第3話 【異世界篇】全てを失った日

勇者、天城 翼は凄い男だった。


こんな魔族優勢の状態から2か月で情勢をひっくり返し、そして1年もたたずに、魔王を打ち取り、この世界を平和に導いた。


世界は平和に歓喜した。


そして、今日は勇者天城と教皇を含む各国国王が会い【約束の報奨】を渡す日。


王たちは勇者天城に【魔王を倒したなら望みの物を与える】約束をした。


教皇が音頭をとり、約束の報奨を与える日だ。


「さぁ、勇者よ約束だ、望む物を何でも与えよう」


「ならば、私が望む物は...」





【セレスSIDE】


「すまぬ、セレス、今日王家から正式に婚約の破棄を申し付かった」


俺は3日前に家に帰って来ていた。


あの戦争で僅かな手柄を立てて、その報奨として宮廷騎士に取り立てられた。


そして、爵位も男爵の位を貰った。


はははっ、そう言う事か?


確かにそれなりに戦ったが、此処までの報奨が貰える訳が無い。


事実、俺以上の戦働きをした、兄達も僅かな報奨金だけだった。


宮廷騎士、これは俺が頑張り戦った結晶だ。


だが、男爵の爵位は【ジョセフィーナ姫を諦めろ】多分手切れ金代わりだ。


だが、ジョセフィーナ姫に何があったのか? その理由位は聞いても良いだろう。


「ジョセフィーナ姫の婚約破棄の理由は教えて頂けますか?」


「それは...勇者天城が報奨として望まれたからだ」



よりによってその理由か...


この世界を救ってくれと教皇が頼んだ...


その時に【望みの物を差し出す】そう約束を教皇がした。


その約束の品の中にジョセフィーナ姫が含まれていた、そう言う事だ。


他にも4人程の美しい女性がいたそうだ...


仕方ない...勇者は世界を救った、その世界の報奨だ、しかも俺は勇者に助けられた。


あそこでもし、勇者が来なければ多分此処には居なかっただろう。


頭では納得しても心が納得しない...涙が、止まらなくなる。


「俺は...勇者が嫌いです..ハァハァですが、功績を考えたら...諦めるしかありません..受け入れたとお伝えください」


「すまない、私に力があれば」


「例え父上が王でも今回は無理でしょう...すみません今日は...気分がすぐれません下がらせて頂きます」



一晩じゅう泣いた。


諦めるしかない...解っている。


仕方ないじゃ無いか、相手は勇者だ、この世界を救った男だ。


俺が見た...素晴らしい剣技の持ち主だ。


彼奴なら、きっと俺以上に幸せにしてくれるだろう...


さようならジョセフィーナ...



俺は父に頼み、宮廷騎士への入隊を早めて貰った。


仕事に明け暮れ、剣を振るえば...きっと忘れられるさ。


だが、それこそが間違いだった。


ジョセフィーナ姫と婚約した勇者は聖教国でなく王国で暮らしていた。


だが王宮は広い、そうそう会う事も無いだろう...


そう思った俺は考えが甘かった。


裏庭で俺が休んでいた時だった。


男女の争う声が聞こえてきた。


その声はどう聴いてもジョセフィーナ姫だった。


会いたくない俺は咄嗟に茂みに隠れてしまった。



そこで俺が聞いた物は...


「ブス、俺に触るんじゃねぇよ」


「そんな、私は貴方の妻なのですよ..それなのに..」


「うるせーな、お前とは体だけの関係だ..それ以上でもそれ以下でもない」



此奴は何を言っているんだ? 俺の聞き間違いだよな? 好きだから俺から奪ったんだよな。



「私を望んだのは貴方じゃないですか? 私には婚約者も居たのに..酷い...」


「そうだな、子供を産んだら、婚約者に返してやろうか? そうだ、子供が出来るまでやりまくって妊娠したら婚約者の元に返してやるよ」


「そんな、傷物にして..そんな事を..そんな..」



ジョセフィーナ姫は王族なんだぞ...傷物になった後に他の者と婚姻なんて出来る訳ない...



「うるせーな、どっちにしろ妊娠したら解放してやるから、それまで頑張れよ」


「そんな、貴方は私を愛していないのですか?」


「愛してないな、ただ面が良かったから選んだだけだ..」



これがあの勇者天城なのか? 俺は夢を見ているんじゃないか? 


これは悪夢だ...幸せにしてくれる、きっと俺以上に愛してくれる...そう思ったから諦めたんだぞ..なんだお前



「そんな、貴方が好きなのはやはり聖女様..女魔導士様なのですね..最低です」


「あいつ等か? あいつ等も。同じだぞ、妊娠したらお払い箱だ..お前と同じで愛してない」


「貴方は最低の人ですね...」



見てられなかった。


気がついたら体が勝手に動いていた。



「天城...貴様幾が勇者でも許せない..俺は、俺は心から愛していたんだぁぁぁぁーーーーーっ」


「何だ、お前、そうかお前がジョセフィーナの婚約者か..終わったらこんな女返してやるから、そう怖い顔するなよ..なぁ」


「天城..」


「だから、やるだけやって妊娠したら返してやるって言ってんだろうが..」


「許せない」


「セレス..」


ジョセフィーナの声が聞こえた気がした、だが俺は止まらなかった剣を抜いて天城に斬りかかった。


王城の中で賊が入った訳で無いのに剣を抜いた、俺は死刑確定だろう...せめて一太刀。


だが、天城の手刀の方が俺の剣より速かった。


剣を持ってして素手の人間に負けた...


意識が朦朧として気を失うなか、俺は天城を見た...何故お前は悲しそうな顔をするんだ...


そんな顔する位なら..そして俺は気を失った。





水が落ちる音がする。


ここは何処だろうか..暗いしジメジメしている。


「目を覚まされましたな」


うん、目の前に宮廷騎士団長騎がいる。


「馬鹿な事をしたもんだな」


「解っています、宮廷騎士が任務より感情を優先して、あまつさえ王城内で理由もなく抜剣した覚悟は出来ています」


「そうか」


「本来なら死刑は免れぬ解ってやったんだな」


「はい」


「なら良い、お前がジョセフィーナ姫の婚約者なのは皆が知っている...気持ちは痛いほど解る...勇者が蔑ろにしているのは皆が知っていた事だ」


「なら」


「王でもどうにもできんのだ...天城が望んだのはジョセフィーナ姫であって、婚姻では無い」


意味が解らなかった...


「俺は彼奴を軽蔑しているから、勇者とは此処では呼ばない、王がジョセフィーナ姫には婚約者がいると説明はしたんだ、だが天城は【妊娠した後で良ければ、お前に返す】そういうふざけた事を言ったそうだ」


馬鹿としか言いようがない...俺はそれでも良い。


だが、処女で無いそれだけで嫁いだら肩身が狭いのが貴族社会だ...それが妊娠して他の男の子供まで作ってから嫁いだら、どんな高貴な人間でも...一生日陰者だ。


ジョセフィーナ姫の性格なら多分そうなったら自殺すらしかねない。


もう、どうあってもジョセフィーナ姫が俺の隣にいる未来はない。



「天城は子供が好きなんでしょうか...」


「違う、その子供も自分では育てないそうだぞ」


「狂っている、そうとしか思えない...それで俺の処刑は何時になりますか」



「本来であれば死罪確定だ、何しろセレスお前は理由は兎も角、王城で剣を抜き勇者に向けたんだからな」


「解っています」


「だが、そうはならない」


「何故?」


「今回の事は王も同情的でな、そして何故か天城からも穏便に済ませて欲しいといういう口添えがある」


「あの天城が...」


「ああっ、だからお前は貴族籍を失い、国から追放それだけだ」


「国を追放されたら..結局は野垂れ死にじゃないか..」


「違うな、お前はこの国からのみの追放なので他の国で普通に生活出来るぞ、ご実家から持たせて欲しいとお金も預かっている」


俺はお金と手紙を受け取った。


貰った袋には、贅沢しなければ一生暮らせる金が入っていた。


そして手紙には...


父や兄からのお詫びが書かれていた。



「気持ちは同じ男として痛いほど解る..だが相手は勇者だ、馬鹿な事は考えるなよ、今度こそ死刑だ」


「そして実家に迷惑が掛かる、そういう事だな、俺が去れば問題無いそう言う事ですね」


「気の毒だが、そう言う事だ..馬車で国境まで送るそうだ..ここだけの話だが、今回の裁決採決はお前がこの国に居ては辛いだろうという考えもある」



「そうですか..この裁決に関わった方にお礼を伝えて下さい」


「必ず伝えておく」



こうして俺は全てを失い国から追い出された。




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