第5話 恋人じゃなかったなんて...

頭の中から声が聞こえる。


目が覚めたら新しい人生が始まる。


その世界で困らない程度の翼の記憶をいれました。


そして貴方と翼は外見が全く違うから、認識阻害の術式を組みました。


今は翼を知っている人からは貴方は翼に見えます...ですがその世界に溶け込み始めたら、徐々に貴方を認識する事になり最終的には翼=貴方と認識するようになります。


これが、私を信仰してくれた、貴方への最後の贈り物です。



《何から何までありがとう、俺は感謝の祈りを捧げた》



目を覚ました。


ローソクでも魔法石が光っている訳では無い、凄く白い光の部屋に居た。


これが翼の記憶にある、蛍光灯の光か、凄いな光が茶色くない、凄く明るい。


まるでライトの魔法が掛かっているみたいだ。



下半身に重さを感じた。更にまるでお漏らしでもしたように濡れていた。


下半身の重みがある部分に目を落とした。



だれだ、この物凄い美人は...俺は頭が可笑しくなったのか?


ジョセフィーナ姫は、恐らく俺が知っている女性で一番美しかった。


そのジョセフィーナ姫より遙かに美しい。


これは幻想としか思えない。


年齢は俺より年上なのは解る。


無防備に寝ているが...綺麗なウェーブの掛かった黒髪に整った顔立ち、目を瞑っているがそれでも女神の様な美しさは隠せない。


そして粗末な服装だが、それでもその美しいボディラインは、まるでラク―ナ様に見える。


これ程、美しい存在がこの世に居たのか?


この方がラク―ナ様の眷属や天使だと言っても信じられる。


それ程までに美しい。



何となく解かってしまった。


翼があそこ迄女性を雑に扱う訳が...この美の化身の様な美女がもしかしたら翼の恋人だったのかも知れない。


此処までの美女と恋仲だったのに引き離されたのか...だから恨んでジョセフィーナ姫に絡んでいたのか?


この方が翼の恋人だとしたら...人を外見で判断してはいけないがジョセフィーナ姫を罵ったのも理解できる。


魔性というのはこの女性の様な女性を言うんだ。


さっきから目が離せない。


女性の寝顔を見るなんて破廉恥な行動なのに目が離せない。



ま.て.よ...この美しい人は俺を心配して布団を濡らす位泣いていた。


そんな人間はだれだ...記憶をたどると、顔は見えない...母親は【くそ婆】って罵っていたから違うな。


母親以外で泣いてくれるような女性...妹がいるけどこの【美しき人】はどう見ても自分より年上だ。


だったら、やっぱり消去法で考えて【恋人】なのか?


翼になると言う事は、この方が恋人になると言う事か?


信じられない...こんな人相手にどう話して良いか解らない。



「うう~ん...えっ翼、目を覚ましたの! 良かった、本当に良かった、凄く、凄く心配したんだから~」


泣きながら俺に抱き着いてきた。


こんなにも心配してくれていたんだな、きっと俺は病気か怪我をしていたんだ。


「心配かけてごめんね」


泣いている女性の髪を撫でてあげた。


「翼?」


俺は顔を近づけてそのまま優しく口づけをした。


「ううん...翼?ちょっとごめんなさい」


美しい人は顔を真っ赤にして走っていってしまった。



息せき切らして白い服を着た男...多分医者を連れて来た。


どうしたんだろうか?


「息子の翼が変なんです...私をまるで恋人の様に抱きしめて..そのキスしてきたんです」



ヤバイ、この綺麗な人が母さんだったのか...何処が【くそ婆】なんだよ、ラク―ナ様以上に綺麗だぞ。


不味いな、本当に気まずい。



「息子さんに彼女は居ましたか」


「引き籠りだったので居ない筈です」


その上目遣いやめて欲しい、やはり俺はセレスなんだ...生物上は母親なのに好きになりそうだ。


「そうですか? あの聞きにくい事ですが子供の頃に母親が好きだったんじゃないですか?」


「幼稚園に上がる前なら【お母さんと結婚する】っていってました」



それ駄目だよ、それは多分本気の告白だぞ...こんなにも美しいんだから子供だって本気になる。



「成程、それでお母さんは何と?」


「【大きくなったらね】そう言ったと思います、いやだ恥ずかしい」


親子で結婚はこの世界でも出来ないんだ...凄く悲しくなるな。



「それで解りました、恐らく事故による意識の混乱です...一時的に子供になってしまったんでしょう?」


「そう言う事ですか? それでそれは治るのでしょうか?」


「目も覚めた事ですし、直ぐに治ると思います」


「そうですか」


「君はどうだ? 少しは落ち着いたかな、記憶に混乱はないか?」


多分母親が解らなかったんだ問題だらけだ。


「何だか少し混乱しています」


「あんな事があったんだ仕方ない...休んでいれば大丈夫だ、深く考えないで」


「はい」




「しかし、翼...本当に大丈夫? まさか母さんにキスするなんて思わなかったわ」


「ごめん...意識が混乱している、だけど母さんが凄く愛おしく思えて、あの時は好きな気持ちが込み上げてきてた...ごめん」


「そうね...もうお父さんもいないけど、残念ね親子は結婚出来ないのよ...うふふっキスなんて何年ぶりかしら、嬉しいわ」


「そういう冗談は止めて...恥ずかしい」


どんなに綺麗でもこれは母さん..恋愛対象じゃない、翼は多分不幸だ。


こんな綺麗な人が親なら他の女性は【ブス】に思えても仕方ない。



「うふふ母さん忘れないわ、こんな素敵なキスなんて...嬉しくて、嬉しくて涙が出ちゃう」


「どうしたの母さん」


「ううん、何でもないわ...でもね翼ちゃんが母さんって呼んでくれて凄く嬉しいのよ? そうだ母さんもお礼をしてあげる、ほらっチュッ...あははっ流石に口にはしてあげれないけど、親子だから頬っぺたで良いならまたしてあげる」


「ごめん、恥ずかしくて母さんの顔見れない」


「そう」


何だか凄く嬉しそうにしている。


こんな素敵な人が母さん...恵まれすぎているな...


だけど、よく見ると手や足に傷がある...俺に父親は居ない...多分俺はこの世界でマザコンになるな。


母さんを怪我させた奴は絶対に赦さない。


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