第44話 前哨戦
本来はもう少し長めにする予定でしたが 思ったより長くなりそうなのでここで切りました。
【本文】
「おじい様、今日友達を連れていきますから宜しくお願い致します」
「ほう、絵里香が友達を連れてくるなんて珍しいな..それで男の子なのか女の子なのかね」
「はい、男の子です!」
「ほう、男の子なのか、それはお爺ちゃんが挨拶しなくちゃな..」
「はい、勿論です」
電話を切り権蔵の顔に不愉快さが浮かんだ。
横にいるベテラン秘書の顔が曇った。
この状態の権蔵の傍でこの程度で居られるのは流石ベテランとしか言えない。
「今日の、首相との会談は取りやめだ..直ぐに伝えろ」
「畏まりました」
《お気の毒に、3か月前から頑張って取ったアポイントが無駄になった..首相もお可哀想に》
さてと絵里香が連れてくるボーイフレンドか誰だろうか?
絵里香と同い年位で能力に秀でた者...家柄なら六条あたりの息子か..或いはIT企業の寒川あたりの息子..
だが、それでも二条には届かない。
女だから対象外だが、ヤクザの娘の麗美位しか二条が欲しい人間は居ない。
あの娘は儂の目を睨みながら話おった..まぁ足は震えておったがな...
儂の挨拶に耐えられた子供は後にも先にもあ奴だけ..酷い者なら失禁迄しおった。
その儂に絵里香が紹介する...はははは実に面白い!
折角だから、家族全員来られる者を集めてもてなすとしよう。
「おい、お前、家族で来れそうな者は全員集めろ!」
「はい..」
《嘘だろう..そんな会談ならメリケン国の大統領だろうがきたがるだろう...だれが来るのか知らないが..そんな場所じゃ首相だろうが真面にしゃべれない..大人気ない..》
「何をしている、急げ..」
《これじゃ絵里香様..友達が出来ないな..お可哀想に》
「はい、ただ今」
やはり、この子もお嬢様なんだな..凄い車が迎えに来た..ロールスロイスのリムジンって奴かな?
しかもお付きの人までいるなんて..
「さぁ、翼さんお乗りになって」
《絵里香お嬢様が先を譲った..この人は何者なんだ》
「いえ、此処はやはりレディーファーストです、絵里香さんからお乗りください」
「いえ、今日は私がホストですから、どうぞ!」
「それでは遠慮なく」
《何処のお坊ちゃまなんだろうか?しっかりしているな..》
「僭越ながら、そちらの方はどちら様でしょうか?」
「私のお客様です。麗美お姉さま以上に大切な方です..その説明では駄目でしょうか?」
「いえ、..解りました、それならシールドを張らせて頂きます」
後ろの席と前側の席の間に防音ガラスが張られた。
「ここまでまだしなくても良いのに、仕方ない方です」
「なぁ、絵里香様がお連れになった男は何者なんだろう?」
「多分、婚約者候補じゃないのか?」
「確かにあの容姿にあの風格只者では無いな..」
「ああっ隙が全然無かった」
「そう思うか?」
「あれをどうにかしろと言うなら銃器を使って10人は必要だ」
「元SPのお前が言うのなら間違いないだろう...だが子供だぞ」
「まぁ、思い間違いだと思うが..」
《何故だろうか? 権蔵様以上にあの子供に仕えたい、そう思ってしまった...気のせいだ》
「困ったおじい様..」
思わず、言葉が出てしまった。
なぜ、メイドや執事に護衛役まで総出で門の周りにいるなんて..しかも殺気だって..
《お嬢様と付き合う..相手..》
《これは、これは見定めなくては》
《孫の様に可愛い絵里香お嬢様の相手..そう簡単には許せないぞ》
仕方ない、殆どは他愛の無い物だけど..
多分、これはテストなのかも知れないな、ならばやるしかない...
僕は殺気を放った..騎士団長とは比べ物にならない..精々が騎士程度だが、これはそういうテストなのだろう...
「あれっ、どうしたの? 皆んな急に静かになって..ねぇ..挨拶位しなさい」
「はい、お嬢様..」
「どうかしたの?」
「それが、体が震えて、旨く喋れません」
よく見ると、一部の人を除いて震えています。
「お客様、こちらの無礼は謝り致します、どうかそ.れ.を納めて下さい」
「お眼鏡に叶いましたか?」
「ええっわ.た.し.ど.もは充分です、ですからどうか!」
「解りました」
《元SPだった俺が怖さを感じるなんて..何者なんだ》
《あんな奴、戦地にも居なかったぞ..》
「何をしたのか知りませんがお客様に無礼です...翼さんは剣の達人なのですから気を付けて下さい」
《そうか、剣の達人だからあの気なのか》
《そう言えば、剣聖と言われる鉄心が同じような技を使えると聞いた事がある》
《あれは噂で見た物は居ないという話じゃないか?》
《だが、あの少年がやった事はそれとしか思えない》
「気をつけます..」
流石は翼さんですね。
全然動じていません..流石です。
「さぁ行きましょうか?」
「そうだね...」
何か歓迎されてない気がする...まぁ挨拶なんてこんな物か..
