第14話 妹を助ける

取り敢えず、静流さんや楓には黙ってリハビリをしなくちゃいけない。


リハビリは体じゃなくて頭だ。


どうも、翼の知識というのがあてにならない。


だから、外出をしながら、この世界の常識を覚えないといけない。


流石に外に出る事までは心配されない。


「それじゃ、行ってきます」


「行ってらっしゃい翼」


「行ってらっしゃいお兄ちゃん」



ただこれだけの事で2人とも嬉しそうだ。


天城翼は本当に酷い奴だったんだと心底思う。


多分、挨拶も真面にしない奴だったんだろう。



実際に近所で挨拶したら訝しむ人や小言をいう人ばかりだ。



「おはようございます」


「ああっおはよう、余りお母さんを悲しませちゃ駄目よ」


「はい、気をつけます...」


「そうそう、人間素直にならないと」


「はい」




「おはようございます」


「はい、おはよう...何だ天城の子倅か..今日は外に出るのな、あまり家族を泣かせちゃいかんよ」


「はい、気をつけます」


多分、これはまだ良い方だと思う。


本当に嫌いなら多分無視される筈だ。


ここから挽回するしかないな。



やる事は凄く多い。


その中で急務なのはやはり、頭だ。


昨日、早速楓に勉強を見て貰ったら落ち込むしか無かった。


楓は物持ちが良くて、小学生の教科書や中学生の教科書が揃っていた。


この世界の学問は前の世界とは比べ物にならない位難しい。


6年+3年+3年、小学校、中学校、高校とこの辺りまでは殆どの人間が勉強するそうだ。


本当に勉強をしない人間でも6年+3年、中学までは義務教育といい、どんな貧しくても受ける権利がある。


話を聞いて信じられなかった。


前の世界では貴族でもない限り学校なんて通わない。


しかも学校って事なら貴族や王族でも3年しか通わない。


12年なんて勉強はそれこそ、アカデミー等、一生学問につく事が無ければしない。


この世界の学問は凄く奥が深い。



貴族としてのマナーや、領地の勉強や、騎士になる為の法律...何も役に立たない。


楓に言われてしまった。


「お兄ちゃん、やっぱり、脳に障害があるのかも知れないよ? 小学生の低学年の問題も解らないし、首相の名前も解らない...徳川家康も解らないんじゃ、そうとしか考えられない」


「確かに、そうかもしれない、混乱しているんだ、ただこれは静流さんには内緒にしてくれないか?」


「どうして?」


「これ以上心配を掛けたくないんだ」


「それは解るけど...」


「それじゃ10日間、10日間だけ猶予をくれ」


「解ったよ」


楓を拝み倒して、10日間の猶予を貰った。


小学校の6年生までの教科書や参考書は楓が貸してくれたから死ぬ気で勉強するしかないだろう。




色々考えながら、歩いて15分。


目的のジムがあった。


本格的なジムではなく、トレーニング機器だけがあり、勝手に使って良いというシステムだった。


トレーナーも予約しないとつかないで、離れた事務所にいる。


説明書きが貼ってあり、読んで見たが何か物足りない。


余り、これじゃ体が鍛えられない気がしたので、簡単に一通り見た後に見送る事にした。



そのまま歩いているとビルを作っている工事現場があり「土木作業員募集」の看板があった。


少し見ていると、重い物の移動等、案外体を使う仕事みたいだ。


体を鍛えるならこちらの方が良いかも知れない。


少し話を聞いたら、募集をしているそうだ。


「まぁ、人手不足だから募集は何時もしているけど、学生なら親御さんの許可が必要だよ」


そう言うので、募集チラシを貰った。


買い物もして見たくて、コンビニでジュースと肉まんを試しに買ってみた。


お金を払う時に、店員をみたら...凄い美人だ。


あれっ...嘘だろう、この世界には【美人】しか居ないのか...


騎士の時の癖で顔を極力見ない癖がある。


貴族や目上の者を見ることを俺の世界では【尊顔】と言い余り行ってはいけない。


その為、家族以外は極力顔を見ないで胸元から上、喉辺りを見ていた。


だが、この世界では【しっかり顔を見て話すのが礼儀】と楓に言われたから、今日は普通に見ていたら...


男は普通に不細工な存在も居るのに...女性には美しくない女性は居なかった。


流石に年寄りは別だが、それでも品が漂っている。


目にした女性で、ジョセフィーナ姫より劣る様な女性は殆ど居なかった。


【これが、天城翼の世界】まるで女神の如き女性しか居ない世界。


前の世界で、この世の何処かにピーチ国という天女が住む場所があると言う伝承があるが、正に此処がそうだったのかも知れない。


公園で座りベンチに座り、肉まんを食べながらジュースを飲みながら辺りを見た。


やはり、そうなんだと痛感した。


子供を連れて歩くお母さん、仕事の途中なのか急ぎ足のお姉さん、掃除をしている女性...全てが美しかった。


これだけ居れば、もしかしたら一人位は俺の事を好きになってくれる...訳は無いな。


俺を見ると驚いた顔で足を止める位だ。



【通行人SIDE】



「あの子、凄い美形...うっ子供がいなければ」


「あれって、ハーフなのかな? 凄く綺麗...眼福だわ」


「きっとあれだけのイケメンだもん、彼女位いるよね」





そしてヒソヒソと何か話している。


多分悪口だろう。





暫く公園で休んでいると...楓が他の女の子と一緒に歩いていた。


声を掛けようと思ったが、嫌われている可能性もある...止めた方が良いだろう。


楓の他に三人いるがどうも様子がおかしい。


全員、凄く可愛いが...なんか様子が可笑しい。



「お前、何すましているんだよ?」


「なぁ、凄く迷惑かけている事が解らないのか?...あん?」


「そうそう、だから私達に税金納めてくれないかな?」



まさかトラブルなのか?


俺は木に隠れて様子を見ることにした。



「私、別に京子ちゃん達に迷惑かけたこと無いよ...」



「楓のお兄さんが迷惑かけているんだよ」


「お兄ちゃんは京子ちゃんには関係ないでしょう?」



「そうだけど? だけどクラスメイトが豚を飼って居るから凄く迷惑なんだよね」」


「あんたの知り合いだから、飼育係の友達って事で、妹が嫌な思いしているから、迷惑料頂戴」


「払えよなぁ」



これは明らかに虐めだ。


しかも俺が原因。


すぐに飛び出した。



「家の妹が何か迷惑掛けたのかな?」


「お兄ちゃん...」




「相変わらずキモイな、本当に豚みたいだ、ほら見ろ、こんな奴見せられたら凄く迷惑だってーの」


「...おい、此奴が、天城翼なのか?」


「そうですよ、本当にキモイですよね、茜さん」



《お前等...黙れよ、喋ったら殺すかんな?》


《姉ちゃん?》


《茜さん?》



困った、男ならぶん殴って黙らせれば良い。


だが、俺は犯罪者で無いなら女には手を出したくない【女には優しく】そう家族から教わったから。



「すみません、確かに俺は見苦しいかも知れません、腹が立つなら俺は幾ら文句言われても構いません、だが妹は関係ないので許して貰えませんか?」



「うふっ、なに言っているんですか? 貴方が見苦しい訳無いじゃ無いですか~凄く凛々しく見えますよ」


「茜さん、なに言っているんですか? 此奴は天城翼...オークマンですよ」


「豚みたいで性格まで悪いっ」




「京子、久美子、ちょっと黙れ! あっ 翼さん、私何時もは怒鳴ったりしないんですよ? 誤解しないで下さいね...だけどよそ様の子に手をだしたから怒っているだけですからね...楓ちゃんだっけ? もう大丈夫だから、もし京子や久美子に何かされたら言ってね、こいつ等どつくから」



「お姉ちゃん」


「茜さん」


《わたし...だ.ま.れって言ったよな?》


《...》


《...》



「うちの妹たちって、ちょっとやんちゃで困って居るんですよ? 姉として本当に困っちゃうんですよね、もう馬鹿させませんので安心して下さいね翼さんに楓ちゃん」



「何だかスミマセン、仲裁に入って貰って」



「いえ、良いんですよ、家の妹たちが馬鹿やってたのを止めただけですから」


「本当に困っていたんですよ、妹が困っていたから仲裁に入った物の、相手は女の子...どうして良いか解らなくて、本当に助かりました」


「女の子?」



《キメー》


《豚、マジキメー》


《黙れって言ったよな》



「相手が男だったら拳で語り合えば良い...だけど綺麗な女性にそんな事は出来ないから、本当に仲裁してくれて助かりました」


「綺麗って、俺..じゃない私の事ですか?」


「その金髪染めているのかな? 凄く長くて風になびいていてキラキラして凄く綺麗ですよね、それに凄く痩せていてスレンダーって言うんですか? スタイルも素晴らしくて、天使みたいですね」


《ぷっ、あたっているな、確かにお姉ちゃんは天使》


《うん、レディースの血みどろ天使》


《お前等...まじ殺す》



「そうですか? 翼さんみたいな人に、そんな事言われたら困っちゃいます...」


《これの何処がオークマン、豚野郎なんだよ、大方喧嘩にでも負けた男が腹いせに流した噂かなんかじゃねーのか? どう見ても王子様キャラだろうが...お前等のせいでマイナススタートじゃねーか...本当に使えねー、マジムカつくわ...まさか私の好み知っててやってんのかよ》



「それじゃ、これで妹と一緒に行って良いですか? 名残惜しいですが、そろそろ家に帰らないと」



「私も残念ですが...こいつ等にはキッチリ言っておきますから、安心して下さい」



「それじゃ、これで行きますね、有難うございました...ほら楓もお礼」


「ありがとう」


「あっそうだ、私、今泉茜って言います」


「茜さんですか、本当にありがとうございました」




茜さんか、一緒になって楓を虐めるのかと思ったけど仲裁に入ってくれるつもりだったんだ。


本当にかっこ良くて良い人だな。




【茜の家】



「おい、京子ふざけんなよ!何がオークマンだよ」


私は今無性に腹が立っている。


嘘をつかれるのが本当に嫌いなんだよ。


だから、妹の友達の久美子も家に連れて来た。


二人には事情を聞かないといけない。


京子の胸倉をつかんで軽くビンタした


「痛い、お姉ちゃん止めてよーーーっ」


「茜さん...なんで京子にビンタするんですか? 何も」


「うるせーよ、何で黙っていたんだよ? 私が男が欲しいって言っていたのに、あんな極上の男の存在をなんで黙っていたんだ、ふざけんなよ」


「「極上の男...?」」



「天城翼さん、言わなきゃわからねーのかよ!」


「お姉ちゃん、あんなのが良いの」


「オークマンですよ」



「誰がオークマンだ...あんっ、翼さんの事そんな風に呼ぶのは私が許さねーっ マジ、今度そんな事言ったら、木刀嫌って程背負わせるかんなーーっ」


「「わ、解りました」」



《まさか、お姉ちゃんがデブ専だったなんて》


《茜さん...マジっすか》


「今後、楓ちゃんを虐めるのも禁止なぁっ...もしやったらジッポで髪の毛焼くかんなっ」


「解りました」


「解りました」


「解れば良いんだ、解ればな」



あんなドストライクの男に出会っちまったらどんな顔していれば良いかわかんねーよ。





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