第10話 謝罪
家に帰ってきた。
見た瞬間から違和感があった。
綺麗に整っている物の...冷蔵庫にへこみや家具は傷だらけだ。
中にはガムテープで止まっている物もある。
静流さんや楓がこれをやったとは考えにくい。
だったら、これをやった人物は1人しか居ない。
俺の記憶の中には【くそ婆】と母親を呼ぶ記憶がある。
妹を【クソガキ】と呼んでいた記憶もある。
なぁ...翼、お前...どうしてだよ...
俺はお前は嫌いだ、だがな心の底から【尊敬】はしていたんだよ。
苦しむ人々の為に剣を振るい、魔王すら倒したお前が...
女子供に手を挙げるクズだったのか?
知っているよ...
ジョセフィーナ姫や聖女様や賢者様以外にお前は醜い奴隷の子も側室に加えた。
そんな慈悲のある男だったんだよな。
皆から汚らわしいと言われた娼婦も敢えて側室にして守ったんだよな。
なぁ...そんなお前が何していたんだよ。
【王とは全ての人間を守るから王なんだ】
【貴族を名乗るならせめて領民位は幸せにして見ろ】
【騎士が振るう剣は人を守るためにある、誰かを傷つける物でない】
お前が言っていたんだぞ...
そんなお前がこれをやったのか?
何がお前を可笑しくした...お前は勇者だった。
入院だって女の子を守って怪我したんだろう...
なぁ...教えてくれよ..なぁ。
気がつくと涙が流れてきた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁーーーっうわぁぁぁぁ」
「翼、貴方がやったんじゃないから、貴方がやったんじゃない、そう、貴方の中に居た悪魔がした事なのよ気にしないで良いわ」
優しく静流さんは抱きしめてくれた。
確かに俺じゃない、翼がやった事だ。
だが、今の俺は【天城翼】だ言い訳はしない。
責任は俺が返さなくちゃいけない。
ひとしきり泣いた後...瞬くして妹の楓が帰ってきた。
「お母さん、そいつが心を入れ替えたって本当」
「ええっお母さんは暫く様子を見てたけど、間違いないわ、優しかった翼に戻ったわ...記憶は混乱しているみたいだけど...」
《あのクズ人間がね...まぁ私はまだ信じられないな》
「あっそう、あんたが本当に心を入れ替えたならまず、やる事があるんじゃないのかな?」
しかし、これが楓、翼の妹なのか?凄く綺麗で可愛い...こんな子の手を挙げたんだ...
やる事は解っている、謝罪だ。
翼の知識の中にある最大の謝罪...土下座だ。
「本当に申し訳なかった」
直ぐに土下座をした。
「へぇー少しは変わったんだね、だけどさぁ...ちょっと」
「翼、もう頭をあげていいわ、ねぇ楓ももう良いでしょう?」
頭をあげる訳にはいかない。
謝罪とは相手が許すまでするのが謝罪だ。
俺は元は騎士だ、間違った事があれば誠意ある謝罪が必要だ。
相手が貴族や王族ならそこに命も含まれるのだ。
やったのは俺じゃない。
天城翼だ...
だが、天城翼は嫌な奴だが恩義はある。
俺や仲間の命を助けてくれた。
そして、世界を救ってくれた。
だったら、俺はこの世界の翼がやった事を代わりに責任位とってやらなくてはいけないだろう。
彼奴が来たから兄さんたち二人は死ななかった。
聖騎士にクルセイダー、翼が来てくれなければ、魔王討伐に加わった筈だ。
そして、場合によっては死んだかもしれない...
ならば、こっちの世界で彼奴がクズでも俺が彼奴の名前を落とす訳にはいかない。
「それって、何のポーズ、そんな事してもあんたは痛くも痒くもないよね、私や母さんみて、痣だらけじゃない」
「ちょっと楓、もう...」
「母さんは黙って、殴られたり蹴られたりしたから、こんな何だよ! 今はこれでもましな方なの、前は顔にまで痣があったんだから!」
そうだよな、只の謝罪じゃ駄目だ...少しは俺も痛い目に遭わないとな。
確か、翼の記憶なら...
「ちょっとあんた逃げる気?」
やっぱり嘘だったんだ、どうせ...えっ!
