第59話 最終話 いつか勇者のように

二条院の華子さまと我が孫娘、麗美の怒りは凄かった。


ここまで来たら、もう戦争しかないだろう...儂は正直戦争はしたくない。


勝ったとしても沢山の人が死に...そればかりか沢山の懲役が出る。


だが、もう止まらない...普段は冷静な國本からしてやる気なのだ..儂が止めた所で無理だ。


だが、戦争の準備をしている最中に電話が鳴った。


「組長、煉獄会から電話です」


「ああっ、よくも掛けて来られたもんだ..代われ..」


「へい」





「後藤田、貴様には仁義ってもんはねえのかよ!」


何を言っておるんだ、此奴は、儂の孫を誘拐して、翼まで殺したくせに



「何を言っておるのか知らんが、汚い事に掛けてはそちらが仕掛けてきた事だろうが」



「それは認めよう..だが、物事には限度があるだろうが! 確かにこっちは卑怯な事をした、だがそれは極道の範疇だ」



「孫娘を人質にする事や、その思い人を殺すのが極道の範疇な訳無いだろうが、ボケ、殺すぞ」



「解った。俺が全部悪い、もういい辞めてくれ」


「辞めてくれだ!どの面下げて言うんだ、皆殺しにすんぞ!」


「いい加減辞めてくれ、降伏する、二度と関東には手を出さない..だから、なぁ終わりにしてくれないか..」



可笑しい、こんな弱気じゃない筈だ..


「儂が何かしたって言うのか?」


「しらばっくれるな...地掘腕尾だ、あんな狂犬みたいなテロリスト送り込みやがって..こっちは組員1000人殺されて..後ろ盾の二つ橋家は破産寸前..もう良いだろう、この辺りで勘弁してくれ..何か条件があるなら譲歩する..終わりにしてくれ」



1000人殺した? 二つ橋家が破産した..訳が解らないが、そんな事が出来る人は1人しか知らん。



「あれはうちの孫娘が気に入っておっての..どうじゃ恐ろしいか?」


「あんな化け物、誰だって怖いに決まっている..なぁ..終わらせてくれ」


「そうじゃな、条件次第で考えよう」



「解った、それで条件は?」


「税金の掛らない金で30億....それで手打ちだ」


「そんな金..」


「出来なければ死ぬんだな」


「直ぐに用意する..それで終わりにしてくれるんだな」



何だ、あっさり30億払いやがった、一体何をしたんだ...







「二条権蔵...お前の正体はこれなのか?」


「何を言っているのか知らないが、孫娘を攫ったんだ..ただでは置かぬ!」


儂はまだ何もしてない..きっと後藤田さん辺りが先に動いたんだろう。


だが、この話に乗るべきだ..



「儂はお前に何が起きているかは知らぬ..だが本当の怖さはこれから始まる..思い知るが良い」



「俺は殺されても良い..それなりの事をしたんだ..仕方ない、だが頼む、家族だけ家族だけは助けてくれないか?」



後藤田さん、何したんだ..



「一体、何が起きたんだ、場合によっては止めてやっても良い」



1000人からのヤクザが要塞ごと殺された...関西サンシャインタワービルが破壊された。


これは後藤田さんじゃないな..二つ橋家も終わりじゃ. こんな事できるのは..一人しか知らない..彼奴だ。


この状態に乗らないのは馬鹿がする事だ。


「二条には闇がある..そしてその闇は深い..その闇の怖さが解ったか?」


「嫌と言う程に」


「ならば、お前の財閥を合併吸収してやろう、そうすれば、今度は闇がお前の味方になるかも知れないぞ」


「それは」


「あの事業で失敗したなら、もう後が無いんじゃないのか?..こっちは放って置いても良いんだ、なぁに死にたい人間はそのまま死ねば良い」


「解りました...お願いします」


「うむ..任せておけ」


これは絵里香でも陸子でも与えて二条に迎え入れなければならない、他に等渡せない。






行かない訳には行かないよな...


気が進まないまま僕は二条家に来ていた。


本当なら関東地獄煉獄組の方がアットホームなんだけど、多分此処にいるんだろうな.


