第61話 【閑話】 武器の心

我々の使命は終わった。


勇者と共に数々の敵と戦い、時には守り、時には切り裂き全ての敵を葬ってきた。


そして魔王を倒し使命が終わった。


だが、その後も勇者は常に我らを大切に扱い、常に行動を共にしてくれた。


だが、その勇者も歳をとり死んだ...その後は..一緒に棺に入った。


確かに勇者に殉ずるのは悪くはない..だが、我々は死なない..幾多の時を得て魂を得ている。


感情もある...だが使い手が居ない以上は朽ち果てるしかない..どんなに意思があっても武器は自分では何も出来ない。


魔王が滅んだ世界では..もう我々を必要とする者は居ない..そしていつかは忘れられていくのだろう...


自分達が物である以上は幾ら望んでも他の生涯は選べない..


どの位眠っていたのだろうか?


あれ程光り輝いていた我らが錆びだらけだ..今の我々を見て、聖剣や聖なる盾と解る者は居ないだろう。


使い手が居ない、剣や盾は朽ち果てるしか無い..


だれも気が付いてはくれない..だが我々には意志がある。


意思があるまま朽ちていくのはとてつもなく辛い物があるのだ。



だが、可笑しな事に声が聞こえてきた。


翼なのか? だが、翼にしては力は強くない。


神の加護も持っていない...なのに何処か懐かしい気がする..


まるで、翼が未熟だった時と同じような気がした..


更に探ると..おかしな事に気が付いた。


翼ではない、翼は此処で今死んでいる、なのに翼の様に思える。


全くの別人、なのにどことなく翼に似た気を持っている少年..解らない。


だが、死に掛けている。


そして、何故意思の疎通が出来るのか解らないが..助けを呼ぶ声が聞こえてくるのだ。


助けを求める謎の翼に似た気を持つ少年。


我々が助けない..そんな選択はない..



そして、我々は時空を超え助けに行った。


既に、息絶えていたが問題無い..この位の状態なら、盟友たる盾が元に治してくれるだろう。




《ははは、此奴の声が何故我々に届いたか解ったぞ》


何時もは口数が少ない盾が気分良さそうに話し出した。



《此奴はイシュタリア信徒だ》


だが、そんな理由だけで聖なる我々が呼べるわけが無い..それだけで呼べるなら全員が勇者だ。


《此奴は翼の代替品...翼の存在を埋めるためにこの世界に加わった者、元は我々の世界に居た者》



そうか、此奴は翼の代わりにこの世界に来た者..


《そう、翼の代替に天空院翼になった者》


ならば此奴は翼ではない...


《だが、この世界では翼だ》


ならばどうする...


《どうせ、世界は平和になった、我々はもう要らない存在だ》


ならば未熟な翼を使い手に選んでも問題はないだろう..魔王は居ないのだから..


《朽ち果てる位なら未熟な使い手だろうが..良いだろう》


ならば、此奴を所有者と認めるのに依存は無いな..


《無い..》



平和な世界の天空院翼...


勇者じゃ無い天空院翼...


守りたい者を守るために..我らを使うが良い。




まだ、意思の疎通までは出来ない...


だが...ここまで躊躇がないのか? 人を殺すのに戸惑いが無いのか?


これは...面白い..どんな使い手になるのか..いつか意思が疎通できる日を楽しみにしているぞ。


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