第60話 【閑話】 詰んだ
「これは一体、何でしょうか?」
「翼様、お帰りなさいませ」
「翼さん、お帰りなさい」
「翼くん、ちょっと良いかな?」
可笑しい、何で皆んなが家に居るのかな...解らない。
「翼、ちょっと良いかしら? 彼女達と話す前に母さんお話があるの?」
「まひるからも..あるから」
嫌な感じがする..
恐ろしい、死んだ時以上の恐怖が背中に走った。
母さんとまひるに連れられてリビングに来た。
「母さん、引きこもりだった、貴方に友達が出来たのは嬉しいのよ..だけど、あれは何かしら?」
「さぁ?」
「あのね、先程、それぞれの家から電話があってね..娘を宜しくお願い致しますって、そう言うのよ? どういう事なのかしら?」
「解らないんだけど..」
「本当にそうなの? だけど、二条さんと後藤田さんからね、娘を貰ってくれるって貴方が言ったって言うのよ?」
何か勘違いしてるんじゃ...あっ! まずい、これは不味い..思い出した。
「僕ですか? 皆んなが捨てるって言うなら、僕が貰います...二人とも凄く魅力的な女性ですから!」
言っていた..うん、本当に言っていた..
「母さん、ごめん..言っていた..」
「本当にそうなのね...それで天上さんはね、プロポーズされたって言うのよ?」
プロポーズ?
「貴方の人生が変わってしまっても、僕は傍に居ますから..」
「何を言っているの..」
「僕は心美さんが大好きだと言う事です」
ヤバイヤバイヤバイヤバイ...言っていたよ..
「お兄ちゃん..ここは異世界じゃないんだよ? ハーレムなんて作れないし..沢山の人と結婚したら...重婚になるよ? 犯罪だよ」
「母さん..どうしよう?」
「簡単よ..事実婚にすれば良いわ..うん、これで解決よ」
「それ、不味く無いの?」
「ええっ大丈夫なハズよ..お父さんも賛成だって..」
「お母さん、お父さんは固いからそんな事言わないと思う..お母さんも何か変だよ..」
「だって、お父さん係長から..常務取締役に昇進したのよ」
「どうして..」
「お父さん、直接、翼にお礼を言うって言ってたわよ」
暫くしたら、本当にお父さんから電話が掛かってきた..
「翼ーっ、お前凄いじゃないか? 二条の御嬢さんに気に入られているんだって? しかも、他にも凄い令嬢に気に入られているんだろう? 父さんも応援するから頑張れよ」
可笑しい、あんまり話した事は無いけど...こんな人じゃ無かった..もっと普通の人だった筈だ。
「どうしたの父さん?」
「いやぁ、父さん言わなかったけど、部長から凄く嫌われて.こんな所に飛ばされちゃったんだけどさぁ..昨日、二条家の秘書って人が社長に会ったらしいんだわ..そしたら、社長から直接電話があって..二条権蔵様の知り合いならそう言ってくれと言われてな..昨日づけで常務になっちゃったんだわこれが..」
「そそ、そうなんだ良かったね!」
「ああ、しかも給料は10倍だってさぁ..年収で5000万だって..これからは沢山お小遣いもやるし、欲しい物なんでも買ってあげるからお嬢様に宜しくな..あっ、それじゃ仕事に戻るわ」
「母さんも昨日から、常務婦人よ! 常務婦人、これで近所の同じ会社の人に気なんて使わなくて良いわ..だってお父さんより偉い人なんてもう近所には居ないもの」
「良かったね...」
「お兄ちゃん..大丈夫? まひるはお兄ちゃんの味方だよ、まだお兄ちゃんも学生なんだし、幾ら勇者だってこっちじゃ学生なんだからゆっくり考えれば良いんだよ!」
「そうだよね、まひる、僕はまだ高校生だからゆっくりで良いよね?」
「うん、そうだよ!」
「まひるちゃん、ちょっと良い?」
「何ですか? 生徒会長!」
「まひるちゃんは、推進派、それとも反対派?」
「それって、何ですか?」
「だから、私達が、翼さんと一緒になる..」
「反対、反対、反対..まだ早いと思うよ..」
「そう、これでも?」
「そんな1万円位でお兄ちゃんを売らないよ」
「違います、これは私の味方になってくれた場合の1日の報酬です」
「1日1万円..」
「あら、足りませんわね、絵里香!私達の妹になるかも知れないのよ! これ位付けなきゃね」
「そうですわね麗美様..」
「何かな? この黒いカード? こんなカードなんかいらないよ..」
「それは、ブラックカードですわ..最高レベルのクレカですのよ、それがあれば家だろうが船だろうがなんでも買えますわ」
「....」
「そうだ、更に、二条の系列の南部デパートの外商の権利も付けちゃう..これで、欲しい物は何でも手に入ると思うけど」
「あ..う..」
「で、まひる..お.ね.えちゃ.んって呼ぶ気にならない?」
「あの..」
「おねえちゃん..」
「はぁはぁはぁはぁ...そんな物じゃ、まひるは..お兄ちゃんを裏切らない、の事ですわよ?」
《絵里香、あと一押しですわね》
《はい》
不味い、何だか外堀が全部埋まってしまった気がする..
ちゃんと前向きに...先送りにしないと不味い。
好きか嫌いかと言えば、三人とも嫌いじゃない。
特に、麗美さんと心美さんは一緒に居て凄く楽しい..
前の世界なら、「全員と結婚する」それで良かった。
だけど、この世界ではそれが出来ない..だから先送りするしか無いのだ..
仕方ない...
「皆んな、凄く大好きだよ!」
「翼くん..本当?」
「翼様..麗美は信じていましたよ..当然ですわ」
「私、私..本当ですか? 良かったもう二条には帰れなかったんです..良かった」
なんで母さんやまひるの前で告白しなくちゃならないんだ、正直恥ずかしくて堪らない。
「だけど、僕は学生で皆んなを養うお金も無い..だからもう暫く待って欲しい..一人前になったらちゃんと答えを出すから」
これで良い筈だ..
「翼くん、だったら家の道場の後を継げば良いわ」
「お父様かおじい様に言えば会社の一つや二つ貰えるから問題ありません」
「そんな事しなくて大丈夫ですわ..この間のお仕事のお金を銀行口座に振り込んだっておじい様から聞きましたわ」
嫌な予感がしたんだ..
三人と一緒にATMに来た..
「翼くん、幾ら入っているのかしら?」
「幾らなんですか?」
目が可笑しいのかな?
15億円って見えるんだけど...あと何で僕の口座番号わかるのかな?
こんなの貰えないからから、振り込み人の後藤田さんに電話した。
「気にしないで良い..翼殿のおかげで濡れ手に粟で稼いだお金のその半分だ...それより孫娘を頼む」
「解りました」
「「「それだけあれば問題ない(かしら)(ですわ)(ないよ)」」」
詰んだ、僕にはもう逃げ場はなかった。
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