第37話 待ち伏せと友達

「翼様! おはようございます!」


《まだ明け方の3時30分、正直言ってお肌の大敵ですわ..ですがこの時間に来ないと翼様には会えません。》


「あれ? 麗美さんどうしたの?」


「いえ、これから天上家で朝練に行くのですわね..私も同行させて頂いても構いませんか?」


《まひるさんから情報を頂きましたの...この時間に翼様が出るというお話しを》


「別に構いませんが余り面白く無いですよ!」


「別に構いませんわ、翼様の強さを見たいのですわ...さぁさぁ車にお乗りになって」


《多分、この訓練を見れば、翼様の強さの秘密の一端が見れる筈です》




「まずまずの門構えですわね」


「おはよう!翼くん..げっ何で麗美がいる訳?」


《本当に嫌そうな顔をしますわね..》


「貴方に、麗美呼ばわりされる筋合いはありませんわ..まぁ今日は許してあげますが!」


「そう、じゃぁ後藤田さん、貴方は何の用なのかしら?ここは天上家の道場です...お引き取りを..」


《そうきますのね..》


「今日は見学にきましたのよ!」


「そうですか? ここは神聖な道場、まして早朝の特別訓練は師範クラスすら参加させていません、10年早いです!」


《そうそう自由にさせません..ええ》


「あら天上流とは凄く心が狭いのですね...」


「心が狭い..そうですか?それなら、特別に参加を許しますが..責任はとりませんよ」


《動物の解体を見て気絶でもすれば良いです》



「ええ、構いませんわ!」




「山に入りますのね?」


「そうだよ、僕の訓練の仕方は自然を使った物が多いんだ..」


「へぇー自然を利用するんですのね..」


《体を鍛えているだけ..今日は収穫はないかも知れませんわね..》


「ほほほ..若いお嬢さんには刺激がありすぎるかも知れませんのぉ」


「おじいさんは誰ですの?」


「儂の名前は天上鉄心..まぁ只の爺じゃ」


「へぇー有名な剣聖さんね..」


「少しは儂の名前も知れたもんじゃな」


「表の世界じゃ強いらしいですわね..」


「ちょっと、貴方、おじい様に失礼です」


「あら、ごめんなさい、私正直な物でして..強いのかも知れませんが、何故か怖さを感じない物ですから」



「それで、山で一体何をしますの..」



「うん、狩りをするよ」


「狩りですの..あの皆さん木刀しかお持ちでないようですが?」


「ここは道場よ...木刀を使うのよ」



「....要領を得ませんわね!」




「さてと、今日は大物狙いで行こう..鉄心さんはイノシシ、鹿、心美さんもそろそろもう少し違う物を狙ってみようか?」


「木刀で猪はちょっと辛そうじゃな..」


「そうだね、一撃で仕留めないと逃げちゃうから、その辺りが難しいかも..あと、必死で反撃もしてくるから注意も必要だね」


「真剣なら余裕そうじゃが..木刀じゃ難しそうじゃ」


「真剣でなら余裕でしょう..それじゃ訓練にならないじゃないですか..」


「そうじゃな..」



「翼くん、私は..」


「そうだね...じゃぁ心美さんは真剣を使って良いから鹿を狙って行こう..猪は反撃が怖いから今日は辞めておこうか?」


「そう..いきなり手強くなるのね..」


「最初は、角が短い弱そうなのを狙ってね」


本当なら、中間の生物が居れば良いんだけど居ないんだから仕方ないな。



翼様が何を言っているのか解らないですわ..


正確には解かっているけど..何をしようと言うんですの?



「そう、それで翼くんは後藤田さんと一緒なんだ!」


「だって仕方無いでしょう?」


「へーそう、私が大物に挑戦するのに、心配じゃないの?」


「心配なんてしないよ、信頼しているからね」



嫌だ顔が赤くなっちゃうよ...


「そう言われちゃ仕方無いわ、後藤田さん翼くんに変な事しないでよ..」


「流石に山の中じゃしませんわよ」


「そう、なら良いわ」




「さてと翼様は何をしますの?」


「いつもは何もしないんだけど..麗美さんは僕の強さを知りたいんでしょう?」


《こんなに探る様な目してたら解るよ...まぁ敵じゃないから殺気はないけど..》


「知りたくない無いと言ったら嘘になりますわね」


「それじゃ、見せてあげるよ」


《僕だって多少は見栄もあるからね..ギア2》



「凄いですわね..木刀でこんな大きな木が斬れますのね..」


物理的に出来ないのは知っていますわ、ですが國本も長ドスで石を割りましたわ、同じ事ができますのね。


そしてあの跳躍、まるで空を歩いているみたい..凄いですわね..まるで昔話の牛若丸ですわ


「多分、鉄心さんでも出来る事だから、そこまでの事ではないと思うよ..」


「そうですか? 私は剣技には疎いのでそんな物ですのね」


《違いますわ..天上鉄心は達人でしてよ..逆を言えば剣聖と言わしめた彼にしか出来ない、そういう事ですわ》



「さてと、麗美さんが見たいのはこんなのじゃなく、純粋な戦闘力ですよね」


「あらっそんな事はありませんわ」


「大丈夫ですよ隠さなくても、あの後藤田さんのお孫さんなんだから、そういう基準もあるでしょ」


《騎士の家の子と付き合うなら、その親は交際相手に強さを求める、貴族の子なら教養と家柄、後藤田さんの所は裏ギルドと似たような物だからある程度の強さが必要なのだろう》


