第49話 晩餐

お母さまは一体何がしたいのでしょうか?


折角の2人きりの時間が潰されてしまいましたわ。


そういえば、これから晩餐なのだけど..まさか!


「あの、翼さんはテーブルマナーとか解りますか?」


「テーブルマナーって何? 綺麗に食べれば良いんだよね?」


まさかテーブルマナーを知らないなんて..


だけど、今からじゃ間に合いませんわ..


「そうですわね」


なるようにしかなりません。





「翼、翼..こっち、こっち..俺の横で食おうぜ」


海人お兄さま..は元からこんな方ですね..だけど席順を無視するほど気に入られたのですね?


「そうね、かたっ苦しい事は今日は良いわよね...じゃぁ私は此処にしちゃおうっと」


お母様まで...



何時もの席順は 中央におじい様、その右がお父様、左がお母さま その一つ前が右が空お兄さま 左が陸子お姉様。


その前が 右が海人お兄さま、左が私..そしてお客様を一番下の席に座らせる..そんな家族でしたのに..


大臣だって下の席なのに...


百歩譲って海人お兄さまの横はまだ解ります..ですが、反対側の席にお母さまが座るのは可笑しすぎます。


「お母さまの席はそこじゃないでしょう!」


「えーっ、何で!何で! 別にここでも良いじゃない..」


この話し方..悪役令嬢ですら生ぬるい、そう思える程の怖いお母さまがまるで子供か少女みたになっています..


「ねぇ、翼ちゃん、良いわよね!」


「ほらお母さま、翼さんが困っていますわよ」


梃子でも動きませんわね...


「そんな事ないわよ」


「本当に困ったお母さま」



「あらっ、両脇は埋まってしまったのね、なら私は対面にしますわ」


これ何? 陸子お姉さまが..そんな場所に、その前に翼さんは私のお客様です。


「陸子お姉さま..席が違いますわ..」


「あらっだけどお母さまがそこに座っているのですから今日は自由じゃなくって?」


そう言われれば何も言い返せません!


仕方なく私は陸子お姉さまの隣りに座りました。



こうなると、おじい様も中央には座れませんので右側奥にその対面にお父様、そしておじい様の左側に空お兄さまが座る、変な席順になってしまいます。


こんな事をしたら、普通はおじい様が激怒するはずですが...何故か怒りません。


そして、空お兄さまやお父様も何も言いません。


可笑しすぎます。



そして、奇妙な席順で晩餐会は始まりますが...ちゃんとテーブルマナーが出来るじゃないですか?


確かに、日本人が知っているテーブルマナーと少し違いますが、国が違えば多少の違いはあります。


ですが、この優雅な食べ方は絶対に素晴らしいマナーです。


「綺麗..」


その証拠にお母さまはその仕草に見惚れています。




正面の陸子お姉さまも見惚れているのが解ります。


割と海人お兄さまはマナーを無視しますが、きょうは静かに食べています。



おじい様や空お兄さまもたまにチラチラと翼さんを見ています..


こんな美しい仕草の食べ方がマナー違反な訳ありません。


静かな食事が終わり、紅茶が入り雑談が始まりました。


此処からがまた大変なのですが....



「所で、翼君って言ったね君は何をしているんだ!」



はじまりましたわ...此処にいるのは全員一角の者です。


未成年の者が勝てる要素はありません..



「普通の高校生です」



《この世界の僕は只の高校生、貴族の息子でも何でもない..》



「はんっ、普通の高校生ね..それが何で絵里香の友達になれると思って居るのかな?」


相変わらず、空お兄さまは人を身分で見下すのですね...



「幾ら言われても、僕は普通の高校生ですから、それ以外の者じゃありません」



《なぁ、絵里香、そんな訳無いよな!》


《海人お兄さま..翼さんは謙虚なだけです》


《なぁに? 翼ちゃんの事? お母さんも混ぜて頂戴》




「絵里香が連れて来たんだ、そんな訳ないじゃろう? 何か特技でもあるんじゃないか?」



「特技ですか? 剣術と馬術を少々出来る位です」



「あーっ、忘れていたわ」


「どうした華子、大きな声を出して」


「さっき、翼ちゃんに オグロマックキングあげたのよ! 別に良いわよね!」


「何? あれは引退こそしたけど名馬だぞ..それをお前は」


「だって、誰も乗りこなせないじゃない? だったら乗りこなせる翼ちゃんにあげた方が良いわよ? そう思わない!」



「乗りこなせる訳が無い..佐平治を呼べ..」




「何でございましょうか?」



「そこの子がオグロマックキングをに乗れたと言うんだが本当か?」



「乗れたと言うより乗りこなしたが正解だな、正直、松が乗った時より機嫌が良かったぜ、しかもあの誇り高い馬が二人乗りを許したんだ..もう良いだろう? じゃーな 翼様」



相変わらず無礼ですね..だけど、馬に関しては彼以上の人物はなかなか居ませんからおじい様も大目にみています。



「うっ、馬術が上手い高校生か..だが、その位では..」



「それだけじゃ無いと思うわよ...翼ちゃんは!」



何故、お母さまが胸を張っているのでしょうか?