「翼様..翼様ではないですか..皆さん心配していたんですよ..さぁこちらにきて顔を見せてあげて下さい」



見つかってしまった..まだ心が定まっていないのに..



「翼ぁーあんた、あんた無事だったんだな..良かった、本当によかった」



いきなり國本さんに抱き着かれた...心配してくれたんだ..いいなぁこういうの?



「國本、私を差し置いて翼様に抱き着くなんて後で覚えてなさい..翼様、麗美は麗美は..信じていました、翼様は絶対に死なないって」



「うん、また会えたね..」


「本当に心配したんです」


「解かっているよ..もう大丈夫だから」


「大丈夫?」


「うん、全部終わったからね...安心して」


「終わったって...えっ終わりましたの?」


「うん」



「翼ちゃん、流石ね無傷で帰ってくるなんて、それに比べてまぁ良いわ...死んだんじゃないかと気が気でなかったのよ..無事で良かったわ」


「絵里香さんは大丈夫でしたか?」


「絵里香? そう絵里香ねあの子なら無事よ...」


「そう、良かった..」


しかし、何で絵里香さんはあそこで隠れているんだ。


「絵里香さん..どうしたの?」


「ごめん.なさい..」


「どうしたの? 何か僕に怒られる事をしたの?」


「役立たずで、足手まといになって、怖がって本当にごめんなさい..」



はじめて人を殺す所を見たんだ、当たり前だ..僕だって初めて見た時はその日の夜はご飯が食べれなかった。


だから僕は頭にポンと手を当てた..これは泣いていた僕にお母さまがしてくれた事だ。


「泣かないの、僕は気にしていないから、怖かったんでしょう? それが普通だよ」



「だけど、私、私、本当に..」


「だったら泣かないでくれるとありがたいな...どうして良いか解らなくなるから..」



《うわぁ..うん凄く優しくて暖かい..なんで私この人が怖かったの..こんなに素敵なのに..》


「うん、解かりました、もう泣きません」


「うん、絵里香さんはやっぱり笑顔の方が可愛いよ..じゃ」


「あっ」




「それじゃ」


「翼様、何処に行くのですか?」


「心美さんが心配していたから、お見舞いと状況を説明しなくちゃ」


あっ、翼様が死んだと思って気がどうてんしていましたわ..心美の事を忘れていましたわ..不味いですわ、凄く気まずいですわ..


「待って下さい、翼様、私も参りますわ」



「私、私も行きます」


「絵里香、貴方..」


「私を助けようとして撃たれたんです..私も行きます」


「少しは真面な顔をするようになりましたわね、今の貴方は嫌いじゃありませんわ」



「直ぐに嫌いになると思いますよ? 今度は負けませんから!」


「いい度胸してますわね? 10年早いですわよ」



「だったら皆んなで行こうか?」


「「はい」」



「待って下さい、今 後藤田組長と権蔵様が来ますから」



「すいません、また今度来ます」


「おじい様には私から伝えますからって伝えて下さい」


「絵里香様、お願いしますよ、私怒られるの嫌ですからね」


「はい、安心して下さい」






「だから、おじい様言った通りだったでしょう?」


「本当に凄いのお、翼殿、何人斬った? 今のお主、更に凄味がましておる..儂が剣聖ならお主は剣神..もはや何をしても勝てる気がせん」


「おじい様、冗談は辞めて欲しいのだけど..」


「まぁ、そういう事にしておくかの」



「麗美様、あれ全部本当だったんですね..凄いですわ、翼さん! だからあんな事が出来たんですね」


「怖がっていたのは誰かしら?」


「ええっ確かに、だけど、もう怖くはありません」




「なんだか、お見舞いに来てくれたのに仲間外れにされている気がするのは何故かしら?」


「そんなことありませんわ..感謝していますわ」


「迷惑かけてごめんなさい..」



「いいわ、役に立ってないから」




僕は此処でこっそりとダメもとで体の中の「盾にお願いをしてみた」 心美さんの足が治るようにと..