「すみません、試す様な事をして..」


「大丈夫..家と家の付き合いには必要な事です」


《麗美さんはうちに挨拶に来る時、手土産を持ってきた。しかも高級品だ、翼の記憶にはこんな話は無い。これは前の世界でいう家同士の親交を深める、そういう意味があるのだと思う..辰雄さんや國本さんの話を踏まえると婚約という視野もあるかも知れない》


「家と家ですか..そんな事初めて言われましたわ」


《これは..凄い不意打ちですわね..私だけでなく、うちの事まで考えてくれますの? そんな人誰も居ませんでしたわ、油断したら涙が出てきそうですわ》



さてと、この山は今少しだけ危ない、この間殺した熊はメスの熊。


自分のつがいの相手を殺されたオスの熊が徘徊している..気を張って何時も居場所を特定していたが、心美さんや鉄心さんの事を考えたら狩るべきだろう。


「まひるとも仲が良いみたいだし、母さんも気に入っているから行こうか?」


「何処に行きますの..」


「見せてあげるよ..」




「嘘ですわよね! 流石にこれは..逃げないとまずいですわ..気が付かれる前に」


うん、熊だ..しかも思ったより大きいな、ただ、それだけ。


「大丈夫、もう相手は気が付いているよ..正々堂々と正面から行くよ」


「翼様、木刀じゃ熊は倒せませんわ..」


《真剣でも難しいですわ..もしかして、この人は..ただの馬鹿でしたの? 死にますわよ..》



「そんな事は無い、簡単さ..」


《はぁ、こんな生物を相手にするだけで心配されるんだな、オークより弱いのに..》




「冗談ですわよね..一緒に逃げましょう?」


「さぁ、熊こう、行くよ」


「がるるるるる!」


確かに普通の人間なら当たれば致命傷だけど、こんなのは交わすのは簡単だ。


《嘘、嘘嘘、熊の攻撃をまるで遊んでいるように躱しますの..綺麗》


熊が大振りで手を振り回してますが翼様にはかすりもしません。


しかもワザと引きつけてギリギリで躱します、こんなの人間業じゃありませんわ...


「この程度の相手なら結構、楽そうでしょう?」


「しっ信じられませんわ..」


「たかが熊ですよ! 倒す気になれば..」


躱すのはまだ解ります..相手は熊ですわ...木刀で無くて真剣でも死にますわよ。


牛ですらハンマーで叩いてもなかなか死にませんのよ..


まして相手は熊ですわ..そんな木刀で叩かれてもビクともしませんわ...


「そんな木刀で叩いても..そんな何で..」


「ねっ、簡単に倒せたでしょう?」


どうして、どうして木刀で軽く叩いただけで首が陥没しますの?


確実に死んでますわね..



「凄いですわ...本当に倒してしまいましたわ..」


「この程度なら朝飯前です」


ええっ本当に朝飯前ですわね。



「それで、翼さまは人は殺せますか?」


「進んで自分から殺したいとは思いませんが、敵対するならその手段も仕方ないでしょうね..」


おじい様や國本が気に入ったのも解りますわ..この実力で人を殺す覚悟もある。


私が望んでいたのは..待っていたのはこの人ですわ。


「はぁはぁはぁ..私、息が出来ない位感動してますの..翼様」


「はい?」




「翼くん、やっぱり熊を倒していたんだね、流石だわ」


「これは見事な熊じゃな」



《まぁ良いわ、時間はたっぷりありますから、絶対に私の者にしてさし上げますわ》



「あら、心美さんの鹿は随分小さいのですわね..」


「あんたね..これでも実際に狩るのは難しいのよ」


「そうなんですのね..でもおじい様の鹿は結構大きいですわ」


「そりゃおじい様は達人ですから」



「まぁ、心美さんがビリなのは確定ですわ」


だけど、関心しましたわ、この子はこれでも、生き物が殺せるのですわね。


こういう友達も居ませんでしたわ...この子ならきっと私の全てを知っても友達でいてくれますわね。


「心美さん、良かったら友達になりませんか?」


「何を言い出すのかしら? まぁ良いけど!」


「そうですわよね? 貴方も友達少なそうですから」


「失礼ね.喧嘩売っているのかしら?」


「違いますわ....貴方が男で翼様に会う前に会って居たら惚れていたかも知れませんわ!」


「あんた、まさか..そっちのけがあるの..」


「男ならと言いましたわ」


「そうよね、あれっちょっと待って同じような事最近誰かに言った気がするわ」


「そうですか、まぁ良いわ」



この方は何処までも真っすぐなのですわね..まぁ少し頭は可笑しそうですが..


だけど、もし心美さんが男だったら、多分責任も取るでしょうし、櫓錦とも死ぬ気で戦ったのでしょうね...


そう考えたら、今日は凄く良い事がありましたわ...。


「所で麗美さん!」


「何でしょう?」


「貴方も剣術、やらない?」



何か大変な事になりそうですわね..まぁ仕方ありませんわ..


「ええ、良いですわ」

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