敵対する貴族に挨拶に行った時に比べればましかな..
大きな門を入り中に入った。
「それでは翼さん着替えて参りますので暫くお待ちくださいね」
「うん」
「それではご案内いたします」
このメイドを見ても教育が行き届いているのが解る..歩き方仕草大したもんだ。
「こちらで今暫くお待ちください」
しっかりと案内が終わると挨拶をしてメイドは立ち去った。
《あれは何処のご令息なのかしら、この家に長く勤めているけど、あれ程の美男子は見た事がありません》
暫くすると紅茶と菓子が用意された...
これは昔飲用していた物並みに美味しい、高級なのが解る。
「お待たせしてすみません」
「待つのは慣れているから大丈夫だよ」
大体の貴族はわざと待たせる、例え暇であってもそうする者が多かった。
上の爵位の者は待たせないのが習わしだが下級なら待たせる。
僕は公爵家だが、後継ぎでは無いそしてあの時点の僕は公爵家の子供、すなわち爵位持ちでは無いので何処に居ても待たされるのが当たり前だった。
「そう言ってもらえると助かります」
「だけど、流石は二条家、紅茶からして違いますね、此処までの紅茶はなかなか、香りからして違いますね」
「そうですか..私は詳しくは存じませんので後で聞いておきます」
「この九谷焼のツボもなかなかの物ですね」
「そうなのですか?」
不味い、しくじったのか?
前の世界ではこういった待ち時間に出された物や調度品を褒めるのが礼儀だったのだが..こっちでは違うのか?
「うん、色合いが綺麗だと思う」
「そうですか? そうですわ丁度メイドがおりますから紅茶について聞いてみましょうか..ちょっといい?」
「何でございますかお嬢様」
「こちらの紅茶について翼さんがお褒め頂いたのだけど、説明してくれる?」
「はい、こちらの紅茶は ドイツから取り寄せたブランド紅茶です、ポットを温め60秒ほど蒸らしてお出しした物です」
「そうですか! 美味しい筈ですね、この紅茶の場合は120秒蒸らすとどの様な味になりますかね」
「試しに120秒で入れて見ますか?」
「お願いして宜しいのですか?」
「お客様のご要望ですから...」
本当にそうなのでしょうか?
まぁ試してみますか..メイド長から教わったのが60秒なんだけど。
「どうかなさったの?」
「メイド長、お客様がこちらの紅茶を120秒蒸らした物がご希望だそうで」
「それはまた随分紅茶通の方ですね」
「そうなのですか?」
「誰でも美味しく感じるのが60秒位、通の方は物足りないらしくもう少し蒸らす時間を増やすのですよ..そうですか、良いでしょう、私が持っていきます」
「紅茶のお代わりをお持ちしました」
「有難うございます」
カップの持ち方からスプーンの置き方まで..完璧なマナーですね..
しかも優雅に美味しそうに飲んでいらっしゃる..ただの知識じゃなくて本当に楽しんでいますね..
「お代わりをお持ちしましょうか?」
「お願い致します」
ああも優雅飲んで頂けるとメイド冥利に尽きますわね、紅茶の味が解るのは二条家では権蔵様に実朝様の2人だけ
他は全員ただの知識だけの方ですのに。
「お代わりをお持ちしました」
「有難うございます..あれ、これもまた美味しいですね..さっきより良いかも知れない」
「流石でございます、こちらは180秒で入れてます、紅茶の好きな方にはこの方が宜しいかと思いまして」
「うん、確かにこの方が美味しいです、そうかあと60秒蒸らすだけで此処まで香りと味わいが増すのですね..有難うございます」
「どういたしまして」
「どうでしたかメイド長」
「凄いわ、本当に紅茶について味わってましたね、しかも優雅に飲んでいらっしゃったわ...次回からあの方が来たら私が紅茶を入れます」
「そんな」
「貴方達のような未熟者には入れさせられません、もし入れたいというのなら死ぬ気で紅茶の勉強をなさい」
「そこまでの方なのですか」
「本当に紅茶を好きで楽しまれているのよ、それに答えなくて何のメイドですか?」
「メイド長、絶対にそれだけでは無いでしょう?」
「さぁ、仕事は沢山あります、さぼっている時間はありませんよ」
「はーい」
未来が楽しみな少年ですね、こういう方にお嬢様とは結婚して頂きたいものです....
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます