第2話 【異世界篇】勇者

俺は剣の名門スタンピート家の三男で騎士の資格を持つ俺は最前線に送られた。


ここは戦場、いかに伯爵家の息子とはいえ特別扱いはされない。


騎士の資格があるとはいえ、此処では一介の新人騎士にしか過ぎない。


毎日の様に寝る間を惜しんで戦うだけだ。


魔族に人数で負けている俺たちは、魔族が引いていくまで戦い続けなければならない。


ただただ剣を振るい、敵を倒し、相手が引いていくのを待つ。


その繰り返し...だがこれはまだ前哨戦にすぎない。


その証拠に、ゴブリンやオークしか出てこない。


恐らく、その後ろにいるオーガが出たあたりからが本当の意味での戦いになる。


そしてそれが出てきた時...俺たちは戦えるのだろうか?


「隊長、あれが出てきた時の対処はあるのですか?」


「セレス...あると思うか?」


「自分にはどうすることもできません」


「同じだ、正直言えば、俺の実力はお前に毛が生えた位だ、他の仲間はお前より劣る...最悪領民に逃げて貰う為に犠牲になるしかない」


「解りました」



もう死ぬしかない無いのかも知れない。


剣に生きる人生、案外あっけないな...


こうなったら意地だ...オーガの5体位は道連れにしてやろう。



俺たちが悲壮感漂う中...呑気な声が聞こえてきた。



「何だか悲壮感だらけだな、辛気臭い...だが俺が来た安心しろ」


そう言いながら、その男はただ一人魔族に向かっていった。


黒髪、黒目、体には白銀の鎧を身につけていたその姿はまるで伝説の勇者その者。


死ぬんじゃないか、そう思ったが...その男が剣を振るたびに魔物は宙に舞った。


凄いなんてものじゃない...その剣技は神業にしか見えなかった。



これは多分生涯俺がどんな努力しても届かない境地...


「美しい」


思わず口から言葉が漏れた。


こんな事が出来る存在...一人しか知らない。


絶望を希望に変える男、天城翼様、勇者様だ。


その強さはただただ見ほれるしかなかった。


剣を振るたびに、あれ程の魔物が倒れていく。


俺達騎士団全員でようやく進行を抑えていた魔物を簡単に倒していく。


そして俺がてこずるオーガもまるでおもちゃの様に破壊していく。



此処までくると最早嫉妬も起きない。


この人は別の存在なんだ...そう思うしかない。


この人こそが世界を救う勇者なんだ...それしか思わなくなった。



「助かった、俺たちは助かったんだ...セレス」


「はい...未だに信じられません」



勇者、天城は全ての魔物を倒した後、軽く手を振ると、こちらには来ないでそのまま走り去って行った。




沢山の騎士からも歓声が上がった。


勇者、天城ありがとう...そう思う反面...


何時か、この人の様になりたい...


俺は心からそう思った。

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