第32話 朝の出来事②

「お嬢どうでした?」


「残念ながら居なかったわ!」


「そうですかい、それは残念でしたね..」


「えぇ、だけど、ご家族に会えたからご挨拶してきたわ..あれだけの男、きっと沢山の敵がいますから、地道に固めないとね」


会って無いと聞いて機嫌が心配だったが案外機嫌が悪く無いな...


「そうですか、そう言えばプレゼントをご用意したんでしたね、一体何をお持ちになったんですか?」


「時計よ、大した物じゃ無いわ4つで1200万程度の安物よ!」


「......」


お嬢はズレていると思ってやしたが、此処までズレているとは思いませんでした。


「お嬢、普通は初対面で1200万の物を渡したりしませんよ」


「そうかしら? お父様はともかくとしておじい様は「幾ら使っても構わん」と言っていましたし、やっぱり最初からかました方が良くなくって」


確かにあの鬼神の様な男が手に入るならどれだけお金を使っても安いと思いやすが..もう少し常識を考えた方が良いかもしれやせんよ。


「ですが..」


「あらっもしかして足りなかったのかしら? 車かマンションの方がインパクトがあったかしら?」


「お嬢、落ち着いて下さい、お嬢は普段はそんなにお金を使いましたか?」


「使わないわ..ここぞという時だけよ!」


「そうでしょう! 普段は使いませんよね! お嬢がつけている時計、確か10万円ですよね..」


「そうですわよ! これはお父様が誕生日に買ってくれた物ですわ..余り高級な物は良くないと..あれっ私、可笑しかったかしら?」


「会長は欲しい物を手に入れる為にはお金に糸目をつけないタイプです。一般人からかけ離れていやす、お父様の竜星さんの方がまだ真面ですから今度からはお父様にご相談した方が良いかと思いやす」



《確かにこれは行き過ぎたかも知れないわ..だけど、あんな王子様みたいな人に安物なんて似合いませんわ、次はバイクかフェラーリ辺り、案外マンションも良いかも知れませんわ》


「ですが、それでもあえておじい様の方法を取りますわ! 欲しい物を手に入れているのはおじい様、お父様ではなくってよ? 私、今迄本当に欲しい物なんて無かったのですわ...ですが、翼様は絶対に欲しいのですわ、何と引き換えにしても....だったら欲しい物を確実に手に入れているおじい様を見習うのは当たり前なのですわ」


「まぁ 私如きが口を出す問題じゃないですが..頑張って下さい..」


「言われなくても頑張りますわ、それで、手筈はどうなってますの?」


「ちゃんと、お嬢の転校は済ませてあります、そしてクラスも一緒になるように根回し済みです...なぁに、あの学園の教頭と教師がうちの系列の金融からちょっと摘まんでいたので..」


「その話は私に言わなくても良くってよ..私には結果のみ話なさい」


「解りやした」


お嬢は子供のくせに、こういう所はまるで会長そっくりだ..目的の為には手段を選ばない。


最近はあの魔性と言われた亡くなった姉(あね)さんに似て来た...だが中身は..会長に限りなく近いのかも知れない..


「人の顔をまじまじ見て失礼ですわね..」


「いや、お嬢、すまねぇ」


「まぁ身内だから気にしませんが...そんな目で私を見たら..」


「いや、お嬢..」


「殺したくなってしまいますわ」


「....」


「冗談ですわよ? あははははっ何黙っているの?」


「いや、何でもありやせん」


これでも人を殺した事があるんだが、会長やお嬢のこの目はいけねぇ生きた心地がしねぇ。




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