第56話 女の戦い
「歩きなさい..」
「もう歩けない..」
「そう、だったら死ぬのね」
「麗美様、そんな、なんで..」
「私は貴方を置いていくから、歩けないなら捕まって犯されてから死ぬと良いですわ..さようなら」
「なんで..そんな、なんで」
「今の私の命は軽くない..翼様が命と引き換えに救ってくれた命なのです..だから貴方如きの命とは釣り合わない」
「見捨てるのですか?」
「そうしたく無いから歩きなさい! 私はこれから戻って説得しなければなりません、ついて来れないなら置いていきますわ」
「なんの説得..」
「決まっていますわ...あいつ等と戦争して皆殺しにする、説得ですわ..関わった者は皆殺しですわ..それこそ赤子だって子供だって皆殺し..翼様の命はこの地球より重い..」
「あの..」
「何かしら? 足手まといになるなら置いていきます」
役立たずを引っ張りながらようやく通りに出ましたわ。
だけど、まだ安心できません..ここは人通りが少ないですから...
「お嬢ーっ」
「國本!」
「お前がどうして此処にいるのですか?」
「翼..殿が飛び出ていかれたからもしやと思いここに来ました」
パーンっ
「お嬢、いきなり..」
「遅い、遅い、遅いのですわ..翼様はもう...居ません」
「お嬢?」
「直ぐに車を出しなさい..良いから直ぐに」
「はい..」
お嬢の様子を見れば何があったか解る。
本当にやりやがったんだ..一人で..そして、「居ない」と言う事は死んだのだろう..
「男の中の男」って言うのはこう言う奴を言うんだろうな..
ヤクザの中では良く言う言葉だ...だがな、今はそんな奴いねーよ...
その証拠に、あれだけお嬢と慕いながらも結局、アンタしか動かなかったんだからな..
俺も歳をとったもんだ..結局、此処に来ることしか出来なかった。
アンタはスゲーよ....偏屈な組長が何時もアンタの事を話すと褒めていた。
お嬢も一緒..俺だってよ仲間と思って居たんだぜ....
だからよ、アンタの敵は俺が、取れねーな..だけど仕返し位はしてやるよ..それで勘弁してくれ。
「絵里香様と麗美様..ご無事で何よりで..」
「煩い、死ぬと良いのですわ」
「....」
「足手まとい、さっさとあっちに行きなさい」
「麗美様、いくら何でも当家のお嬢様にその態度は..」
「なぁ、おっさん! お嬢も俺も今凄く気分が悪い...そのガキを連れてさっさと引っ込んでくれないか?」
「なぁ..」
「何だ」
「はい、お嬢様さぁ行きましょう..」
「...うん、うっうっうっうわぁーん」
「これでも本当に二条ですの? 捨て子じゃないのかしら...絵里香、私、貴方が大嫌いになりましたわ、これからは赤の他人ですわ、友達でもなんでもありません」
「何で、わたわた私...」
「絵里香みたいなゴミに関わった為に大切な者を失いましたわ..貴方を見ていると殺し.. いえ、あんたみたいなクズでも翼様が命がけで救った命です...殺すとは言えませんわね..」
「私は私は私は...」
「もう喋る気はありませんわ」
これは八つ当たりなのは解かっていますわ..あの時、この子を見捨てていれば、翼様は死ななかった。
助けに来てくれた時もこの子をが居なければ、翼様は死ななかったかも知れない..どうしてもそう考えてしまう。
だけど、そんな事はない..例え捕まったのがこの子だけでも翼様は助けに行ったでしょうね...
「麗美ちゃん、絵里香ちゃんお帰りなさい..それで翼ちゃんは居ないの?」
絵里香じゃ何も話せないだろう..話すしかない..
