第33話 心美の変身

「あはははっ動物を殺すのって楽しいわ..」


可笑しいな何を間違えたのかな..心美さんがまるで別人のようになってしまった。


可愛いウサギさん、何ていっていた彼女が..嬉々として動物を狩っている。


さっきも、ハクビジンを撲殺していた。


幾つも転がる小動物の死体の数、そして血塗られた服で心美さんは笑っている。


「いや、楽しまれても困るのだが..」


《何処で間違ったのかな、ただ普通に殺せるだけで良かったのに..喜んで殺すなんて..》


「やっぱり、剣は人殺しの道具、そう考えたら生き物を殺さない剣技なんて意味無いわ..ようやく解ったわ、翼くんありがとう!」


凄く綺麗な笑顔なのにどこかゾクッてする。


「どういたしまして」


笑うしかない、このまま行ったら、本当に人を殺しそうで心配だ。



「翼殿..こうなった責任は何時かとって貰うかも知れないの」


「何かすみません」


「まぁ、剣としては腕前は上がっているから文句も言いにくいがの」


そういう鉄心さんも頭の潰れた狸を手に持っている。


今日の成果は ウサギ6羽に、アライグマ2匹、狸1匹にハクビジン1匹 合計10 初級冒険者にしてはまずまずだな。


しかも、これ僅か3時間半だからね..だけど、朝がどんどん早くなって今じゃ3時起きになったよ。


「ねぇ、もう私高校に行く必要が無いと思うの? そう思わない? 今日も学校休んでこのまま続けない!」


「この間のは特別、ちゃんと学校に行かないならもう教えるのは辞めるよ」


「ごめんなさい」


「解ってくれれば良いよ」



今日の獲物をカゴに片っ端から詰めて天上家に戻る。


そして裏庭で..


片っ端から皮をはぐ..


「やっぱり、命を奪ったからには、余すことなく利用するのは義務だわ」


ハミカミながら心美さんは皮を剥いでいる、ナイフを器用に使いながら。


皮を剥いで肉塊の入った樽とその横の血だらけの皮がなければ天使に見えるような笑顔だ。


これは前の世界では普通に見ていた光景なのに、何か間違った気がするのは気のせいだろうか?



「剣を極めるには必要な事なのかも知れないが..何故だか俺は涙がでそうなのだが、何故だろうか?」


巌さんは悲しそうな目で心美さんを見ている。


「これは剣道じゃないわね..私には無理かもしれないわ」


百合子さんも遠い目で見つめている。




「そう言えば、この前は済まなかったの」


「そうですよ、お父様あと少しで大変な事になりそうでしたわ..」


「動物って簡単に殺したら不味かったのじゃな...儂が小さい頃は罠とか仕掛けて普通にとっていたからの」


「今は不味いらしいですよお父さん、幸い門下生に弁護士と警察のお偉いさんがいたから全部旨くやってくれたから良かったですが」


「世の中不便だの、儂が小さい頃はスズメをとってスズメ焼きにして食べたりしたものじゃ」


「今はもう令和ですからねお父様、いつまでも昭和の気分でいられても困ります」




狩り取られた命は干し肉になる為に干されていた。


皮も同じ様に剥ぎ取り水につけてある、後で陰干しする。



「天上流の道場が..猟師の家みたいに見えるのは俺だけかな..」


「言わないで貴方..」



「あの優しかった心美が、別人のように見えるのは気のせいかな?」


「本当に言わないで貴方...剣とは..色々捨てないと極められない物なのよ..きっと、多分」




「翼くん、これからシャワー浴びるけど良かったら一緒にどう?」


「いや、僕は門下生用のをお借りします」


「そう? 一緒に入りたくなったら何時でも良いからね..」



流石の僕でも冗談なのは解るよ。



「今日も飯は肉ばかりじゃの..」


「仕方ないじゃ無いですか? 翼さんやお父様に心美が狩ってくるんですから..」


「魚が食べたい..」


「何か言いました」


「いや..何もいっとらんよ」


「はい、翼くん、これね私が料理したんだよ、食べて」


まぁ、塩コショウでただ、焼いたウサギ何だけどね..


「ありがとう」




「行ってきます!」


「行ってきます...」



「心美、その恰好どうにかなりませんか?」


「お母さま、これは初めて私が狩ったウサギを翼くんが加工して作ってくれた物..宝物なの」


「そうですか? 心美が良いなら良いですが..」


心美さんは僕が作ってあげたウサギのポシェットを肩から下げているし、他にも毛皮を幾つか身に着けている。


何となく前の世界の駆け出しの冒険者スタイルに見えるが、周りからは不評みたいだ。


翼の記憶と併せてみると..確かにちょっとおかしい。


「流石に熱くない? ポシェット以外外した方が良いよ」


「翼くんがそう言うならそうする」



心美さんに手を引かれ走りながら学園へと向かった。


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