手が薄っすらと緑に輝いた気がした。


多分、これで触れと言う事なのだろう..


「翼くん、私の足が好きなの?」



「ちょっと翼様、触るならそんな筋肉女の足より、私の足の方が良いですわよ!」


「絵里香も足なら自信があります」




勇者って凄いな...劣化版とはいえ、聖女の回復の力迄盾があれば使えるのか..


「翼殿..もしや気を使ったのか?」


「ええっ多分、もう大丈夫なはずです」



「翼くん 何を言っているのかしら?」


「心美さん、ちょっと立ってみてくれる?」


「私、まだ、立てないわ..」


「大丈夫、心美さんなら」


「そこまで言うなら、転んでも頑張るわ」



あれっ、可笑しいな..何故か痛くない..


しかも、力が普通にはいる..可笑しいわ。


「翼くん、普通に立てるわ..痛くないの..」


「良かった..それじゃ歩いてみて..」


「えっ、流石にそれは..無理だと思うわ..嘘歩けるわ..何で!」


「多分、走っても跳ねても大丈夫だと思う..」



「そうみたい..もしかして治っているの?」


「多分..」



「ちょっと心美、なんで服を脱ごうとしていますの..翼様が居ますのに..」


「ごめん、外に出てます」


「居てもいいのよ?」




僕はすぐさま、病室から外に出た。





「可笑しいわ..お腹の傷も足の傷も無いわ」


「心美、まさか仮病でしたの?」


「そんな訳無いじゃない? 私入院しているのよ?」


「それは気の応用じゃな..だが、此処まで使える人間なんて他には居ないし、過去にも聞いた事が無い..」



「治ったようだね、良かった、本当に」


「翼くん、ありがとう」


何で私って此処で止まっちゃうのよ、言いたい事があるのに..


「どういたしまして」



「翼殿? お主は何者じゃ? 本当に剣神..な訳はあるまい」



「僕ですか?」


何といえば良いのかな...



「天空院翼、勇者の名前を貰った、勇者に成りたい男です」



「「「「勇者になりたいって」」」」



「あはははっ、家族が心配しているから..帰りますね」


「ちょっと、詳しく教えなさい!」


「翼様、詳しく教えて下さい」


「だから凄かったんですわね」



「勇者かの..翼殿なら名乗っても問題ないじゃろうな? 詳しく教えてくれぬかの?」



「ま~たね~!」


「ちょと待ちなさい..私、伝えたい事があるの!」



僕は病室を飛び出し家に帰った。






「嘘、翼なの..死んだと聞いていたから母さん、心配したのよ」


泣いていたんだと思う..


「ごめんなさい」


「無事なら良いわ、疲れたでしょう、詳しい事は休んでからで良いわ」


「本当にごめんなさい」



「お兄ちゃんお帰り」


「ただいま、まひる!」



「そういえば、まひる、貴方..お兄ちゃんは大丈夫って言っていたけど何でそう思ったの」



「だって、お兄ちゃんは勇者だもん、死ぬわけ無いよ! そうだよねお兄ちゃん!」



えっ、何でまひるは知っているんだ?



やっぱりね、見てれば解るよ...だけど、ますますカッコ良くなってるし..前よりも更に..兄妹なんだから気が付くのは当たり前だよ..



「それは」



「言わなくて良いよ..まひるはちゃんと知っているから..」



「そう..」


「うん、今はお休み..お兄ちゃん」



お兄ちゃんは勇者だから、またきっと世界の平和の為に戦う日が来るかも知れない。


だから、平和な時には楽しく過ごして欲しい..



「うん、流石に疲れた...今はとりあえず、眠らせてもらうよ」



「お疲れ様、お兄ちゃん」



僕は2階にあがるとベットに潜った。



脳みそまで吹き飛ばされた僕は前と同じ僕なのか..


何故、僕に勇者の象徴の聖剣と聖なる盾が力を貸してくれたのか?


今は解らない..だけどまた命を貰った..


僕の名前は、天空院翼..本物の勇者のように..この名前を輝かして見せる。


それこそが、世界を救ってくれた君への恩返しになる..そう思うから




FIN



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