「麗美、良かった無事で何よりだ..」
「父さんも心配したんだぞ..」
「無事じゃありませんわ..おじい様とお父様の目は節穴ですの? ここに翼様が居ない事に気が付かないなんて..」
「「麗美..」」
「ええっ私は無事ですわ..ちょっと怪我した位で何でもありませんわ..ですが、翼様は翼様もうこの世に居ない..ええっ見捨てられた私を助けるために死んでしまいましたわ..」
「麗美..すまない..儂は」
「ええっ 良いんですのよ! おじい様は組長ですもの、組と私を天秤に掛ければ、組を取るのは当たり前ですわ..でも、でも翼様は違いましたわ、自分の命を捨てて助けに来てくれましたの! あんた達みたいな安っぽい愛情で無く本当に愛してくれていた..そうですわ」
「お嬢言い過ぎです」
「國本、貴方や他の組員も同じですわ..いつも、お嬢、お嬢って言って、何かあったら..何て言っていたくせに役立たずです..」
「すいやせん」
「そうだな、俺や親父はどうしても組織を守らなくちゃならない..そう言われても仕方ないな..」
「それで、お父様やおじい様はこれから何をするのですか?」
「それはこれから話し合ってだ..」
「皆殺しですわよね! 私を誘拐して翼様が殺されたんですもの...それ以外ありませんわよね!」
「麗美、落ち着け..今は」
「充分、落ち着いていますわよ? これ以上どう落ち着けって言うのですか?」
「これから二条家の者も呼んでくる...辛いだろうが詳しく話しをしてくれないか? それからだ..」
「幾らでも話しますわ..彼奴らを皆殺しにしてくれるなら」
関東地獄煉獄組と二条家の主だった面々が集まった。
「麗美、済まぬが、詳しい事を話してくれないか?」
「ええっ良いですわ」
麗美の顔は真っ青に青ざめていた..そして目には涙が溜まっている事は誰が見ても解かった。
それでも、麗美は話をしきった。
「私のせいだわ、私が泣きついたから..翼ちゃんが..」
「それは違う、彼は勇気ある少年だ、お前が言わなくても助けに行っただろう..」
「そうね、貴方達とは違いますからね..彼は..」
「華子、お前!」
「お母さまもおやめになって..」
「絵里香..何かしら?..私に指図するのですか?」
「お母さま?」
「二条の面汚しにお母さま何ていって貰いたくないわ..自分の為に手を汚してくれた翼ちゃんを怖がったんですか? 何様なのかしら?」
「お母さま、私は、私は」
「死ぬのを覚悟で助けに来てくれた..そんな翼ちゃんに余裕なんてあるのかしら? 殺さなければ自分の大切な人が汚されて殺される、だから自分の手が汚れるのを覚悟で殺した..ねぇ、そんな人を貴方は怖がるの? そして、何もしないで足手まといになって泣き喚いて..それなのに..捨て石になって死んでくれて..それなのに、貴方は何もしない..本当に私の子なのかしら..」
「私は怖かったんです..本当に..」
「そう、怖かったの? だけど、翼ちゃんはもっと怖かったんじゃないのかしらね? 最初から死ぬ気で行ったんだから、生きて帰る、そんな考えすら無かったのかも知れないわ..関わらなければ、今頃街で遊んでいたのに..それでも行ってくれたんじゃない? ここに居る誰もが行かない..そんな場所に貴方の命を拾いに行ってくれた..そんな人が怖かったのね..死ぬ気で助けてくれた人を怖るなんて最低だわ」
「私は」
「私は何かしら? それで貴方はどうするの? 翼ちゃんはもう多分死んじゃったのよ! 責任何て取れないわ、ねぇねぇどうするの? 命を救いに来てくれた男に最後に見せたのが、そんな泣き顔なの? 」
「お前、絵里香だってもう..」
「貴方だって同じ、助けに行かなかったじゃない..二条なんだから総理でも防衛庁でも動かせるでしょう!」
「今の二条にはそんな力は無い...昔じゃないんだ」
「ないわね、解っているわ...もう良いわ、絵里香、下がりなさい、暫くは顔も見たくないわ..」
「お母さま」
「下がりなさい」
「それで、貴方達はどうしますか? 弔い合戦位しますわよね? 当然よね、その位してあげなくちゃ翼ちゃんが可哀想だわ...そう思わない麗美ちゃん?」
「全員皆殺しにしなくちゃ気が収まらないし..胸が張り裂けそうです..お願いします、翼様に恩がある、そう思うなら立ち上がって下さい」
此処からが私の戦い...華子様に先を越されたけど、戦争に持ち込み翼様の敵を取らせる..それが今の私の仕事だ...
それが終わるまで、私は死ねない...だけど、それが終わったら..翼様に会いたいから、会いに行きますわ...
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