第13話 一歩踏み出す前。

気を許した途端にこれだ。


「あの静流さんと楓に聞いて貰いたい、お願いがあるんだけど?」


今迄のは伏線だったのかな?


きっと何か欲しい物があって、今迄猫被っていたんだ。


好きな声優のコンサート代金...引き籠りの癖にあれだけは良く行っていたよね。


それともゲーム機。


そう言えば、少し前にVRゲームがやりたいから高級PCが欲しいって言っていたよね。


お母さんはニコニコ笑っている。



「翼、何が欲しいのかな? 言ってくれるかな?」


少しお母さんの顔が暗い顔になった。


「言いずらいんだけど、体を鍛えたい、勉強が全く解らないから勉強がしたい...あと働きたいからバイトして良いか...あと木刀が欲しい」


「それだけ?」


「そうだけど」


お母さんが急に明るくなった。


お兄ちゃん疑って悪かったよ...そうか、確かにお兄ちゃんが立ち直る為には必要だよね。


確かにお兄ちゃんはオークマンってあだ名がつく位のデブだもんね。


隠れて一生懸命筋トレしているけど、それじゃ追いつかないもんね。


勉強だってそうだ、引き籠りのお兄ちゃんには必要かも知れない。


バイトと木刀は解らないけど...


「お兄ちゃん、ちゃんと将来の事考え始めたんだね」


「そうね、そう言う事なら良いわ、相談に乗ってあげるわ...あと翼これ、はい」


「静流さん、これなに?」


「翼の人形や本を売ったお金よ」


何でお兄ちゃん驚いているのかな。




【翼SIDE】


「これがあれを売ったお金なんだ」


「そうよ、あれは翼の物なんだからこれは翼の物よ」


「それじゃ一旦受け取って、はい静流さん」


俺はお金を封筒ごと静流さんに渡した。


「あの翼、それはどういう意味..なのかな」


「どうもこうも無いよ、この金は静流さんにあげるって事」


「翼どうして、貴方の物を売ってきたお金だから、これは翼の物よ」


何となく解かってしまった。


通りすがりに楓の部屋をつい見てしまったら俺のへやと違って凄くシンプルだった。


多分、あれが高価だとするなら、翼が癇癪して無理やり買わせた物の可能性が高い。


「ごめん、俺は記憶が混乱しているから自信がない、だけどあれは俺が無理をして買って貰ったんじゃないのか? だからこのお金は返したい...もし違うなら俺が壊した家具や家電の買い替えの足しにして欲しい」


《正直家は保険金のお金でそこそこ裕福だ、昔と違い私も友達と一緒に会社を立ち上げ副社長として収入も年収で3000万はある。家具をこのままにしていたのは、翼が買っても直ぐに壊す、そう思っていたからだ、まぁ収入があると解かったらあの時の翼は死ぬまでニートで暮らしそうだから【お金がない】事にしていた》



「そう、だったらこのお金は母さんが貰うわ、そうね、このお金に母さんがお金を足してあげるから、家具や家電は買い替えましょう...それでこの件は終わり、翼はこれで家具を弁償したからもう負い目を負わなくて良いわ」


いや、この金は元は静流さんの物だからそれは違う。



「だけど、静流さん、それは」


「この話は終わり、翼偶には母さんの言う事も聞きなさい! 良いわね」


「解ったよ」


元の世界の母様を思い出した...この顔をした女性はまず意見を変えないだろうな。


だから了承するしかない。


「それで、これで翼は働かなくて良くなったと思うんだけど、それでも働くのかな?」


静流さんも楓も女性なんだから、少しは力になりたい。


「静流さんも楓も女性だからね、男は俺だけだだから、養ってあげると言えないのがカッコ悪いけど、少しは力に成りたい」


「そう、気持ちは解った、だけど翼はまだ学生なのよ? 学生の本文は勉強だから...もしその気があるなら、そうね勇気を出して夏休みが終わったら学校に行きなさい...もし無理なら転校に備えて勉強をしなさい、今の翼に仕事があるとしたら学校に通う事だわ」



「お母さん、それはお兄ちゃんには」


「楓、翼は男の子なのよ、何時かは家族を持って守らなくちゃいけない時があるわ、だから必要なのよ」



「解ったよ、とりあえず勉強も頑張るし、夏休みが終わったら学校に絶対に行く、約束するよ」


「そう、なら後は勉強だけね、そうねどの辺りから解らないの」


本当は言いたくないけど...


「すみません...全部です」


「そうね、相当の期間怠けてきた物ね、今まさにそのつけが来たのね」


それは俺では無い...


だが、この世界の勉強は前の世界と比べ物にならない。


「その通りだと思います...すいません」


「反省しているならそれで良し...そうね楓は、凄く頭が良いのよ、楓に中学の部分は教わると良いわ、翼は高校1年生、楓は中学2年生だけど楓は進学校だから充分教えて貰えると思うわ」


「お母さん、それはちょっと」


《中学生に高校生が教わるなんてお兄ちゃんが可哀想すぎるよ》


「大丈夫、楓が教えられる範囲を越えたら私が教えるわ、こう見えても母さん大卒なんだからね」


「楓、静流さん、迷惑かけてごめん、宜しくお願い致します」



「まぁ仕方ないよお兄ちゃん、これから頑張るなら手を貸すよ」


「ありがとう」


静流さんも楓も凄く優しいな、こんな俺に手を貸してくれるなんて。


「後は体を鍛えたいのよね、それなら近くにスポーツクラブのジムがあるわ、確かパンフレットがあるから、そこが良いかな? 凄く安いから今度体験で行ってみたら? もし気に入ったな毎月の会費は母さんが払ってあげる」


「何だか悪い気がする」


「何言っているのかな? 母さん昔の翼に戻ってくれるなら何でもするわよ...これで後は木刀だけよね? そんなに欲しいの? まぁ良いわ、今の翼なら悪用しなさそうだから買ってあげる」


「何だか本当に静流さんにも、楓にも申し訳ない」


「良いのよ、気にしないで」



【静流SIDE】


私も楓も、自己嫌悪に陥った。


「お兄ちゃん、本当に変わろうとしているんだね」


「そうね、最初にお願いがあるって聞いて、母さん疑っちゃったわ、凄く腹がたっちゃった、この数日間凄く良い息子に戻ってくれたのに本当は嘘だったんじゃないかな...欲しい物があるから媚を売っていたんじゃないかなって」


「仕方ないよ、前のお兄ちゃんなら確実にそうだもん」


「だけど、違ったわ、お金を返してきて、未来に歩こうとしている、本当に翼は変わろうとしているんだわ」


「うん、私もそう思うな」


「母さんもう決めたわ、もう二度と翼を疑わないって...」


「そうだよね...頑張ろうとしているんだから疑っちゃだめだよね」


「うん、翼に頑張ってカッコ良くなって貰ってお母さんは絶対にデートして貰おう」



「お母さん...まさか道踏み外したりしないでよね」


「何言っているのかな? 息子とのデートを楽しみにしているだけよ...ほら翼が痩せたら若い頃のお父さんに似ているからね」


「そう、それなら安心だよ」


《ようやく悪夢が終わったのに...今度は私もお母さんも何だか別の事が心配だよ...お兄ちゃん良くなりすぎ!》



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