第45話 本戦

おじい様は困った事に人の値踏みをします。


あった瞬間にその人間の価値が解るそうです。


この直感が怖い事に外れた事がないそうです。


部屋に入った瞬間、思わず私は驚いてしまいました。


《なんで家族が此処までいるの?》


空お兄様に 海人お兄さまに 陸子お姉さま、それに覇人お父様まで..これでお母さまが揃えば全員です。


華子お母さまはこの家にいない事はまず無いので、あとで来られるのでしょう。


普通は権蔵おじい様1人なのですが..



しかし、エスコート役の私が驚いている訳にはいきません。



「翼さん、こちらが私の家族です」


「初めまして、天空院 翼と申します、未熟者ですが宜しくお願い致します」



この瞬間がおじい様にとっては至福の時間なんだそうです。


上から見下ろすように奥の椅子からこちらを見下ろしています。


新たな才能との出会い..それは莫大なお金以上の価値があるそうです...



《成程、これは上級貴族や王が行う謁見に近い物だ、玉座から見下ろす王に近い存在、そういう事だな》



「ほう、儂から目を反らさずにいる、なかなかの目力じゃな..」


《残念ながら力不足だ、これでも元公爵家の人間、姫の婚約者だ継承権は無いとは言え姫といっしょに過ごし、度々本物の王と会い、更に上級貴族と過ごしてきた..これ位で怯む訳が無い》


「お褒めに預かり光栄です」


こちらも目力に意思を込めて対応する。


上級貴族ともなれば、この仕草一つで信頼を勝ち取らなければならない事がある。


だからこそ仕草一つでも完璧にこなさなくてはならない。


そして、そこに僅かに気を込める、強い意思に気をこめて意思表示するのだ。




汗が止まらなくなり、心臓が早くなる。


この儂が、見定める事が出来ないとは、しかも同じ事は覇人や孫たちにも起きているに違いない。


その証拠に、儂が黙っているのに話しをしようとしない。



こんな事はなかった、総理だろうと皇族だろうが...こんな事は無かった。


それでも更に見定めようとすると...なんだこれは、黄金いや王、解らないが..とんでもない物が見えてきた。



正直、此処にいるのも息が詰まってつらい。



「翼さんと言ったかな..歓迎する..ゆっくりしていってくれ...はぁはぁ」


「ありがとうございます」


やり過ぎだとは思わない。



恐らく、この場に居るのはこちらの世界の一流の人間なのだろう。


その中でも自分が通用するのか知らなければならない..


天空院 翼の名前を知らしめなければならないのだから。



本戦? 二条家の人々


「はぁはぁはぁ..誰か水を持ってきてくれんか..」



絵里香が連れて来た、あの方は何者なんだ..


儂の眼力に耐えられる所かはじき返して..更にこちらに圧力をかけて来おった。


信長に睨まれた秀吉、蛇に睨まれたカエル..儂はいつも睨むほうじゃった


だが..今回は違った。


あれは一体誰なんだ..社交界でも名前など聞いた事も無いただのガキがだ..この権蔵をビビらせた。


異常...そうとしか思えない。



儂でさえこれなんだ..儂の息子も孫も溜まったもんじゃない...


一言も話さず、ただただ、暴風雨が過ぎ去るのを待っていた..気絶しないだけまだましだ。


最後までたっていたのを寧ろ褒めてやりたい位じゃ。



儂は水を飲み干し少し落ち着いた。


「覇人、お前から見てあの少年はどうだ?」


「まだ震えが止まりません、あの少年が何処かの代議士の息子なら今から確実に後ろ盾になりますよ、あの子なら簡単に総理位になれそうですから」


「そんな物ではない..なぁ覇人、儂が今の大臣を見た時に言った事を覚えておるか?」


「確か札束が落ちている、そう言われたと思います」


「そうだ、100万円の札束が1つ見えた..だがな、あの子、いやあの方の後ろに何が見えたと思う?」


「相当な物がみえたのでしょうね」


「ああっ見渡す位の黄金に、大きな城..更に王冠が見えた..」


「本当ですか?」


「お前も身をもって経験したのではないか..」


「確かに..カントローネの総帥相手にすら感じ得なかった程の圧力を感じましたが」


「お前迄感じたのならそれは間違い無いということじゃ」


「とてつもないのは間違いが無いと思います、空に 海人に 陸子は未だに体調がすぐれない、そう言って休んでいますから」


「あれは想定外じゃが、だらしない」


あんな化け物みたいな者を目にしたんだから仕方ないと思う...なまじっか人の力量を計られる素質があるからこそだ。


「仕方ないと思いますよお父様、私やお父様ですらこれなんですから」


「まぁな、それで今、あの方の相手は誰がしているんじゃ」


「華子と絵里香がしています」


「そうか、まぁもてなすと約束したからには晩餐までにはしっかりしないと」


「三人が心配です」


「まだ時間はある、大丈夫じゃろう」



【空の場合】


俺の名前は二条院空、二条院家の長男に生まれた。


俺は自分より上の人間は2人しか知らない、1人は言わずとしれたおじい様、そしてお父様だ。


小さい頃から俺は二条に相応しい人間として育てられた。


小学生の頃から帝王学を学び、全ての人間は二条にかしずく、そう学んだ。


形上、仲の良いという友人はいるが、彼らですら駒にしか思えない。


それなりの家柄に資産家の子供だから、それなりに扱っているそれだけだ。


将来は俺の手駒になるのだからな、俺は物を大切にする方なんだ..