「お兄ちゃん、そのハンマーでどうするの...ごめんなさいーーーっ」
《嫌だ、死にたくない、こんなクズに...チクショウ...やっぱり此奴は悪魔》
俺はハンマーを振り下ろした。
「お兄ちゃん、何やって...」
「翼、翼いやぁぁぁぁぁぁっ」
「俺が静流さんや楓に酷い事した、それはもう変えられない、これでも反省はしたんだ...楓が俺が痛い思いをする事で気が晴れるなら、俺にはこんな事しか思いつかないんだ」
かなり鍛え込んだから、ハンマー位で殴らないと痛くないしな。
此処までしても本当の所は《手が痛い》その程度だ。
だが認識阻害の影響を受けている彼女達には、もの凄い絵面に見えている。
「赦して貰えるまで何度でも」
再びハンマーを振り上げた。
「お兄ちゃん、もういい、もういいから止めて~私が悪かったから」
「翼っ楓ちゃんも許してくれたわ、だからもうやめて」
「解った...楓は何も悪い事はしてないから謝る必要は無いよ、全部俺が悪いんだから、お兄ちゃんと呼んで貰えて嬉しかった...ありがとう」
「お兄ちゃん、医者にいきなよ...その手」
「大丈夫だから、俺は悪い事していたんだ、この手の痛み位我慢するさ」
「翼、絶対に病院に生きなさい」
「これは駄目だ、けじめみたいな物だから」
少し赤くなっているだけでそこ迄痛くないんだから医者にはいかない。
「本当に頑固ね、解ったわ母さんが手当してあげるわ、その代わり可笑しくなったら絶対に直ぐに医者に行くのよ!解ったわね」
「解った」
《兄妹って本当にズルいな、あんなに暴力振るわれてこれでチャラなんだから、だけど今のお兄ちゃんに言っても仕方ないよね...記憶が混乱して昔の優しいお兄ちゃんに戻っちゃったんだから、ハンマーで殴るならあの時の奴を殴りたい。いまのお兄ちゃんは見た目は豚みたいにデブのままだけど、優しそうな気がする、まさかあんな事までするなんて思わなかったよ...でも戻るなら外見も昔みたいに痩せてくれないかな...》
しかし、この世界は凄いな、魔法石も使わないで火も水も使える。
何よりトイレが凄い、汚物を水で流せて更に尻迄洗うなんて、どうなっているんだ。
そしてテレビだ...なんだこれは人が映って喋っている。
翼の知識としてあったけど実際に見ると感動だ。
暫くして静流さんがご飯を作ってくれた...きれいで優しくて、料理が上手いなんて凄いな、正に理想の女性じゃないかな。
楓もそうだ、料理の手伝いをしている。
「静流さんは料理まで上手いんだ、凄く美味しい」
「お母さん、静流さんってお兄ちゃんどうしたの?」
「それも後で話すわ..」
《よく考えたら...私も楓って呼ばれているよ...あれっ》
「楓が作った卵焼きも凄く美味しい...本当に我が妹ながら可愛いし料理が旨くて、凄いね」
「あははっお世辞は良いよお兄ちゃん...私が不細工なのは自分でも解っているからさぁ」
「そんな事無いよ、楓より綺麗な女性なんて殆どいないと思うよ、兄妹じゃなければプロポーズしかねない」
「お兄ちゃん、私はもう許したから、お世辞は良いよ」
「それも後で話すからね楓」
「俺はお世辞なんて言わないよ、多分俺は世界一幸せで、世界一不幸かもな、こんな綺麗な家族と暮らせる幸せと家族だからプロポーズ出来ないんだから」
静流さんが母親で楓が妹なのが凄く残念だ、こんな美人はそうは居ない。
食事の後は静流さんがお茶を入れてくれた。
俺の家では余りこういう時間を過ごして無いから凄く心地良い。
「翼、病み上がりで疲れたでしょう? 今日はもう休んだら」
「そうだよお兄ちゃん、休んだ方が良いよ」
「そうだね、そうさせて貰おうかな」
俺はそのまま部屋に入った。
勇者天城の部屋か? 少し気になるな...いや期待して裏切られる可能性もある。
何だこれは...呪われているぞ..この部屋は。
明日、起きたら掃除が必要だ。
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