第57話 翼がいない日
翼くんが出ていった後..言っていた意味が解かった。
もう、私は..剣道が出来ない体になってしまっていた。
だけど、可笑しいわ..何故か悲しくない..
私は死ぬ程、剣道が好きだったはずだわ..なのに何故か悲しくない..
友達が誘拐されて銃で撃たれて入院しているのに悲しくない...
友達の事は翼くんに任せておけば大丈夫だわ..多分、相手は大怪我するんじゃないかしら...
何故、私が悲しくないか、私は解かってしまったわ。
それは、今の私にとっての一番は剣道じゃないからだわ。
私の一番は翼くんになってしまったから...悲しくないわ。
少し、残念に感じるだけだわ..
だけど、だけどね
「貴方の人生が変わってしまっても、僕は傍に居ますから..」
「何を言っているの..」
「僕は心美さんが大好きだと言う事です」
あの時は、気が動転していてさらって流しちゃったけど..
これってプロポーズよね...違うのかしら
「凄く嬉しい..だけど今はそれどころじゃないわ」
本当に馬鹿だわ..何故こんな事言っちゃったのよ..
普通はここで「愛してる」か「私も大好き、だから一生傍に居てね」そう言うべきだったのに...
本当に私って馬鹿だわ、千載一遇(?)のチャンスを逃すなんて..
だけど、あのタイミングで言う翼くんも悪いと思うの? そうよね...
本当に私って現金だわね...もう足が真面に動かないのに、剣道も出来なくなったのに..嬉しくて仕方ないんだから。
翼くんなら、多分簡単に解決してくるわね..銃なんてきかないわ...だって剣聖より強いんだから..
帰ってきたら、今度は私からいうわ..
「本当に傍に居てくれる?..本当に大好きって」
もし、受け入れてくれるなら、これから剣道の代わりに、料理や裁縫を勉強しようかしら?
お弁当とか作るのも悪く無いわね...
だが、心美は知らない...もう翼は何処にもいない事を..死んでしまった事を..
ご家族を死なせてしまった、この報告は私がするべきですわ。
おじい様と一緒に、天空院家にきています。
「麗美さん、冗談は辞めて下さい、お兄ちゃんが死ぬハズないじゃないですか?」
「それは..本当なのでしょうか?」
今にも泣き崩れそうな母親に対してまひるは笑っていた。
だから、私はまひるにも解るように事細かに話した。
翼様のお母さまは泣き出してしまい涙が止まらなくなっていた。
だけど、それでも、「貴方は何も悪く無いわ」と小さな声で答えると奥に行ってしまった。
だが、それでも、まひるは笑っていた。
《これでも妹なの?》
「翼様が死んだのよ..貴方は悲しく無いの?」
「うん、だって死ぬハズないもん、麗美さんは死ぬ所を見たの?見てないよね? だったら解らないよ..だからお兄ちゃんが、本当に死んだそれが解るまで私は信じないもん..だからまだ謝らないで良いよ」
甘いな、うん、麗美さんは甘い!
お兄ちゃんは勇者なんだよ!たかがヤクザに何か殺せる訳がないよ?
相手が魔王かドラゴンじゃなくちゃ無理だって..
「そうよね、まだ解らないわね、翼様ですもの、案外逃げているかも知れませんわね..ごめんなさい」
だけど、生きているなら帰ってきますわ..此処にも居ないって事はもう死んでいますわ...何よりいかな達人であろうとあの状態で助かる訳はありません。
「うん、大丈夫だって」
まひるは勘違いをしている。
確かに、天空院翼、いやセレナ、トリスタンは強い..だが、勇者じゃない...ただの人間の強者だ。
戦い方次第では殺せるのだ....そして、翼はもう既に死んでいる事を..知らない。
「関西連合煉獄会もしくは二つ橋家から連絡は?」
「組長、それが可笑しな事にまだどちらからも連絡はありません」
可笑しい、麗美の話では翼殿は何人も相手を殺した。
巧妙なあいつ等の事だ、ヒットマンを我々が送り込んだ、そういうねつ造をする筈だ。
それで、こっちに攻めてくる大義名分にする筈だ。
なのに、何も無い...
しかも水面下でも何も動いて無い...
親しい他の団体に動きがあったら教えて欲しいと頼んでおいたが何も連絡が無い..
何が起こっているんだ...
「國本、これは様子見を送る必要があるかも知れないぞ...人選をしてくれ」
「確かに、可笑しすぎます..こっちから探りの電話を入れてみますか?」
「いや、要らない..直接見に行った方が良い..」
「それでは人を集めておきます」
不気味な程に何も起きない一日が終わった。
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