俺の中で本当の人間は家族だけだ...それ以外はただの駒、そう思っていた。


だが...



【海人の場合】


俺の名前は海人 二条院家の次男に産まれた。


兄貴の空は自分こそが次の二条を背負っていく人間そう思っているようだが...


それは間違いだ、兄貴は何でもそつなくこなしているが..ただそれだけだ。


本当の王者に必要なのは「器」だ、親父は兄貴に近いがおじい様は違う。


目で睨まれただけで体が硬直してしまう眼力に人の器を見抜く力..あれこそが真の帝王だ。


だから、俺は学問より、より実践的な物を学ぼうとしていた。


それこそが二条の当主に必要な物だからだ...そして、その器に関しては二条では恐らく3番目になるそう思っていた。


だが...



【陸子の場合】


私の名前は陸子 二条院の長女に産まれました。


生まれながらの二条院の娘、社交界の華とは私の事。


仕方ないわ、この美貌にこの知性、そして生まれながらのオーラ。


どうしたって庶民には身につかない物なのですよ。


私と釣り合う男なんてまず居ないでしょうね..だって二条院なんですから..


最近不満なのは、エスコートをお兄さま達に頼む事しか出来ない事..


だって、家族より魅力的な男なんて存在しないんだから仕方ないと思うの。


まぁ、それは絵里香も同じだと思うわ。


そんな絵里香が男を連れてくる..「.まだ子供だから仕方ない」かそう思っていたわ。


私も何回か経験したわ..だけど、多分相手の男の子は立ち直れなくなるわ。


二条を前にしたら、真面にしゃべれなくなるし、卑屈になるのよ..貴方の恋は確実に壊れるわ。


まぁ、その後のフォローは私の仕事ね。


二条の女についてゆっくりお話ししなくちゃね..


なんて思っていたのに。






「お父様、あの魔王の様な男は一体何者なんでしょうか?」


「親父、あの海の様に器の広い人は誰なんだ?」


「お父様、あの方は何処かの国の王子様でしょうか?」



一体どうしたんだ、ノックも忘れて入ってくるとは


「お前達、どうしたんだ? ノックもしないでいきなり..お父様の前だぞ」



「「「おじい様」」」



「良い良い、そんな畏まらなくとも家族じゃからな、しかしこうも見事に別れるとはな..」


「本当にそうですね」



「お父様、おじい様一体何を言っているのでしょうか?」


「いやな、魔王に器の広い男に王子様か、随分同じ二条なのに割れたなと思って」



「兄貴には魔王に見えたのか? 相変わらず気が小さいな、俺にはまるで竜馬の様に底が見えない器の男に見えたぜ」


「お前は楽天的すぎる...あれはどう見ても全てを踏みつぶすような魔王にしか俺には見えなかった」


「海人お兄さまのはまだ解りますが、魔王? 空お兄さまはお疲れなのでは? あの気品に包まれたオーラ気高い人にしか思えませんよ!」



「まぁ良い、空、お前から話を聞こう、どんな印象だ」


本当にここまで違って思えるのか、未熟とは言え二条だ、人の値踏みは得意なハズなのに此処まで家族で割れたのは初めてだ。



「とてつもない意思に力、此奴に逆らったら生きていけない...そんな感じです。適度に距離を取りつつ友好関係を築くそういう付き合いが必要な人物かと」



成程な、恐怖を感じたんだな..



「解った、海人はどうだ」



「とてつもなく懐が深い人間だ、彼奴の下にならついても構わないそう思えるような感じだな、どっちが上になるかは将来の事、俺は親友になりたい、ああいう男ならな」


ほう、俺とお父様以外を認めない海人が対等以上の関係を結びたいそう思ったのか?


「そうか、最後に陸子はどう思った」



「あれほど気高い人は居ません、まるで王子様その物、どこか大国の王族、そう言われても信じます。」


「そうか、しかし本当に割れますねお父様」


「全くじゃな」



「それでお父様やおじい様にはどのように見えたのですか?」


「儂には黄金、城、王じゃな」


「私は宇宙、そんな感じか」



「しかし、ものの見事に割れたもんじゃ」


「二条の眼力でも全く違う物に見える、全く凄いものですね」


「全く...だが敵に回しちゃいけない、友好関係が必要、それだけは一致しておるわ」


「二条にとっては重要な人物、それだけは間違いない、そういう事ですね」


「うむ」




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