第46話 本戦② 華子と絵里香
「そう翼ちゃんと言うのね!」
「あのお母さま、あまりベタベタしないで貰えますか?」
さっきもそうなのだけど、いったいどうしちゃったの...
本来ならあの場所ではおじい様からお話があって、その後はお父様がお話になる、そして最後は兄姉が話しかけてくる筈だ。
そして、大抵の者がその重圧に負けて卑屈になっていく。
普通に考えて「昭和の怪物」と呼ばれ政治家や企業の社長ですら歯牙に掛けないおじい様。
そして、そのおじい様に全てを任されつつあるお父様。
既にグループ会社のうちの数社を任され社長に就任している、空お兄さま。
そして、それを支えている海人お兄さま。
その重圧に普通の学生が耐えられる訳が無い筈..
そして、その無力さを悟った後に陸子お姉さまのお話がある。
私としては根ほり葉ほり聞かれて、最後に「友達として仲良く」そういう言葉聞ければ及第点だと思っていた。
実際に、そこまでたどり着けたのは少数だし、そのうちの一人は空お兄さまの片腕として専務を任されている。
陸子お姉さまに到っては、お姉さまの性格もあるのだけど、お姉さまの目で合格した者は誰もいない。
これは本当の友人になれるかどうかの試験。
二条の圧力に耐えられるかどうか、そういうお話だ。
なのに、おじい様以外がお話ししなかった。
正直、何がなんだか解らない...怒らせて反対されたそう思ったのに。
「翼さんと言ったかな..歓迎する..ゆっくりしていってくれ」
歓迎なんて言われた方はいなかった..本当に解らない。
そして、この母の対応。
こんな顔の母は見た事が無い。
「いいじゃない? 絵里香ちゃんが連れて来たんでしょう? 場合によってはお婿さんになるかも知れないんだから」
本当はこんな人じゃない。
前に、空お兄さまのお付き合いしている人が「お母さま」と呼んだ時は..「貴方如きに母と呼ばれる筋合いはありません」と言っていた。
この母が「ちゃん」と呼ぶ人間は凄く少ない。
何しろ、兄妹でも「ちゃん」と呼んで貰えるのは私と海人お兄さまだけ..空お兄さまも陸子お姉さまも「空」「陸子」としか呼ばない。
「あの、お母さま! さっきから翼さんが困っています、止めて下さい」
「そう、本当に翼ちゃん困っているのかな?」
「正直、困っていますね、貴女の様な美しい方と何をお話しして良いか解りません」
《この人、見ているとマーガレット叔母さまを思い出す、何が逆鱗に触れるのか気をつけないとな》
「あらっ、お上手ね、ありがとう」
やっぱり可笑しい、何時もなら「見え透いたお世辞等、結構」そう言う筈なのに。
「貴方を見ているとある方を思い出します」
「あら、それはどんな方かしら?」
「そうですね、何時も中心に居てまるで太陽の様に人を輝かせるのが巧い方でした、その方の傍に居るだけで誰もが輝いて見えるそんな方です」
「それは素晴らしい方ね」
「ええっ、幼き私から見たらまるで物語の一部を切り取った様に見える事が沢山ありました、どんなに輝く宝石でも光無くして輝く事はありません」
「そうですわね」
「はい、まるで光のような方でした」
《太陽とか、光に例えないと良く癇癪起こされたな..懐かしい、内助の功を言わないと直ぐに不機嫌になる..》
「その方に私が似ている、そういう事なのですね」
《マーガレット叔母さまは元気だろうか..》
「はい、だって貴女という光があるからこそ家族が光り輝いている、そう見えますから」
本当に凄い子..私の本質を見抜いた人なんてだれも居なかったのに、義父様にすら見破れなかったのにな..
私が裏で頑張らなければ二条家は円滑になんて回らないわ、野心家の旦那に野心家の長男、虚栄心が高い長女。
そして、未だに巨大な権力を手放さない祖父、本当に大変なのよ。
人間として魅力があるのは海人と絵里香位...それ以外は本当に野心と野望しかない。
私が巧く立ち回らなければ壊れてしまいかねない..
それが解るのね...光に例えて伝えてくるなんて...驚くわ。
「本当にいい子ね...残念だわ私があと20年若ければ放っとかないのに..」
「お母さま..いい加減にして下さい!」
「冗談よ、冗談、私が陸子相手ならいざ知らず、貴女の大切な者をとったりしないわ!」
まぁこれだけの男なんだから、絵里香が夢中になるのは当たり前だわね..
しかも、気品もあって美男子なんだから...だけど、何処をどうしたらこんな子が庶民から産まれるのかしら?
「お母さま!」
「はい、はい、お邪魔しませんよ..その代わり頑張ってね! 絵里香ちゃん」
「ななな何を頑張れっていうんですか!」
「あらっ、まだ絵里香ちゃんには早いお話しだったわね..それじゃぁね翼ちゃん、晩餐になったら呼ぶからゆっくりしててね!」
「はい」
「それじゃ絵里香ちゃんちょっと良いかしら」
やっぱり可笑しい..
この二条邸内で、男性と二人きりになるなんて考えられない。
しかも、あのお母さまの態度、幾ら私が子供でも解る...遠巻きに「既成事実」を作っても良い。
そういう事だ...つまり「友達」としてではなく恋愛として付き合っても良い、そういう意味..
早い話とは言っていたけど..キス位しても「あらあら」とかで済まして貰えなそうな位に認めているのは解る。
とんでもなく気に入って貰えたのは解る...
しかも、私と海人お兄さましか「ちゃん」とは呼ばないお母さま。
「ちゃん」と呼ぶのは...特別な人だけ..
《絵里香ちゃん、翼ちゃんを頑張って落としてね! 私、ああいう子供が欲しいのよ! もし落としてくれたら二条は貴女の物になるかも知れないわ》
《お母さま!》
《私が本当に欲しい物は絶対に手に入れるの絵里香ちゃんは知っているわね?》
《はい...》
《応援するから絶対に手に入れるのよ良いわね!》
《はい》
応援して貰えるのは嬉しいけど..このプレッシャーは何なのでしょうか?
「困ったお母さま!」
私は自分の為、お母さまの期待に応えるために翼さんの所に戻った。
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