正直何がなんだか解らない...茜さんが何だか優しそうに話している。
しかも、気のせいかお兄ちゃんに気がある様に見えるのは気のせいだろうか?
茜さんは面食いで有名だ。
間違ってもお兄ちゃんは対象にならないだろう。
だけど、もっと可笑しいのはお兄ちゃんだ。
紫の特攻服きて、バリバリのレディースの恰好をした茜さん相手に怖がらないで普通に話すなんて、信じられない。
これが、虐めで登校拒否したお兄ちゃん...変わり過ぎだと思うな。
茜さん見て怯えないなら...もう虐めなんて怖くないよね。
その日の夜、京子ちゃんと久美子ちゃんから連絡があり、どうしても逢いたいとりんねで連絡があった。
また何かされるのかと警戒して居たら..直ぐに電話が掛かってきて...
「お願いします、もう絶対に虐めないし、何かあったら逆に守るから助けて、そうじゃ無いと私、お姉ちゃんに殺されちゃう」
仕方ないから次の日に会う事にした。
「来てくれてありがとう、本当に今迄ごめんね」
「私もごめん」
今迄なんて何もされていないし、偶々同じクラスだっただけで付き合いなんて無かったよね?
だから、【京子さん】て呼ばなくちゃいけないのか【京子ちゃん】で良いのか悩んでた位だよ。
「余り、京子ちゃんとの付き合いは無かったじゃない? 酷い事もされていないから謝る必要もないと思う」
「そうだね、それじゃ取り敢えず、昨日の事はご免ね」
「私もごめん、ゆるしてね」
「それはもう良いよ、もう終わった事だし」
京子ちゃんも久美子ちゃんも頬っぺたが凄い腫れているから...
何か言えないよ、多分凄くビンタされたんだと思う。
「良かった、それじゃお願いがあるんだけど良い?」
「まさか、お金とか言わないよね?」
「そんな事言わないよ...あのオーク、じゃ無かった、翼さんは恋人とか居るのかな?」
一瞬お母さんって出そうになったけど、あれは違うよね、多分。
「居ないと思う」
「良かった...これからも又翼さんの事教えて」
「助かった、彼女が居たら茜さんまたブチ切れそうだし」
「何で」
「それは言えないけど、まぁ情報お願い」
「頼んます」
「別に良いけど...」
「「それじゃ、これから頼むね」」
二人は笑顔で去っていったけど...正直何がなんだか解らない。
お兄ちゃんを茜さんが好きになった...そんな訳無いよね。
茜さん、面食いだし。
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