第50話 ダンスと陸子


「ごめん用を思い出した俺はこれで失礼させて貰うよ、ゆっくりしてってくれ」


空お兄さまは逃げましたね。



「翼さん、良かったら私と少し踊って下さらない?」


「此処には楽団も居ないようですが?」


「そうね、これは只のお遊びです...それとも音楽が無いと何も出来ませんか?」



今度は、ダンスのテストか...



「お姉さまいい加減にして下さい、翼さんは私のお客ですわ!」



「大丈夫ですよ..絵里香さん、陸子さん、その遊び乗りました!」




世界が違うから所々違いはあるだろうけど..これでも貴族だダンス位できるさ。



嘘でしょう..私がリードされている。


自分が未熟だと思い知らされる..


これは子供のダンスじゃない..洗練された大人のダンスだ。




「やっぱり、翼ちゃんはあれだけじゃ無かったわね」


「お母さま!」


「馬術に剣術...そしてテーブルマナー..そこまで出来る子がダンスが出来ない訳ないじゃない? 陸子も可哀想にあれ、大人じゃないとパートナーなんて勤まらないわよ」



「本当に凄いですわね」


「さて、流石に可哀想だから助け船出してあげようかしら? 翼ちゃーん、次は私と踊って」


なんなんでしょうか?


お母さまがここまで優しい顔をしているなんて..


オグロマックキングはあげてしまうし..身内にだってこんな顔滅多にしませんわ..


「海人、お兄さま?」


「俺もこんなのは初めて見たな..あれっ、翼が10億円くれって言ったら多分小切手きるぞ..」


「冗談ですわよね?」


「あながち冗談とは言えないな..」




お母さまと踊っているのを見て解る。


あれは自分の様な若輩者が躍るダンスではない...


洗練された大人が躍るダンスだ..


さっきの自分とのダンスだってそうだ始終リードされっぱなしだった。


ここまで来たら認めるしかないわね..


「流石、翼ちゃん、本当に何をやってもお上手ね..惚れ惚れしちゃうわ..そうだ、私ともお友達になってね」


「はい喜んで」


「うんうん」



「お母さま、私も翼さまと友達に..」


「陸子、貴方は駄目ね..だって性悪なんだもん! と言う訳でー 仲の良い者同士で、あっちで楽しみましょう..」


「お母さま?」


「それは流石に..」


ぴゆーっという音が聞こえる程の早さで華子は翼の手を取り部屋から出ていった。


それを追いかけるように絵里香と海人が走っていった。




それを、権蔵と覇人と陸子は複雑そうに見ていた。




「結局、底は見え無かった」


「ですが、少なくとも二条なんて彼の前では只の名前でしかないのでしょうね」


「うむ、気が付いたか?」


「この警備を正面から突破して来れると言う事は何時でも我々の命は奪えるという事ですね」


「そうじゃ、仕事柄恨みを買う我々は、この警備に一国の首相並みに警備を敷いている」


「つまり、彼がその気になれば、そんなの何時でも簡単に無効化できる」


「それにプラスして、馬術が旨く、マナーも完璧だ、そして社交性の高さはダンスを見れば解る」


「ええっ多少の違いはあるもののあれはしっかりした物です」


「さっき、少し調べた所、世間では王子様と呼ぶ者もいるが..普通の庶民の子だ」


「トンビが鷹どころか、ワイバーンを産んだ、そんな感じですね」



「それ以上かも知れんな..なにせあの華子が片時も離れようとしない..」


「華子が優しくする人間、それは普通ではない程優秀な人間、それ以外はあり得ない」


「儂以上に、人を見抜く力にたけている、しかも自分では知らないうちに」


「その華子が ちゃんで呼んでいますからね..」



「その優秀さは保証付きじゃ..」



「あの、おじい様、お父様、私はどうしてお母さまにあんなに嫌われているのでしょうか?


《華子は人間の本質を見抜く、多分心を覗かれて嫌われたんじゃないか...》


《空と陸子は裏表が酷いから仕方ない》


「さぁどうしてかな? 儂には解らん」


「私も解らないな..」



「そうですか? あの、かなり私の方が年上ですが、私も翼様と..そのお付き合いさせて貰っては..駄目でしょうか?」


「別に構わんが」


「別に良いが..」


「そうですか? それじゃ私も頑張りますね」


《我が、孫ながらこの変わり身、華子が嫌う訳じゃな》


《こういう所が嫌われるんですよね..》


「何かおっしゃいましたか?」


「まぁ頑張れ」




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