第47話 本戦② 乗馬
正直いって何をお話ししていいか解りません。
だって、今迄、男性と話しちゃいけない、そんな生活だったんだから..
男性すべてを排除されていたような生活の私は、何を話せば良いんでしょうか?
命令ならできますが..
「あの、趣味はなんですか?」
やっと絞り出した言葉がこれです。
「趣味ですか? 一番得意なのは剣術かな? 他には乗馬とか..そんな感じ、絵里香さんの趣味は?」
あれっ、乗馬? 普通の家庭の方の筈ですが..
しかし、お見合いみたいです..私の趣味..
「その、私は実はこれと言って..ありません、色々と習ってはいるのですが..」
《成程..》
「良く解ります..色々習っているけど、どれが自分にとってのライフワークか解らなくなる、そんな感じでしょう?」
「良く、お解りですのね..」
《貴族にはよくある事だからね》
「うん、結構周りにいたからね」
「そうですわ、乗馬が出来るのならこれから馬を見に行きませんか? ここにもおりますのよ?」
「それは素晴らしい..良いんですか?」
「はい、構いませんよ」
流石にこれは冗談ですよね..
「絵里香お嬢様...此処に来られるなんて珍しいですね」
私はあまり乗馬は得意じゃありません..だから此処には殆どきません。
「お客様が乗馬が趣味なのよ..だからお連れしたのよ」
「乗馬ね..だけど絵里香お嬢様、今は放牧していまして、鞍は勿論、手綱もはみすらつけていませんよ」
「それは残念ですわね」
「しかし、凄く手入れの行き届いた良い馬ですね」
「解るのかい? この中には現役の競走馬だっているんだ..凄いだろう」
「特にあの馬は素晴らしい」
「はははっ、兄さんはその齢で競馬をやっているんだな..だからオグロマックキングを知っているんだ」
「そういう名前なのですか?」
「なんだ、知っていて言ったんじゃないのか?」
正直、お客様に対して凄く無礼に思いますが..翼さんが楽しそうなのに注意なんてしません。
「はい、いいなぁ、乗ってみたいな-」
「いいぜ、乗れるなら乗っても..わははっ最も鞍もついて無いが..」
「本当ですか、有難うございます!」
「おい、待て、待てよ、冗談を真に受けるなよ..危ない..」
うん、冗談なのは解かっている。
だけど、馬に乗りたかったんだから仕方ない。
「翼さん、危ないですわよ!」
「大丈夫ですよ..ほら」
僕は馬の横がわに立ち、鬣を掴みながら騎乗した。
大きく鬣を握り直して、重心を移動して走らせた。
「絵里香お嬢様、あの方はどこの方ですか?」
馬、馬鹿の佐平治が「あの方」とか言い出しましたわ。
「私のお客様で翼様です」
「凄い方だな、裸馬を簡単に乗りこなすなんてな、しかも相手はサラブレット..流石、乗馬が趣味というだけある半端ないな」
翼さんは庶民の筈..なのになんでこんな華麗な乗馬がお出来になるのかしら?
「本当に凄いですわね..」
「凄いなんてもんじゃない..オグロマックキングがまるで松を乗せた時の様に喜んでいやがる..」
凄いですわね、馬馬鹿の佐平治がここまで褒めるなんて..
「ありがとうございます絵里香さん..そう言えば絵里香さんは何故乗らないんですか?」
「私は乗馬が苦手なんです..」
「そうですか? だったら一緒に乗りましょう?」
「えっ」
僕は絵里香さんに手を伸ばした。
そして、手を握った絵里香さんをそのまま引き寄せ自分の前に持ってきた。
《えっ、お姫様抱っこ..そんな》
「結構、ここからの景色って良いでしょう?」
「本当、少し目線が高くなるだけでこんなに違うなんて」
「でしょう? だったら少し歩いてみましょう..」
「はい」
景色もそうですが、お姫様抱っこのせいで頭が正常に回りません、頭一つ上に翼さんの顔があるのですから..
しかも、しかもしっかり抱きしめられているのですから..
凄いな、裸馬で騎乗が出来るだけで凄いんだが..2人で乗るなんて..凄い上級者だ、はっきり言って俺以上じゃないか?
「絵里香ちゃん、翼ちゃん、暫くしたら晩餐会するって...あらっ」
「はい、お母さま!」
「絵里香ちゃんだけズルいわ..」
「お母さま、何をいっているんですか?」
「えーずるいいー私も私もー」
「困ったお母さま、翼さんお願い出来ますか?」
まったく、せっかく良い雰囲気でしたのに...邪魔してどうするんでしょうか?
「勿論良いですよ...喜んで」
我が母ながら、なんて顔をしているのでしょうか..明らかにはにかんでいますわ。
しかも手の出し方が..少し混乱しているんでしょうか?
服で手を拭いていますわね..はしたない。
「ありがとう...翼ちゃん」
お母さまの横柄さが全く起きません。
凄く楽しそうにまるで少女のようにはしゃいでいます。
あんなお母さま、私は見たのは初めてです。
「はぁはぁ、本当に楽しかったわ..有難うございます」
「こちらこそ..」
「そうだわ、こんなに楽しませて貰ったんだもん、何かお礼をあげなきゃね..そうだわオグロマックキングを差し上げます..ちゃんと飼育はこちらでするから安心してください..何時でも乗りに来て下さいね」
「お母さま!」
「良いのよ、あの人には言って置くから..それじゃまた後でね...翼ちゃん」
まったくお母さまは何を考えているのでしょう..
本当に私を応援してくれているのでしょうか?
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