まるで、自分の自慢の息子か自慢の旦那を紹介している..そう見えます。



その証拠に、空お兄さまもお父様も顔を引きつらせています。



「剣術が少しできます」



少しじゃ無いですよね?


天上鉄心より強くて白熊ですら勝てるのですよね..話半分にしても達人の筈です..



「剣術が出来る? どの位? 全国大会は出た事があるのかな?」


また、空お兄さまの悪い癖ですわ..


「出た事はありません」




「だが、自慢する位だから、少しは出来るのだろうね? そこの君、佐門次を呼んでくれないか?」



お父様もお母さまがオグロマックキングをあげて、褒めているから気にくわないのね...





「お呼びでございますか、旦那様」


「ああっ悪いな仕事中に」


「別に構いません、私の仕事はこの屋敷の警備だけですから..先程、未熟な者から大変な方がお客で来たと聞きました..その話しでしょう?」


「そうだ、悪いが立ち会って貰えないだろうか?」


「良いですが..怪我させちゃいますよ」


「構わない」



「どうだ、本当に剣術が得意と言うなら、この佐門次と立ち会ってみないか?」



正直どうでも良い位弱いな..だが、いい加減腹が立ってきた..今の僕は天空院翼、そうそう馬鹿にされる訳にいかない。



「いいですよ.. 手加減を間違えたら許して下さいね」





裏庭まで出てきた。


この程度の相手ならあの場で素手で良いのに..



「最初に言って置く、この佐門次は元警視庁のSPの隊長をしていた、そしてあの天上流から中伝を貰って あの剣聖 鉄心からも指導頂いた強者だ..それでもやるのか?」



なんだ、ただの小物じゃないか..


「そうですか..じゃぁハンデで、真剣と木刀で..」


「その位のハンデは必要だな..だそうだ佐門次は良いか?」


「その位じゃハンデは埋まりませんぜ」


「まぁそれなら良いだろう」


「勘違いですよ、僕が木刀で、そっちが真剣..当たり前でしょう?」


「馬鹿にしやがって」


「それでも無理ですね、さっき外で見た護衛全員で良いや..」



「ちょっと待て、それは当家のガードマンや警備体制を馬鹿にしているのか?聞きづてならんな!」



「こちらもいい加減腹が立ちました..そうですね、僕は一旦外に出ます、30分後にもう一度入ってきますから、ガードして下さい、そしてここ迄たどり着いたら僕の勝ち、止められたら僕の負けそれでいいや..総力戦でやりましょう」



「そうかい、そこまで言われちゃ手加減できないぞ..」


「そうですか? 僕は可哀想だから思いっきり手加減してあげますね..」







「まぁ、空お兄さまやおじい様、お父様が言ったんだから仕方ないですわね」


「絵里香ちゃん..それってカッコ良い翼ちゃんが見れるって事なのね..」


「ええお母さま」


「絵里香、翼でも流石にそこ迄じゃないだろう..物理的に無理だと思うぞ」


「麗華様と天上心美さんとお茶をしたんですが、何と言っていたと思いますか?」


「それお母さんも聞きたいわ」


「何て言っていたんだ?」


「天上心美さんは自分よりも剣聖、鉄心よりも強いと言っていました」


流石に白熊は嘘だと思いますが..


「まぁまぁ、それじゃ楽勝ね」


「冗談だよな..」





「あの、翼という奴絵里香の前だからってカッコつけすぎだ」


「ああ、流石にあれはないだろうな、この屋敷の警備は万全だ、それこそ傭兵が1チーム来ても返り討ちに出来る程に」


「お父様もそう思いますよね..どうしたんですか? おじい様?」



「儂は、正直もう解らん..ただ一言言っておく..もし突破されたら、その意味を知る事だ」






正直やる意味が無かった..


全員を素手で無効化できた..その結果がこれ..



「人が悪いですよ 翼殿..天上流の皆伝者だなんて、知っていたらこんなのやりませんよ!」


別に皆伝じゃないんだけどな..


「別に皆伝じゃ」


「そんな訳ないでしょう? 五月雨突きからの古月、あんな技「天上」の名前を持つ人しか出来ません..それが出来るんだから」



「いや違った様だ..すみませんでした..翼殿」


「何が違うんですか、佐門次様..」


「この方は..この方はな..剣聖 鉄心様のご師匠だそうだ..いま天上家に問い合わせた」


「それじゃ、翼殿は..日本一、いや世界一の剣術家..そういう事ですか」



「本当にすみませんでした..」






「剣術が出来ようが馬術が出来ようが、野蛮人には違いありませんわ」


「陸子、お前」


「そういう事ですわよね、空お兄さま!」


「そうだな..うんそうだ」






《此処までしてもまだ...本当に困ったお姉さまにお兄さま》


《でも良いんじゃないかしら..もっとカッコ良い翼ちゃんが見れるんだから》


《そうですわね》


《あれは年下だが、俺より上だな..はっきり言えば兄貴より、いや親父よりこの家の当主が似合うぞ》


《その口調、余程翼ちゃんが気に入ったのね》


《ああ》


《だったら、あの子絶対に手に入れてね..空や陸子は要らないから》


《お母さま?》


《あら、やだ私ったら..うふふふふ冗談よ、冗談》





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